暫くして。
私は燦々と太陽が照りつける砂漠へと連れてこられていた。
実を言えば、砂漠という環境に身を置くのはこれが初めてではない。
少し前の話にはなるが、灰被りと共に『天日照らす砂漠』というダンジョンに挑んだ事があるからだ。
だが、今居る【生き急ぐ砂漠】はそれの比ではないと私は流れ落ちる汗をぬぐいながら嘆息した。
暑いのはそうなのだが、気温が高すぎて私の狐面では霧を発生させても水分が蒸発してしまう。
当然ながらHPも徐々に減っていくため、回復するためにポーションを服用しているのだが……それもそれで蒸発やらなにやらしているのか、普段よりも回復する量は少なかった。
歩いていると砂が足に纏わりついてくる。
ゲームとは言え、この環境はあんまり長居したいものではない。
「……キザイア。私ここだと出来る事少ないんだけど?」
「あぁそういえばアンタって水系だっけ。まぁダンジョンに入ればマップ環境の影響は少なくなるから耐えなさい?」
「そうだと良いけどね……あと、水系って何?」
キザイアの言葉の中に気になる単語があった。
水系。属性を示すモノだろうが、生憎と私はゲーム内のその手の話題には疎い……というよりも。
仲間内での会話や、掲示板などを見ていてもArseareで属性関係の話になった事はない。
私のその問いに対して、キザイアは苦笑しつつも答えてくれる。
本当に口では色々言うものの、面倒見だけは良いオカマだ。
「あー……まぁ便宜上の名称みたいなものよ。公式で出たわけでもないけど……聞く?」
「聞いとく。便宜上って事は『駆除班』内での呼び方って事でしょう?それならダンジョンに挑む前に聞いといた方が絶対良い」
それじゃあ、と前置きした後にキザイアは話し出す。
といっても予想出来る範囲内での話だ。
使う魔術にはそれぞれ内部データ的に、性質のようなものが決まっている可能性がある。
それこそ分かりやすい例を挙げるとすれば、炎を発生させる魔術や津波を起こすような魔術だろうか。
それぞれ炎という現象や津波という事象を引き起こすものではあるが、使われているのは『火』と『水』。
出力が同じであれば、性質的に有利な方が片方を食い破る、というものだ。
情報が手元に存在する魔術に対しキザイアを筆頭とした『駆除班』の面々は、大まかではあるが性質を当てはめ検証をしたらしい。
結果、現状把握できている魔術のほぼ全てに中国古代の考えである五行……木、火、土、金、水の性質が存在しているのではないか?という結論に至ったそうだった。
「まぁ何個かの魔術はそれに当てはまらなかったというか……明らかに液体系なのに岩を吸収して体積を増やしたりする魔術もあったりしたから、合ってるとは限らないけど」
「いや、でもコレを知ってるか否かで戦い方って変わるでしょ。ちなみにキザイアが使うのはどれになるわけ?」
「アタシもその当てはまらない筆頭よ。少なくとも木、土、水の3つは複合されてるんじゃないかって考えてるけど……まぁ事実はいつか運営側が教えてくれるでしょう」
その考え方で行くと、確かに私は水系の魔術を多く習得している事になるのだろう。
霧は空気中の水分が空中に浮かんだ状態のモノ。つまりは、私の持つ霧系の魔術は基本的に全て『水』であるだろうし、【血狐】のように血液自体に意志を持たせるのもそれに当たる……はずだ。
一応五行相剋の考え方では『水』は『火』に有利をとれる要素ではあるのだが……現状、私が上手く霧を操れていないのは端に乾燥しきっている為なのだろう。
純粋に水を扱う魔術が使えていればもしかしたら自分の周囲だけでも霧で覆えたかもしれない。そう考えると、霧の補助用に何か別の魔術を覚えるのは良いかもしれない。
「あー……うん。キザイア、ちょっと進むの待ってもらっていい?」
「何する気?」
「流石にこのまま暑いのはキツイから」
目的地はあるのだろうが、このまま強い日差しを浴びたまま砂漠を歩く趣味は私にはない。
インベントリ内から何かあった時用の木片を取り出し『面狐・始』を使って魔術言語を作っていく。
『周囲から水分を集める』、『HPを変換』、『水球を作り出す』の三構築。
血を扱う私にとって、HPは最悪1さえ残っていればいいコストでしかなく。
流石にキザイアをそれに巻き込んでは申し訳ないため、効果適用範囲なども細かめに決め、木片へと刻んでいった。
「よし完成」
「魔術言語……成程、氷でも出すわけ?」
「いや、水。水さえあれば沢山霧作れるからね。持続性も持たせてすぐには蒸発しないようにはするよ」
そう言いながら私は魔術言語を起動させる。
HPの減少が目に見える速度で増えているものの、HPポーションを飲めば十二分に間に合う量だ。
それと同時、私の持つ木片を中心に水球が出現した。だが、すぐに水蒸気が発生し日差しによって水球の大きさが小さくなったように見えるものの……魔術言語の機能によってHPを変換し水球の大きさが元に戻る。
「良い感じ。こっから……」
『面狐・始』を仕舞い、木片を持っていない方の手で狐面から霧を出現させていく。
先ほどとは違い水球を魔術言語によって作っているためか、いつもより量は少ないもののしっかりと霧を引き出す事が出来た。
試しにそれを操り自身と日差しの間へと移動させると、水球の形が安定しHPの減少も緩やかになっていく。
どうやらやりたかった事は出来たようだ。