第二部☆金星のリラ
第二章☆金星人のプレート
「ここで水を濾過して生活用水にしている。濾過する装置は宇宙開発の最先端のテクノロジーを応用しているんだ」
施設を案内しながら、リラシナが言った。
ミリーは興味深く話を聞きながら施設を見学した。
ミリーのお腹の音がして、彼女は笑ってごまかした。
リラシナは彼女の空腹を見てとって、施設から出ると、貯水池の管理人専用の住居へミリーを案内した。
「ここに住んでいるの?」
「いや。普段は他の人達と暮らしている」
リラシナは慣れた様子で調理器具を用意すると、保存食から材料を見繕って食事を用意した。
ミリーは温かい料理にありついた。
食卓の真向かいの椅子に腰かけて、リラシナはミリーをじっと見ていた。
「君は金星人じゃないね」
「・・・。ええ」
食事を終えたミリーはナプキンで口を拭うと、真正面からリラシナの目を見た。
「なんて・・・瞳だ!」
リラシナは思わず呟いた。
さっきまでの無邪気な少女はそこにはいない。瞳の奥に燃え盛る緑の炎がちらついていて、全身から気迫をひしひしと感じた。
「・・・僕には、微弱な予知能力があってね・・・。君が来るのを知っていた」
「⁉」
ミリーは怪訝そうにリラシナを見た。
「君を援護することにする」
リラシナは立ち上がった。
「まず、金星人の身分証のプレートをあげよう」
そう言って、隠し戸棚からまっさらなプレートの束を取りだし、名前や性別などの個人情報を入力する装置を用意した。
「僕もこれでここにいられるんでね」
リラシナは自分の服の袖をたくしあげて腕のプレートをミリーに見せた。
「あなたも金星人じゃないの?」
「元はね。・・・でも今はれっきとした金星人だ」
手早くプレートを造り上げると、リラシナはミリーの腕にそれをはめた。
「生まれつきの金星人はこのプレートをはずすことはできないけれど、君はいつでも自由にはめはずしできるよ」
「あなたのもそうなの?」
「うん」
リラシナはにこやかに微笑んだ。
ミリーは気迫を引っ込めると、心を落ち着かせて、リラシナをじっとみつめた。
茶色いさらさらの髪、茶色い瞳。ネイビーブルーの服を着て、すらっと背が高い。笑顔が良い好青年だ。
「僕らが住んでいるところに君も来るといい」
「君じゃなくて、ミリーって呼んで」
「オーケイ。ミリー」
「あなたのことはリラシナって呼んでいい?」
「いいよ」
リラシナはプレートの道具類をしまうと、食器を洗浄機にセットして、二つのグラスに水をついできた。
「ここの水の味をみてもらえるかな?」
「ええ」
二人は水を飲んだ。
「お酒を振る舞われたことはあっても、水を振る舞われたことはなかったわ」
くすくすとミリーは笑った。
「命の水だよ」
「ええ。美味しいわ」
二人は微笑み合った。