「⋯ッ!」
瞬時、全身に強烈な衝撃が走った。
ヤツの突撃から伝わったものだった。
こいつ、"ただの口だけ"じゃない。
油断すれば、確実にやられる。
そう思った時、身体は自然と反撃していた。
押し返すと、ヤツは大きく後ろに下がり、
「さすがだね、これを防ぐなんて。でも"6年間"、僕だってあっちで努力してきたんだ」
「さっきから何なんだよお前、俺と会った事があるみたいに」
「あるよ、何度も何度も。ちょっと前だって"話した"しね」
こいつ、俺の事をよく知ってる?
声が加工されていて、よく分からない。
6年間って、6年前は俺が"中学3年生"だ。
それに、俺とこの前まで"話した"?
⋯そういうことな
昨日深夜のユキの言葉がフラッシュバックした。
♢
『うん。似てたけど、違ったらわるいかなーって思って話しかけなかったけど⋯話しかけた方が良かったかな』
♢
確信に変わった瞬間、俺は自然と笑みが出た。
「んだよ。帰って来てたなら、早く家来いよ」
「帰ってきたの1週間前だからね。すぐこんなのに巻き込まれて、最悪だよ」
そう言いながら、黒能面が外され、
「それに、こうした方が驚いてくれるかなって」
変わらない顔がそこにはあった。
正直涙が出そうになったが、ぐっと堪え、
「何されても驚くに決まってんだろ、日本にいるなんて思わねぇんだから」
「⋯そっか、急にこんな事してごめんね。どうしても久しぶりにルイ君と勝負したかったんだ」
「言えばいつでもやってやるよ。別に、こんなタイミングじゃなくたって」
「いや、今じゃなきゃダメなんだ。お互い培ってきたものを知らない、今じゃなきゃ。そうじゃないと、君に一つでも知られれば、勝てないだろ?」
「んな極端な。俺はAIじゃねぇぞ」
アスタの顔は、どこか嬉しそうに見えた。
俺も同じ気持ちだ。
またこうやって話せる日が来るなんて。
変な事せず普通に会いに来いよ、ほんと。
「あれ、ルイ? まだ入ってこないの?」
数分アスタと話し合っていると、ユキがひょこっと顔を出してきた。
ユキは一瞬気付かなかったが、数秒でアスタだと気付いた。
「え!? アスタ君!?」
「久しぶり、新崎さん。また美人になったね」
「あなたこそ、さらに大人っぽくなったというか⋯ねぇねぇ、2日前に渋谷駅地下にいた!?」
「あぁ、いたよ。もしかして見かけた?」
「うん、見かけた! ルイにも話してたの、似た人いたよって」
「そうだったんだね、話しかけてくれてよかったのに」
「そうすれば良かったわ、でも急いでもいたしね」
3人で話していると、中学時代に戻ったようだった。
以心伝心のように、話したい事や話してる事が伝わってくる。
やっぱりこの感じは、昔から付き合いあるヤツとしか味わえないな。
こんな状況じゃなきゃ、皆で焼き肉でも行きたいのに⋯
「さて、ルイ君。いろいろ話したいとこだけどさ、"さっきの続き"、してくれないかな?」
「は? まだやんのか?」
「決めとこうよ。今は"どっちが強いのか"を、ね」
「⋯しゃあねぇな」
「なになに? 二人で何してたの?」
「ちょっとな。ユキはそこで見ててくれ」
「邪魔はしちゃダメだよ、新崎さん」
アスタはそう言いながら、黒能面をまた付けた。
広い場所に変えた俺たちは、充分な距離を取る。
「もう! 言っても聞かないんだから⋯ケガとかないようにね。ルイ、起きたばっかりなんだから」
「わかってるって」
俺はもう一度〈ゼロインフィニット・アークイーリス〉を取り出した。
アスタも青黒い剣を再び出現させる。
まるで会いたかったというように、お互いから羽根が散った。
「そんじゃ次は俺からな」
「いいよ、来な!」
たぶん、勝負の結果なんて本当は気にしちゃいない。
ただ楽しみたい、ぶつかるだけでそれが伝わってくる。
「⋯負けたよ」
刃先が首の前で止まった時、アスタはそう一言呟いた。
俺の前に"あの剣"は届いていない。
アスタの一瞬より、俺の一瞬が上回ったからだ。
「負けだ、負けッ!! 負けだーッ!!!」
その場に寝っ転がったアスタは叫び始めた。
「アスタ君速すぎない!? それに勝つルイ、意味分からないんだけど⋯」
「⋯"この黒い能面"を付ければ、"身体能力1.5倍"になるのに」
「え!? そんなのがあるの!?」
「この前たまたま手に入れたんだ。"七首黒能面"っていうのを倒してね。それでもルイ君には勝てなかったんだよ? おかしいって⋯」
「アスタ君、それはルイがね、"イーリス・マザー構想の成功者"ってのもあると思う」
「はぁ!? え!? ルイ君そうなの!?」
「ま、まぁそうらしいけど関係ねぇよ、気にすんな」
「いやいやいや、関係ありすぎでしょ!? なんでルイ君が成功者だって分かるの?」
「こっちでいろいろあってね」
「⋯そう。だとすると、なんか今までの事、全部納得いったかも⋯はは⋯ははは」
アスタが壊れた。
ちなみに、アスタの剣には"EL"と書いてあった。
その後、俺は無事会議に参加出来たわけだけど、そこには豪華な食事と席が待っていた。