「残ったのは混沌と死霊……字面だけ見ると、それこそ魔術っぽいのが残ったわけだけど」
「まぁ否定はしないわ。肯定もしないけれど。先に死霊の方からにしましょう」
死霊術。
私が知っているその概要は、霊を呼び出して色々とする、くらいの認識。
次いで、先程教えてもらった喚起魔術の一部でもあるという事だ。
「死霊術っていうのは……まぁ大まかにいえば、喚起魔術とそう変わらないわ」
「霊を呼び出して使役するから?」
「そうよ。まぁ使役、というよりは呼び出して生前の事を話してもらったり、こっくりさんみたいに聞きたい事をきいたりするのが死霊術の本来の使い方ね」
本来の、という言葉を付け足したということはつまりはそういうことなのだろう。
勿論、今説明してもらった事もゲーム内では出来るはずだ。
しかしながら、Arseareではそれが本筋ではないということだろう。
「想像の通り、Arseareだと死霊術は主にそういった用途では使われてないわ」
「じゃあアレ?よく読むフィクション作品みたいにゾンビとか操って戦うとか?」
「そんな感じね。ゾンビから蛆、スケルトンなんかも操るでしょうし……それらを組み合わせて新しい死霊を作り出すのも、この世界でいう死霊術になるらしいわ」
「……研究職?」
「まぁ近いかもね」
恐らくは錬金術のホムンクルスに近い死霊を作ることもできるのだろう。
問題は、作れるのが外側の身体だけであって、それに見合う
そういった存在が居るのかなんて疑問は野暮だろう。
そもそもとして精霊なんてものが居る世界だ。居てもおかしくはないし、むしろ居ない方が心配になる。
「私は取らなそうだなぁ。キザイアは取ってるの?」
「占い程度の魔術は一応。これでも魔女ですから?」
「……さて、次いこっか」
「おい、こっちの目ェ見ろテメェ」
一息。
「残ったのは混沌魔術……ケイオスマジックと言われるものね」
「色々と危なそうな匂いがする名前だけど、実際どんなものなの?他と違って内容が想像できないんだけど」
「まぁ、そうね……混沌魔術は色々あるのよ。それこそ、既存の他の体系の技術を借りてたりとか、別々の体系の物を組み合わせたりだとか、独自の物を編み出したりだとか。本当に様々なの」
どうやら、混沌魔術の『混沌』という名前はその名の通り、物事が入り混じっているからこそ付けられているようで。
想像していたような触手なんかを扱う魔術ではないらしい。
「一応、シギルっていう印章を使った魔術を扱う事でも有名だったりするわ。個人的にはルーン文字が元になっていると思ってるから、結局の所混沌魔術ってのは借り物だったりを上手く組み合わせて魔術効果を作り出すもの……って認識かしらねぇ、アタシは」
「成程ね?印章ねぇ……」
「あら?もう見たことあったりするのかしら」
「ないよ。ないけど……まぁ少しだけ興味があるかなぁ。キザイアの方でもう印章ってのは見つかってるの?」
私の問いに、彼は一瞬考えこむように顎に手を当て俯き。
そして数秒後に顔をあげた。
「一応、この前に行った北側の第2マップの街に初歩的なものがあった気がするわ。アンタ、あそこに行った事ってある?」
「ないねぇ。まぁ散歩がてら行ってみるよ」
「……はぁ、なんか結局色々話しちゃったわね。参考にはなったかしら」
「そりゃあもう。色々と考える事が増えたけど、中々興味深かったしね。ありがとう」
確かに考える事は増えた。
自身の持つ魔術についての認識が変わったし、何より魔術が根付き、魔術を創ることが出来るこの世界で、教えてもらえた事は確実に何処かで活かせるだろう。
「あ、じゃあこれあげる。うちのダンジョンのボス素材」
「は?いや、なんで……」
「ん?いやいや。流石にここまで時間取って話してもらったんだから対価は払わないとでしょ?」
お礼として劣化ボスの物にはなるものの、『白霧の森狐』の素材を複数……私が使う量を残して全てキザイアへのトレードに出した。
少しだけ困惑したような顔をしたキザイアは最終的に額に手を当てながらため息を吐き、それを承認する。
恐らくは額に手を当てるのが癖なのだろう。何とも難儀な癖なのだろうか。
「……一応、今回は受け取っておくわ」
「うんうん。よし、今日はここで終わりってことで!今度一緒にダンジョン攻略でもしよう」
「アンタ、馬鹿ってよく言われない?」
「ふふ、馬鹿とは言われるけど天才ともよく言われるよ」
「……確かに天才かもしれないわね」
皮肉で言われているのに気が付きながら私は笑顔で返す。
彼もそれが分かっているのか、嘆息しながら笑顔を浮かべた。
敵同士ではあったものの、結局こうして話してお茶が出来るのだからゲームはいい。
誰も死なないのだから。
……次は、雪国かな。
キザイアと別れ、私は空を見上げる。
そこには霧に遮られていない、綺麗な晴天が広がっていた。