第二部☆金星のリラ
第一章☆青年リラシナ
学校の旧校舎に住んでいる人達がいた。
年齢はさまざまで、自由な意志を持っていた。
青年リラシナは、妹のパイソンと共にどこからかフラりとやって来て、ここの一員になった。
「兄さん、また昼間から寝てるの?」
洗濯物を取り込みながらあきれ顔でパイソンが言った。
ベランダに置いてあるカウチに横になって微睡んでいるリラシナ。
「・・・。火星からの貨物船がきた」
不意に何か感じて両目を開くと、上空を覆う分厚い雲を見上げ、はるか彼方を通過する船に意識を集中した。
「始まりの始まり。初めに始まりありき」
そう呟くと、再び目を閉じた。
金星は濃硫酸の雲と雨の灼熱の星だったが、巨大な氷の衛星をいくつか運んで来て中和させることによって現在テラフォーミング化されている。
この惑星では水を制する者が人を制する。だから日がな一日寝ているように見えるリラシナが、貯水池の管理をしているため、皆は彼を大切に扱っていた。
昼過ぎの時報の曲が辺りに流れた。
リラシナは起き上がると、人知れず抜け出して、貯水池へ向かった。
高い柵の手前に見慣れない少女がいた。
「一般人は中には入れないよ」
リラシナが声をかけると、少女が振り向いた。
「きれいな娘だな」とリラシナは思った。
「どうしても、中が見たいの」
「・・・しょうがないなぁ」
指紋認証式のロックを解除すると、ゲートを開き、リラシナは少女を中へ入れた。
「今回だけ特別だからね。僕から離れちゃ駄目だよ。あと、この事は誰にもナイショ」
「ありがとう」
少女は微笑した。
「僕はリラシナ。君は?」
「ミリー」
「いい名前だね」
「ありがとう」
初対面の二人はお互いに好印象を抱いた。