HPの減少と共に、魔術言語を使い始めた影響で減り始めたMPを視界の端で確認しつつ。
歩いていくキザイアの後をついていく事暫し。
私達2人は砂漠の中でも異様な場所へと辿り着いていた。
というのも、先ほどまで何処を見ても砂しか見えなかったというのに、何やら建物や植物が見えているのだ。
「……オアシス?」
「そうよ。一応宿とかもあるにはあるけど、総じて第4フィールドでの拠点系にはほぼ人が居ないわ。理由は言わなくてもわかるでしょう?」
「まぁこんな環境、頼まれたって住みたくないしねぇ」
そのまま2人でオアシスへと歩いていくも、ほぼNPCの姿は見えない。
キザイアが言ったように宿、それ以外は回復アイテムが買える程度の小さな露店のようなものがあるくらいで、ここを拠点として使おうと考えるプレイヤーは少ないだろう。
今も見渡した程度ではプレイヤーの姿は私達以外に居ないように見える。
回復アイテムを補充した私達はそのままオアシスを後にし、その近くの砂丘の上へと移動する。
そこから見える景色は砂ばかりで、綺麗だとか写真に撮っておきたいなどという感想は浮かんでこない。
しかしながら、そんな光景の中に一点だけ目を惹くモノが存在した。
「……あれは……砂に覆われてるけどダンジョンで合ってる?」
「えぇ。あれは『神出鬼没の古戦場跡』。あの砂の竜巻みたいなドームは【砂漠】に存在するダンジョンの保護機能だと思ってくれればいいわ」
「保護機能……あぁ、そのままだとダンジョン自体も崩壊していく環境なんだここ……」
少し離れた位置にあるというのに分かりやすい。
砂が周囲の空気と共にドーム状に一定の範囲を覆い隠しているのだ。
明らかに人為的なそれは、この【砂漠】の環境ならではのものらしい。
キザイアによれば、他の第4フィールドではそれぞれの環境に合わせた保護機能が働いているようで、北側の第4フィールドなどは氷で覆われていたりとダンジョンによっては幻想的な光景とのこと。
今度観光目的で行ってみるのも良いだろう。
「『神出鬼没』はそのままだから良いとして……『古戦場跡』のダンジョンは入った事ないね」
「『古戦場跡』っていうのはそのままの意味よ。昔に戦やらがあって、その跡地ってだけ。【砂漠】だから結構風化もしてるし、建物もあってないようなもんよ」
キザイアの言葉を聞きつつ、私は一応自分でも『神出鬼没』と『古戦場跡』についてを掲示板で調べてみる事にする。
『神出鬼没』はその言葉の通り、この特性が付いているダンジョン内では敵性モブがいつどこから出現するか分からない。その出現方法はプレイヤーの周囲へとダンジョン内でスポーンしている敵性モブが転移してくるというもので……つまるところ、突然の奇襲に対して対応出来ねば入れば死ぬだけの特性という事だ。
そして『古戦場跡』。
こちらは『村』や『遺跡』などとは違い、『草原』や『森』などといったフィールド型に近い。
通常、家屋などが残っていることもあるようだが、その辺りはダンジョンの存在しているフィールドの影響を受けるようで。
私達が今居る【砂漠】ではキザイアの言うようにほぼ風化してしまっているようだ。
それに加え、他のフィールドだったらゾンビやスケルトンなどといった人型のモブが出現することが多いそうなのだが、ここのように内部の建物がほぼ残っていない場合、動物系のモブも出現するのも確認されている。
どちらにしろ、霊体型と言われるモブ達は出現するらしいのだが。
「……割と面倒そう?」
「面倒と言えば面倒かしらね。でも私達に奇襲関係は効かないでしょう?」
「それはそう。これくらいだったらどこから来るのか分からない
「……本当、アンタの所って初期エリアにあるものじゃないわよね」
まぁそれは良いとして。
ある程度存在しているフィールドの影響を受けるという事は、今やっている霧の屋根を展開していなければHPが延々減少していくという事。
最悪、今回の攻略では【血狐】も【霧式単機関車】も使えないと考えた方が良いだろう。
しかしながら、自分の周囲に展開させるタイプの魔術である【路を開く刃を】や、魔術言語関係ならば十二分に使える。
少し戦闘での選択肢が制限されるだけと考えれば十二分に動けるだろう。
あとは変な能力を持った敵性モブが出現しない事を祈るだけだが……まぁその場合はキザイアを盾にして時間を稼げばどうにでもなるはずだ。
向こうは私と違って第4フィールドでのダンジョン攻略は慣れたものなのだろうし。
「じゃあいこっか。中では索敵任せてもいい?」
「アンタもすれば……いや、アンタの場合出来たとしても環境が環境なのか……」
「そう言う事。霧を広め深めに展開はするだろうけど、索敵するってなると話が別だし。ちょっとどうしようもないかなぁって」
「はぁ……作りやすいだろうけど、複数の系統で索敵魔術作っておいた方が後々楽よ。今みたいに1個潰れたら他のって選択肢も生まれるだろうし」
「考えとくよ」
そう言いながら、私とキザイアは歩き出す。
ダンジョンアタックの開始だ。