Chapter7 - Episode 18


『ヂジュッ!』

「はい獲ったァ!」


キザイアの人面鼠の魔術【ジェイキン】が、人型の敵性モブに襲い掛かった所で私が一気に距離を詰める。

【ジェイキン】を振り解こうとしているソレは、瞬間的に近距離へと近付いてきた私へと対処が間に合わない。

『面狐・始』による横一線の斬撃が首へと吸い込まれ、そのままの勢いで首が飛んでいく。

だがそれだけで終わるなら苦労はしない。

まだ私へと攻撃しようと腕をこちらへと伸ばし始めたそれに対し、私は自身の周囲に纏っている霧を操り内部に隠された霧の刃を襲わせる。

先ほどまでの『面狐・始』での首飛ばしとは比較にならない速度でそれの全身が傷付き、やがて動かなくなる。


油断はしない。

まだ動くかもしれないと霧の刃を待機させていると、光の粒子となって消えていくのが見え息をつく。

戦闘終了だ。


「終わりぃー。お疲れ」

「お疲れ様。対応できるじゃないの」

「結構無理してるんだけどね、今」


こちらへと近づいてくるキザイアに言葉を掛けつつ、私は霧を操り魔術言語を構築し氷を複数作りだす。

強い日差しの中、フィールドで使っていた水を延々と作り出すのは少々効率が悪い。

あまり広く霧を展開しないのであれば、巨大な氷を複数生成し所持していた方が燃費が良いのだ。


現在、私達2人は『神出鬼没の古戦場跡』へと侵入して探索を行っている。

ダンジョンの難度は7。ついこの間のイベントで私の管理するダンジョンが同じ難度になっていたが、それと同じという事はそれだけ敵が強いか面倒かのどちらかであり……何度か戦闘を行った結果として、私は特性側が面倒であるからこそこの難度なのだと理解していた。

今まで戦った敵性モブは3種類。

メタスタスケルトン、メタスタコンドル、そして先ほど戦闘を行っていたメタスタゾンビだ。


『神出鬼没』の所為で突然私達の周囲10メートル以内へと転移してくるそれらは、やはり面倒で。

例えばメタスタコンドルならば、転移と同時に空中へと飛び上がり周囲のまだ転移しておらず私達を認識していない敵性モブを呼び寄せる鳴き声を発し始める。

メタスタゾンビは集団で転移してくることが多く、先ほどのように首を飛ばした程度では死なない耐久力も相まって面倒な集団戦をしなければならない。

そして最後にメタスタスケルトンなのだが、


「あ、また来た」

「……こちらとしてはありがたいとしか言いようがないけど、可哀想にはなるわ」

「右に同じ。とりあえず潰してくる」


通常、Arseareにおけるスケルトン種は何かしらの装備を付けてスポーンすることが多い。

よくあるファンタジーの冒険者のように、ボロボロの鉄の剣や杖を携え、革の鎧やローブを着た状態で襲ってくるのだが……それが現在私達が居るダンジョンでは相性が良くなかった。

結局の所、『古戦場跡』とは言っても【砂漠】の影響を受けているためか地面はしっかりした土ではなく、柔らかい砂である。

そんなところに突然転移してきたらどうなるか、といえば。

そのスカスカな体も相まって、彼らは自身の装備している革のブーツに砂が一気に溜まってしまい、私達へと近づく前に身動きが取れなくなってしまうのだ。


結果として出来上がるのが、途中でコケてしまい匍匐前進のように這いずってくる骨の集団だ。

当然この状態でまともに剣は振ることは出来ず、杖を持っているスケルトンが何やら魔術のような何かを使ってくる程度の抵抗しかしない可哀想なカモとなってしまう。

個人的に転移系の素材が苦労せず集まっていくのでありがたいが、どう見ても弱い者イジメをしているような構図になるのだけは何とかしてほしい所だ。


「終わりっと。それにしてもここって『駆除班』も攻略してないんだねぇ。やっぱり転移系って面倒だから?」

「それもあるけど、第一として。私達が組織的に攻略していくのは全然いいけれど、それをやり過ぎたら他のプレイヤーから不満が出るでしょう?」

「あぁ、成程……別にダンジョンの攻略自体が目的じゃないもんね、君ら」

「えぇ」


そのゲームにおけるボスを倒す事を目的としたゲーム外クラン『駆除班』。

当然、初見の……まだ誰も攻略していないボスと戦うのは彼らにとって、Arseareにおける最大の娯楽であり目的なのだろうが、だからといってやりすぎてしまっては他のプレイヤーとの軋轢を生みかねない。

彼らもまたプレイヤー。『惑い霧の森』にほぼ常駐しているような形になっている『駆除班』のメンバーも居るが、それもそれで目的があっての事だ。


主に交流、そして『惑い霧の森』という初心者エリアにある『駆除班』以外のプレイヤーによって管理されているダンジョン。

そこの劣化ボスを倒すというのは彼らにとっては朝飯前なのだろうが、ゲーム始めたての初心者にはそうではない。私が倒せたのは偶然に近い奇跡のようなものだ。

ボスを討伐するのを目的としているからこそ、初心者の支援として劣化ボスの討伐を手助けしている。

その為に私のダンジョンにほぼ常駐しているメンバーも居るのだろう。


そしてそれを行う事で、少しずつではあるが味方を増やしゲーム内でのダンジョン攻略やボス討伐の為の動きをしやすくする。

恩を売っておけば、後々新しく出現したダンジョンについての情報がもらえるかもしれないし、誰かが攻略に失敗し、フィールドにボスが出現した時出動要請が飛んでくるかもしれない。

面倒かもしれないが最終的にはボスとの戦闘数は多く、そしてプレイヤーの味方も増える……そんな構図だ。


「よし、じゃあとりあえず。ボスに向かっていきますか」

「ある程度位置はわかってるから、アタシから離れないように。特に勝手な行動はしないようにしなさい」

「ふふ、信用されてないなぁ。そんな子供みたいに言わないでよ」