ShortStory1 - Episode 4


「あと6個だっけ……何があるの?」

「高等、低次、召喚、喚起、混沌、最後に死霊ね。この中でも低次魔術に関しては、正直魔女術に加えてもいいかもとは思ってるけれど、分けておいたわ」

「ふぅん?アレ、錬金術ってないの?このゲーム」

「あー……一応あるにはあるけれど。私の独断で外してるのよ」

「そいつぁ一体なんで?」


錬金術といえば、有名な漫画から広く一般的にも広がった、卑金属を黄金へと変換する術の事。

やっている自体は魔術として見てもおかしくないくらいには不思議ではあるのだが、キザイアは首を横に振った。


「あれは結局の所、魔術じゃなくて化学とかそこらへんの分野の物なのよ。確かに魔術らしい一面もあるし、このゲームでいう錬金術はMPを使ってアイテムを変換とかやってるから問題ないのは分かってるんだけどね」

「あー、元々アレって薬品とか使って変化させようとしてたんだっけ」

「そうそう。だからこそ今回は省くってだけよ。それこそこの前やったイベントの決勝には使ってるのがいたでしょう?」

「いたねぇ、あんだけホムンクルスを操れるんだったら結構な戦力になるとは思うけど……その分だけコストも掛かるって事だろうしね」


イベントで灰被りと対決していたRTBNというプレイヤーが使っていたホムンクルス達。

確かにあれらを扱えるのならば、ソロで対応できるダンジョンが劇的に増えるだろう。

運用コスト面を考えない場合に限る話ではあるのだが。


ホムンクルスを作るのにどれほどのコストが掛かるのか、私は知らない。

それこそ何かしらの魔術を創り、デメリットを抱える事で作成コストを軽くしている可能性だって考えられるのだ。一概に「これ」と言えるような素材はないだろう。


「まぁ、錬金術についてはまた今度にしましょう。今は魔術よ」

「ほいほい。……で、低次は魔女術に加えてもいいとか言ってたけど、それは一体?」

「まぁ他のも一応言えることではあるんだけど、低次魔術に関してはそれに分類されるものがおまじないだったり、所謂魔術書に書かれてる古い魔術だったり、魔女術の分野に被ってるものが多いのよ」

「……あー、成程ね?だから一括りにしてもおかしくはない、と。じゃあ逆に高等ってのは?名前的に低次と対になってそうだけど」


高等魔術。

ゲーム的な思考ならば、今まで使ってきた魔術よりも高度で効果の高い魔術と捉えられるが……恐らくは違うのだろう。


「高等魔術は……まぁ色々と言えるわね。低次と違う所は迷信みたいなおまじないなんかの術を使わず、理論的、実践的に考えられ作られた術を使って自己目標を目指す術よ」

「……自己啓発?」

「似たようなものね。調べればわかるとは思うけど、高等魔術は意識制御系の魔術らしいから」


思った以上に難しい分野の魔術だったらしい。

心理学とかそういった現代の知識や技術を使い、精神的に魔術を用いて目標に向かっていくものなのだろう。

確かにおまじないや魔導書に載っている魔術とは違う、しっかりとした理論の元成り立っているものだ。


「成程成程。あとは召喚、喚起、混沌、死霊?召喚と喚起って同じ意味じゃない?」

「まぁ同じようなものだけど、扱い方が違うから分けられてるのよ。……そうね、召喚の方は神を、喚起の方が霊を呼び出すものって言ったら違いが分かる?」

「あー……なるほど。召喚の方が色々と上位の存在を呼び出すってことか」

「まぁ後で話すけれど、喚起の方は死霊術と一部被ってるともいわれる事があるわ。まぁどちらも死霊という対象をとるから仕方ないところね」

「確かに死霊術とかそのままだしねぇ」


召喚魔術と喚起魔術。

恐らく、上位の存在に呼びかけ力を貸してもらうのが召喚魔術。

下位の存在である者達を呼び出し、その力を行使するのが喚起魔術なのだろう。

目的の違いによって分かれていると考えた方がよさそうだ。


「元々、召喚魔術っていうのは神を自らに降ろす……所謂神憑りってヤツを起こす事らしいのよ。自分を乗り物とかに例えて、乗車する方々に来てもらう……みたいな」

「じゃあ喚起魔術の方は?」

「そっちは一定範囲内、特定の領域に呼び出した霊や悪魔なんかを目的のために働かせるための物ね。有名なオカルティストのアレイスター・クロウリーはこの2つの事を『杯の業』、『剣の業』と定義したそうよ」

「……『杯の業』、『剣の業』、ねぇ。普通に今後ゲーム内で聞きそうだなぁそれ」

「聞くでしょうね。まぁ召喚や喚起に関わるなら、って感じではあると思うけど」


思えば、私の扱う【血狐】と【霧狐】は喚起魔術に相当するのだろう。

キザイアはしっかり見ていないのかもしれないが、既に片足をその道に突っ込んでしまっている私にとって、この話は他人事ではない。

今後の等級強化、そしてそれ以外のコンテンツの事を考えると中々に面倒なものが待っていそうだと1つため息を吐く。

残りは2つ。混沌と死霊だ。

どちらも字面からは良い印象は受けないものだが、実際どんなものなのだろうか。