ShortStory2 - Episode 3


「フギン、ムニンに登録してあるコスト使用系の陣で戦闘用の奴って何個ある?」

『検索開始……強制強化陣【過ぎた薬は猛毒に】、強制弱体陣【毒を喰らわば皿まで】、簡易罠設置陣【足元注意!(ブービートラップ)】の3種になります』

「あー【足元注意!】があったか……よし。使ってないし【足元注意!】は改変素材の方に回して。代わりに今作成中の陣に同じコスト引っ張るよ」

『了解』


そうしてコストを決定、名称を決定した後に陣のデザインを簡単に決める。

全てを同じデザインにしても良いものの、それはそれで芸がない。

私自身は動画を録画して投稿、なんて事はしていないものの、公式イベントや知り合いと共にダンジョンなどを攻略する時には一緒に映ったりはするのだ。

見栄え自体は気にして損は無いだろう。

特にこの世界ではPvPに触れるつもりはないし、どんなものを使っているか把握されて痛いという事もない。

解析されたとしても……そもそも『自律陣』を扱えた所で【フギンとムニン】と似た魔術が無い限りは私と同じ速度で『自律陣』を展開することなど不可能に近いのだから、問題はない。


「よし、作成終了。保存と展開よろしく」

『確認。環境適応陣【北風と太陽】展開』


瞬間、私を囲むように小さな陣が……デフォルメされた向日葵の意匠がされた陣が複数出現した後に消えていく。

視界の隅に存在している簡易ステータスに目を向ければ、そこには【環境適応:寒】という文字が見え、今しがた作成した『自律陣』がしっかりと効果を表しているのが分かる。


「カウントよろしくね」

『了解。効果切れ1時間前に再度アナウンスします』

「あは、じゃあ行こうか……上に」


そう言って、私は足に力を込めて空を跳ぶように移動する。

ダンジョンはまだ肉眼では見えない。



――――――――――



そして時間は現在へと戻る。

目の前の白竜の爪撃を自動防御陣【スヴァリン】によって防ぎながら、私は考える。

このボスはどうやって攻略すべきなのか、と。


……恐らくはギミック型。それも試練型かなぁ。

ラードーンという竜は、ギリシア神話に登場する黄金の林檎を守る竜、もしくは蛇の名称だ。

目の前の白竜には無いように見えるものの、百の頭を持つとされ、それによって眠らずに番をしていたとされている。

だがしかし、ある時ヘラクレスがヒュドラの毒を塗った矢を使い、ラードーンは殺されてしまったという。


つまりは殺せるタイプだ。

神話の中には首だけになっても生きているタイプや、そもそもが不滅の存在だったりと面倒な相手が多いものの、今回そうではないというのが分かってまず一安心するべきだろう。


だがしかし、2つの問題が浮かんでくる。

1つは単純にどうやって倒すのか。

このArseareというゲームは元ネタに忠実にボスや魔術を創る傾向にある。それも、出来る限りのスペックを使ってだ。

私の【裂け目を開け】や知り合いである灰被りの【灰化の魔眼】を筆頭に、元ネタが存在しているものは出来る限り元ネタに寄せていく。


だからこそ、現在私の目の前に存在しているラードーンは奇怪に見える。

元ネタを考えるならば頭が百もある竜であり、その死亡例に則って毒を使えば特攻なりなんなりが入るのだろうが……そもそもアレが本当にラードーンかどうかも怪しいのだから、毒を使うのが正解かどうかも分からないために倒す方法が思いつかないのが1つ。


2つ目はもっと単純に、私の魔力が続くかどうかの問題だ。

普段からソロプレイをしている以上、その手の回復系は豊富に用意してあるものの、もしも切り札を何枚か切らねばならない状況になった場合、それすら怪しい量しかない。

だからこそ、出来るのならば早めに決めてしまいたい所ではあるのだ。


……まずは視るべきかな。

その2つの問題を抱えた上で、私が選択したのは相手の情報を正しく読み取る事だった。

目の前の存在が本当にラードーンなのか、それ以外かによってとるべき方法は変わってくる。

そのままラードーンであったなら、まだ本気を出していないだけと断定してもいいのだが、もしもラードーン以外の名前が出てきたのなら、根本から戦術を変える必要も出てくるからだ。


「フギン、【過ぎた薬は猛毒に】を鑑定特化。次いで【ウアジェトの目】」

『了解』


言うと同時、私の目の前に2種類の『自律陣』が出現する。

片方はデフォルメされた研究者のようなものの意匠がされた陣。

もう片方はデフォルメされたコブラの意匠がされた陣だ。

それらが消えると同時、私の身体……主に左目に痛みが走るものの……自分で考え起動させたものだ。甘じて受け入れよう。


【過ぎた薬は猛毒に】の効果は簡単に言えば、インベントリ内に存在しているバフポーションの効果を限界まで引き上げた上で、自身にその効果を適用する『自律陣』。

代わりに効果時間が著しく短くなるものの、戦闘中ならば5秒もあれば十分だ。

そしてもう一つ、同時に起動させた【ウアジェトの目】はと言えば、


『……その目、我の深淵を覗こうとするか』

「あは、やっぱり分かります?」


元ネタであるウアジェトの目よろしく、起動時に対象にとった相手を強制的に鑑定、ステータスなどを看破する『自律陣』だ。

そんな陣を一時的に【過ぎた薬は猛毒に】のバフによって強化し、相手の耐性を無理やりに突破して鑑定を行う。

相手が変な事をしていない限り……偽装などにステータスが割り振られていない限りはこれで名前どころか弱点、相手のHPの実数値まで分かる鑑定コンボである。