タムはアジトの坂を駆け下り、下り階段をいくつか飛び降りた。
仕事ってなんだろう。
何をさせてもらえるんだろう。
ワクワクが足に伝わり、
タムはアジトを風のように駆け抜けた。
がこーん、ごーん、きりきりきり…
アジトの中の仕掛けは、相変わらず動いて音を立てている。
タムはその中を駆けていき、
そして、先ほどの地図で確認した、グラスルーツ管理室の前で急停止した。
ドアがある。
確かに、グラスルーツ管理室と書いてある。
タムはノックした。コンコンと。
「どうぞ」
静かな声が答えた。
タムは扉を開けた。鍵などはかかっていないようだ。
ぎぃと扉を開くと、椅子に腰掛けたアイビーがいた。
机の上の、わけのわからないギミックを相手にしている。
周りを見れば、やっぱり、よくわからないギミックの群れ。
そして、無数の根のように張り巡らされた配線。
奥へと続いていて、奥からはかすかな光が見える。
タムは後ろ手で扉を閉め、ゆっくり管理室の中へと入っていった。
アイビーがタムのほうに向いた。
「もう一人来るから、少し待っていて」
アイビーが小さな歯車を回した。
タムの近くに椅子が一つせりあがってきた。
タムはそこに腰掛けた。
アイビーは、また、机のギミックに向き直った。
相変わらず、ギミックの音は聞こえる。
聞こえるが、グラスルーツ管理室は、ちょっと違うように感じた。
何が違うのかはわからないが、漠然と、タムの部屋などとは違う気がした。
タムは奥を見ようと、姿勢を斜めにした。
アイビーが少し微笑んだ。
「グラスルーツは草の根という意味。そのうち触れることもあるわ」
タムは、眉間に大きくしわを寄せた。
子ども扱いされている気分になった。
アイビーが静かに笑みを深くすると、
コンコンとノックの音。
「どうぞ」
アイビーは同じように静かに入室を促す。
扉が開き、大柄の男が入ってきた。
巨体とか、筋肉質とか、格闘家みたいだとか、タムはそんなことを思った。
黒髪を角刈りにしていて、
服装だけ、明るい緑のスーツ一式をゆったり羽織っている。
「アイビー、拙者に用件とは?」
大柄の男は、特徴ある言葉で話し出した。
「まずはお互い自己紹介して」
アイビーが言うと、大柄の男はタムにようやく気がついたようだ。
「失敬。拙者ライム・ポトス。ポトスで結構」
「僕は、タム」
「タム、よい目をしている」
ポトスは大きな手を差し出した。
タムは握手をした。ごつごつした手は、思ったより優しかった。
ポトスは満足すると、アイビーに向き直った。
「用件は、いつものおつかい。ただし、この町を覚えさせるのに、タムをお手伝いに連れて行ってね」
「わかり申した」
ポトスは頭を下げた。
タムは、椅子から降りた。
「ポトスさん、いつものおつかいって?」
「重いものを運ぶのでござる。タムにはそれが出来るか?」
タムは少し考えたが、
「僕だってがんばるよ」
と、タムなりに胸を張った。
ポトスは目を細め、うんうんとうなずいた。
「それでは、いつものお店で、いつものを受け取って。それを運ぶ。以上よ」
「わかり申した。行こうぞ、タム」
「うん」
タムはうなずき、グラスルーツ管理室をポトスとともに出た。
扉を閉めると、タムの足元に、何かがいた。
ふさふさした毛並みの、小さな生き物だ。
緑の尻尾が生えている。
「いぬ?ねずみ?」
タムはかがんだ。
「表側ではそういう風に見えるか。これはコケダマという生き物でござる」
丸っこいふさふさした生き物は、タムの足者でころころ転がった。
「こやつはリュウノヒゲという名がある。拙者の相棒でござる」
「よろしく、リュウノヒゲ」
リュウノヒゲはぴょんぴょんと飛び上がり、喜んだらしい。
タムが手を出すと、手の上でころころ転がった。
なついているらしい。
「さて、行こうぞ、タム」
「うん」
ポトスとタムとコケダマ生物のリュウノヒゲが、おつかいに出て行った。