Chapter7 - Episode 28


キザイアとのダンジョン攻略終了後。

私は『惑い霧の森』の深層に訪れていた。


馬鹿狐、巫女さんの2体のボスが存在するこのダンジョン内には、現状もう1つのダンジョンが存在している事になっている。

『神出鬼没の地下湖畔』……今回のダンジョン攻略での一番の報酬と言っても過言ではないかもしれないモノだ。

巫女さんに寄れば、現在そのダンジョンは深層の一区画を陣取っているようで。

早めに安定させねば少しばかり不具合が生じるかもしれないとの事。

だからこそ、自由に動ける私がそこへと向かっているのだが、


「何こいつら?!」


見えているだけで、3種類の新種の敵性モブと接敵していた。

霧を纏っているタコ。

身体の一部が揺らいでいる、空中に浮かぶジンベエザメ。

そしてそのジンベエザメの腹部に引っ付いているほぼ霧で出来たコバンザメの群。


明らかに今までの深層の敵性モブとは違い、海洋生物に寄ったラインナップだ。

それに加え、このモブ達の能力は中々に酷い。


タコは空気中に墨を吐いたかと思えば、その墨に触れた者を敵味方関係なくランダム転移させる能力。

コバンザメは1体では特に問題のある能力は無いものの、引っ付いている相手を転移させる能力。

ジンベエザメは特に能力を使っているようには見えないものの、他に出現する敵性モブとはスペックが数段上のように感じる。


「あぁーもう!【血狐】!」

『――遊撃』


『瞬来の鼬鮫』に会いに行こうとしただけなのになんだコレはとは思いつつ。

私は周囲の霧を操り『狐軍奮闘』を展開しつつ、私は【魔力付与】を使い『面狐・始』に魔力の膜を纏わせた。

今回は届けば幸いの大太刀レベルの長さで、狙うはタコ……ではなく。

ジンベイザメに引っ付いている無数のコバンザメだ。


3種の中で一番に凶悪な能力は何か、と言われれば私は間違いなくコバンザメと即答するだろう。

タコはある程度の距離さえ取っていれば問題はない。

ジンベイザメはその巨体によって、そもそも森の中では小回りが利かない為、簡単に攻撃する事が出来る。

では、コバンザメはと言えば。

引っ付いてさえいれば転移させる能力を持ち、尚且つ引っ付いている間は支援射撃のように水弾を撃ってくる。

現在はジンベイザメに引っ付いている為、そこまで影響はないものの……これがミストヒューマンやミストスネーク、ミストベアーなんかに引っ付いていた場合、面倒どころの騒ぎではない。


ここで逃げられても困るし、いつ転移してくるかも分からない増援が怖い為……私は短剣を振るう。

幸いにしてHP自体は低く設定されているのか、コバンザメは【魔力付与】が付与された短剣の刃が触れるだけで光の粒子となって消えていく。

それと同時、【血狐】がジンベエザメに纏わりつき動きを止める。


「渦」

『――了承』


私の声と共に【血狐】はその身体を渦のように変え、ジンベエザメの巨大な身体に切り傷を無数に作っていく。

硬化と液体化を延々繰り返しているのだろう。

……あっちは終わりそう。じゃあ後は……。


「【衝撃伝達】」


『瞬歯の首飾り』による転移によって、タコの背後へと回り込むと同時。

軽く片足を上げ、魔術言語によって氷柱のような鋭い氷を創り出してからタコを蹴る。

あまり勢いをつけずに蹴ったものの、ドパンという音と共に氷柱が砕けタコの身体が錐揉み回転して吹っ飛んでいく。

その際に墨が周囲に撒き散らされたものの、幸い私に掛かる事はなかった。



「……終わったかな?終わったね?」


意外と呆気なく終わった戦闘に周囲を警戒しつつ、掲示板に注意するように書き込んでおく。

管理者として、初心者がアクセスしやすい場所に存在するダンジョンだからこそ面倒な敵性モブが出てきた時にはしっかりとアナウンスする必要がある。


……多分、【狐霧憑り】の試運転の時の転移してきたのってコバンザメ系のモブだよねぇ。

『駆除班』や、常連のようになっているプレイヤーも探ってくれていたようだが……正体不明だったソレ。

新種のモブだろうと考えてはいたものの……恐らくは力が不安定で霧に溶けてしまっていたのだろう。


「うーん……『瞬来の鼬鮫』がここのダンジョンに入ってきたから姿形が定着した?あり得るのかなぁ」


何にせよ、偶然とは言え原因不明だったものに説明がつくようになってくれて助かった。

その分、深層の生態系やらパワーバランスが崩れていそうだが……まぁそこは巫女さんとサメが話し合う事だ。

私が仲裁するものでもない。


だが1つ、問題があるとすれば。

タコの所為で【霧式単機関車】を迂闊に使えなくなってしまった点だろうか。

走っている時に墨に【霧式単機関車】が触れて変な場所に転移してしまったら困るからだ。


「……【血狐】、その身体って波みたいに出来るよね?」

『――……可能』

「私が指差した方向に進めるよね?途中で何か巻き込んでも圧縮できる?」

『――……可能』

「よし、やろうか」


魔術言語で即席の氷の船を創り出し、嫌な雰囲気を出している【血狐】を無理やり波になってもらって移動を開始する。

その後、木に激突して諦めたのはまた別の話……にしておきたい。