「……で、またアタシに連絡とってきたと」
「そういう事。やっぱり困った時に頼るべきは権力持ってる知り合いだよね」
「ハァ……少しは掲示板とか使いなさい?ウチはそういうのもまとめてるんだから」
次の日。
私は早速、素材事情に詳しい権力のある知り合い……『駆除班』のリーダーであるキザイアへと連絡をとっていた。
幸いにして彼も今日は暇だったのか、渋々といった体ではあるものの私の招集に応じてくれたため、草原のど真ん中で事情をかいつまんで話していく。
現状、私が欲しい魔術……それを創るために必要であろう素材の性質は方向性が決まっている。
転移系とでも言えばいいのだろうか。
自身が転移してもいいし、自分の周囲のモノを転移させても構わない。
何故なら私が目指しているのは、構築に失敗した魔術言語での攻撃方法の確立なのだから。
「言っておくけど、転移系ってアンタの普段の活動範囲よりもずっと先のレベルよ?」
「知ってるよ。そんなポンポン初心者帯で出られても困るもん」
キザイアは掲示板とは別に何かのウィンドウを開きつつ、どこかへと連絡を取っていた。
漏れ出る言葉の中に「……の難易度は問わない」「一度痛い目に……」など、キザイアの私に対するヘイトの一端が見え隠れしているものの、まぁ下手な事にならない限りはソロでも攻略できるような場所を紹介してくれるだろう。そんな事を考えつつ、私は周囲に薄く霧を発生させ狐を作り続けていると。
ある程度ダンジョンの選定が終わったのか、キザイアはこちらへと視線を向けて目を見開いた。
「……アンタ何やってんの?」
「ん?暇だったから狐作って遊んでただけだけど」
ざっと20匹程度は居るだろうか。白い霧製の狐達が私とキザイアをぐるりと囲むように動き回っていた。
【狐霧憑り】や【血狐】のように意志を持っているわけではないものの、これだけの数にいつの間にか囲まれているのだから驚きの一つや二つするだろう。
「魔力の反応がない……コレ全部操作してるわけ?」
「そうだよ?これだけはずっとやってたから」
何故か皆に驚かれる事が増えてきたものの、私がこのArseareで初期の初期からやってきたのは魔術の鍛錬でも、戦闘訓練でもなく、ただ単に霧の操作だ。
霧の操作だけならばプレイヤーの誰にも負けない自信だけは持っているし、それを使っての戦闘ならば一定以上の戦果を挙げる事も出来ると思っている。
話しながらでも意識の何割かだけを狐の操作へと回しつつ、普通に対応している私に対してキザイアは頬をひくつかせている。
彼が若干引いている事に気が付いているものの、これはこれで一種の自衛方法でもあるのだ。
現在私達が突っ立って話しているのは草原であり、初心者向けとは言え敵性モブも湧く。
何なら、たまにどこかの初心者がダンジョン攻略をミスったのか、フィールドに出てきているボスも居るくらいだ。まぁ初期エリアであるためにそこまで脅威ではないのだが。
だからこそ、少しばかりの自衛法として。
小魚が群れを作り、自分達を巨大な魚に見せかけるように。私は周囲に霧の狐を展開しているのだ。
まぁキザイアが自衛できないとは思わないし、今も私に分からないように何かしらの魔術を使って周囲を索敵などしているのだろうが。
「これなら紹介するダンジョンを変えてもいいかもしれないわね。行くわよ」
「何処に?」
そう言いながら、キザイアは私に行先を告げる。
そこは、
「南側の第4フィールド。【生き急ぐ砂漠】よ」
到達した事がある最前線、【駆逐された土漠】の更に先。
確実に私が経験したことのない環境が待っているであろう場所だ。
いつかは行かねばならないと考えつつも、他の事を優先していた為に探索すらしていない。
と言っても、そこまで心配はしなくてもいいのだろう。
何故なら、フィッシュや灰被りといった確実に第4フィールドへと進出しているであろうプレイヤー達が、私の管理するダンジョンの深層の敵性モブ達に手を焼いていた姿を見ているのだから。
地上でのどのフィールドが深層に相当するのかは分からないものの、彼女らが手を焼いていた敵性モブ達を私は……というよりは私の持つ魔術は轢き潰す事が出来る。
ということは、だ。
ダンジョンの特性やボスの能力にも依る所はあるだろうが、十二分に戦えるであろうフィールドではあるだろう。
「オーケィ、じゃあ行こうか」
「えぇ。でもアンタは動かないで。……あっコラ動くな!そっちは北!南じゃない!真逆だから!」
意気揚々に歩き出した私の首根っこをキザイアは強引に引っ張り目的地へと向かっていく。
何やら到着するまでは行動してほしくないのか、他にも魔術を使い触手なようなもので手足を縛った上で米俵のように運ばれていく。
これはこれで楽なのだが……少しばかり暇になるために、先ほどまで展開していた狐達を霧散させた後。
キザイアの後ろに続くような形で、霧のロバ、犬、猫、そしてニワトリを作り出して行進させておく。
ブレーメンの音楽隊ならぬ、ブレーメンの行進隊の完成である。
その先頭に立っているのが女を触手で縛って運ぶオカマだという事実に目を背ければ……割と童話チックなのではないだろうか。
後々、掲示板にその様子のスクリーンショットが張り出され、遊ばれている事に気が付いたキザイアが私に対して説教したのはまた別の話だ。