水を飲んで一息ついて、
タムは部屋のギミックをいじった。
手当たり次第だ。
まずは、サビ色のレバーをおろした。
白い壁にアジトの地図が表示された。
映画館で映画を表示するのに、構造は似ているかもしれない。
壁が、スクリーンになっている感じだ。
おろしたレバーをよく見ると、
表側の世界で言う、自動車のギアのようになっている。
タムはギアを入れ替えた。
表示されるのは、この街。
五つの清流通りからなる、雨恵の町だ。
「あめぐみのまち」
タムはゆっくり読んだ。
ギアを入れ替えれば、もっと他の地図もあるのかもしれない。
タムはとにかく、アジトの地図と、雨恵の町を頭に叩き込もうとした。
雨恵の町は清流通りで何とかわかるとして、
アジトの方は、なかなか難解だった。
表側の世界のように、はっきりフロアが区別されていないのだ。
とりあえず、メンバーの部屋が上の階にあることと、
クロが管理している泉が下のほうにあることは把握した。
アジトの地図で見る限り、メンバーはもっといっぱいいるようだ。
アイビーは、グラスルーツ管理室にいると言っていた。
どこだろうと、タムはアジトの地図にギアを入れ替え、見る。
グラスルーツ管理室とやらは、アジトの大体一階にあるらしい。
大体というのは、階段や坂道で、やっぱり、フロアという概念があやふやだからだ。
まずタムは、グラスルーツとやらが気になった。
「グラスルーツ、なんだろ」
この部屋で調べられないだろうか。
タムは地図の表示を切り、ギミックをいじった。
大きな歯車をぎこぎこといじると、壁側から、歯車にあわせて倒れてくるような感じで、
部屋の端に机と椅子が現れた。
今まで机が壁になっていた場所には、
いくつか書物がおいてある。
「こりゃいいや」
タムは歯車を止めると、椅子に座り、机と本棚に向かった。
「なにがいいかなぁ…グラスルーツが載ってるのってどれだろ」
タムは左側から書物を取り出した。
『害虫駆除対策』
タムは表紙だけ見て、
「グラスルーツって、害虫かな?」
と、首をかしげ、また、戻した。
今度は左から二番目の書物を取り出した。
『初心者でも出来るギミック』
タムはとりあえず目次だけ見た。
仕掛けの面白いのが書いてある。
風の力でコップの水をくみ上げる、
風水車とか言うものを作るらしい。
タムは思わず読みふけりそうになり、
そうだ、グラスルーツを探していたんだと思い当たった。
タムはそれでも書物が気になったので、
何か、しおりになりそうなものを探した。
書物棚の上に、無造作に、金属片の薄いのに、紐が通してあるのが幾つかあった。
タムはそれをしおりとした。
タムはとりあえず、残りの書物の背表紙だけを見た。
『秘術酒精事典』
『花術の歴史』
『壊れた時計とあなた』
『秘められた扉』
タムは結局、グラスルーツが何なのか、わからなかった。
椅子から降りると、大きな歯車を回して、机と椅子をしまった。
「さて、他に仕掛けはあるかな」
タムは机とは逆の部屋の端に来た。
そこには、どうも排水溝らしい溝が掘ってある。
上を見れば、やはりなにやら仕掛けがある。
目の前の壁には、ダイヤル式に歯車がはまっている。
丸い歯車に、1、2、3、止、と4等分して書かれている。
タムは、止の位置にある歯車を、1にした。
上でガシャンと音が鳴り、水が降ってきた。
まるでシャワーだ。
タムはあわてて2に歯車をあわせる。
上から吹きつけるように風が吹いてきて、タムの服は一応乾燥した。
「じゃあ、3はなんだろ」
タムは、3に歯車をあわせた。
上からさんさんとあたたかい光が降りてきた。
日光浴みたいだなとタムは思い、
満足して、歯車を止の位置にした。
ぽーん
上から音がした。
どこだろうと、タムが天井を見ると、
ベッドの上あたりに、ラッパ型のスピーカーがぶら下がっているのに気がついた。
「タム、仕事です。グラスルーツ管理室に来てください」
タムは静かな声のスピーカーに向かって精一杯うなずき、
風のように部屋をあとにした。