雨はやがて止み、風が吹いて、ぼやけた太陽が空に現れた。
タムは吹っ切れなく思いながら、アジトへの道のりを歩いていた。
清流通り四番街から中心の噴水へ。
そして、清流通り三番街へ。
ネフロスとパキラの後ろを歩く。
おつかいの帰りにそうであったように、池のふち二巻を目指す。
タムは、よくわからない無力を感じていた。
一体何が出来ただろうかと。
ネフロスはああ言ったが、
タムには何も出来ないのではないかと。
そこでタムは、思い当たった。
ネフロスが、パキラが、鮮やかな緑色に変わり、戦ったそのことを。
あれは一体なんだったのだろう。
「あの」
タムは二人を追いかけ、声をかけようとした。
ネフロスが丁度、アジトの扉をノックしたところだった。
コンコンとノック。
「帰ったぞ」
いつもと同じように、
キリキリキリキリと、ドアの内側でかすかに、歯車やギミックの動く音がする。
チーンと、安っぽい金属の音がして、
ドアノブが動いた。
「あの」
タムはとりあえず聞きたいことがある。
ネフロスはそれを察したのか、
「とりあえず中に入れ。一通り終わった後、話してやる」
タムはこくこくこくとうなずき、わたわたとアジトの中に入った。
扉はギィと閉まり、
ガチャ、チャカチャカ、チーン、と、ロックがされたらしい。
彼らはグラスルーツ管理室に向かった。
ネフロスが扉を叩いた。
「どうぞ」
いつもの静かな声だ。
扉を開き、中に入る。
いつものグラスルーツ管理室だ。
長い髪を下ろしたまま、アイビーがギミックを相手にしていた。
「ベアーグラスは、乾いたのね」
「ああ」
ネフロスは、手短にそう告げた。
「グラスルーツ経由で最後の言葉を聞きました。タム」
「え、あ、はい」
タムは突然話を振られて、戸惑った。
「ベアーグラスに約束を取り付けてくれて、ありがとう」
「あ、その」
「あなただから出来たこと。乾きや腐りや朽ちていくことに慣れた者では出来ないこと」
「僕は…」
「その心を大切にしてほしいわ」
アイビーは静かにタムに語りかけた。
タムは深くうなずいた。
アイビーもうなずき返した。
そして、アイビーはネフロスに視線を返した。
「今回使ったのは?」
「ガリアーノとカンパリ、一つずつ」
「そう、いつものですね。了解しました」
「報告は以上だ」
「わかりました」
アイビーは静かにうなずいた。
ネフロスはグラスルーツ管理室を出る。パキラが続く。
タムはあたふたしたが、
「失礼しました」
と、言い残すと、グラスルーツ管理室を出た。
ネフロスたちは、一階を奥へと向かった。
緩やかな下り坂になっている。
タムは部屋に戻ろうとしたが、
ネフロスたちが何をするか気になり、
パタパタとついていった。
ネフロスが振り返った。
いつもの鋭い視線に、タムは一瞬ひるんだ。
「お前は関係ない」
「えっと、何しに行くんですか」
「クロに水を調達してもらうのよ」
パキラが代わりに答えた。
「水って、歯車とか回せば出てくるものじゃないんですか?」
タムは思い出す。
部屋のベッドサイドにあった歯車と、シャワーらしいもの。
「今回のことをすると、結構多く使うのよ」
「今回のこと?あの、噛み砕いた」
「ま、それね。それでもって、クロに多目の水を調達してもらうのよ」
「あれをすると、水が必要なんですか?」
「ネフロスが流し終わったら、きっと説明してくれるわよ」
「流し終わったら?」
「えっとね、解除しても残ってるから、流さないといけないわけ」
「うーん…」
タムは考え込んだ。
パキラはすたすた歩き出した。
「残ってると害にもなりかねないから、早く部屋に調達してほしいわけ。じゃ、あたしも行ってくる!」
パキラは足早にクロの泉へと向かっていった。
タムは興味を持って、追いかけてみた。
奥の扉に二人が入っていくところだった。
タムが中に入ろうか迷っているうちに、二人は出てきた。
「それじゃ、いつものように部屋に調達しますよ」
「頼む」
ネフロスたちは、来た道を引き返し、部屋に向かった。
タムは、泉の管理人、クロの顔を見た。
「俺は忙しくなるの。とりあえず、部屋に戻ってろや」
タムは、それもそうだと思い、部屋まで駆けていった。
聞きたいことがまだまだあった。