タムとポトスと、リュウノヒゲは、
池のふち二巻のアジトをあとにした。
玄関のドアを閉めると、きちきち、チーン、ガチャリ、と、音がした。
中から鍵がかかったのだろう。
「さて、いつものおつかいでござる」
ポトスは大きく歩き出した。
タムがあわててついていった。
リュウノヒゲは、ちゃっかりタムの肩に乗っている。
「こいつ、楽する気かな」
タムはリュウノヒゲをつついた。
リュウノヒゲはバランスを崩したが、また、タムの肩に戻ってきた。
ポトスが振り向いた。
「なついているようでござる。つかいの間だけ、肩に乗せてやってくれないか」
「うん」
ポトスはまた歩き出した。
タムが小走りでついていった。
「いつもは拙者の肩に乗るのでござる」
「たまたま僕かな?」
「そうかも知れぬし違うかも知れぬでござる。拙者の相棒、大切にしてくれるとありがたい」
「うん、わかった」
彼らは、池のふち二巻の路地を出て、清流通り三番街に出てきた。
裏側の世界の住人たちが、ゆっくり行きかっている。
全体的に古ぼけた通り。
ごちゃごちゃした店、行きかう色とりどりの住人たち。
ポトスとタムはその中を歩いていった。
「目指すは清流通り二番街でござる」
「重いものを持つんだっけ?」
「うむ」
ポトスは短く答え、
「エリクシル御用達の取引商の店に行くのでござる」
「エリクシル御用達」
なんだかすごいなとタムは思った。
「まずは清流通り二番街に、それから、底有り沼一巻という路地に入る」
「底なしじゃないんだね」
「まぁそうでござる。路地の一帯はその取引商の店にてござる」
「なんていうの?その、エリクシル御用達のお店」
タムはたずねた。
「行けば嫌と言うほどわかるでござる」
ポトスはいかつい顔に、少しだけいたずらっぽい表情をのせた。
ポトスなりの茶目っ気だったのかもしれない。
彼らは雨恵の町の中心の噴水まで出てくると、
清流通り二番街を目指した。
タムは標識を探した。
ポトスは今度はタムが標識を探すのを待った。
ポトスが先を行くのは簡単だが、タムに見させてもいいかと思ったのかもしれない。
「そこありぬまいちまき」
タムが標識を見つけたらしい。
「上出来、さて、向かうでござる」
タムの肩で、リュウノヒゲがぴょんと跳ねた。
彼なりにほめているのかもしれない。
底あり沼一巻には、看板が嫌と言うほど出ていた。
どれもこれも読みにくい上に、
どこの言葉かわからない。
路地の右も左も、看板看板。
「どれもこれも、意味するところは一つなのでござる」
ポトスが今度は前に立って歩き出した。
「来る者がわかるよう、様々の言語にて、この路地の奥の取引商の名前を書いているのでござる」
「嫌と言うほどわかるって言ったけど、僕にはわかんないよ」
ポトスは一つ一つ読み上げていった。
「オー・ドー・ヴィー」
「アクアヴィット」
「ジーズナヤ・ヴァダー」
ポトスが看板を示しながら続けようとしたが、
タムは、やっぱりわからなかった。
「やっぱりわからないよ。全部意味は同じなの?」
「左様、意味は同じにてござる」
「じゃあ、何さ」
タムは頬をぷぅと膨れさせながら、ポトスについていった。
「あれなら読めるでござるか」
ポトスは、一番奥の看板を示した。
金属の扉が一枚の上に、古びた金属看板に、白で書いてある。
「命の水取引商」
「そう、命の水でござる」
「ここにくるまでの看板全部?」
「そうでござる。そして…」
ポトスは上を見上げた。
様々の言語が命の水と示している看板群。
そして、袋小路のような取引商への路地。
路地は大柄のポトスの背より、3倍は高い。
「この路地一帯に、命の水取引商の倉庫があるでござる」
「こんなに…」
「さぁ、取引商のところに行くでござる」
ポトスは奥の扉へ歩き出した。
タムはあわててついていった。