一度、確認に行ったとき、盗聴器とサーモグラフィーを仕掛けて置いていた。
熱探知機は、今彼が部屋にいる人の熱を捕まえている。
約一時間ほど沈黙の中、車を走らせると、サティーブの家に到着した。
二軒ほど離れたところに車を止める。
ミツキはサーモグラフィーを確認して、違和感があるのに気付いた。
体格が違うのだ。
「誰だ……?」
そのままの襲撃は避けて、車内で様子を見ることにする。
サティーブが一人暮らしをしている家の場所は、すでに調査済みだった。
そこへ、ぶらりとサティーブがフロントガラスの向こうに現れて、家に向かった。
なんの警戒心もない様子だった。
家は木造マンションである。
六部屋の内、三部屋しか埋まっていない。
二階の奥がサティーブの部屋で、彼は鍵を開けて中に入っていった。
サティーブが玄関を開けると、部屋に電灯がともっているのに気付いた。
すぐに、グラス・ショットを口に含む。
ゆっくりと、だが何時でも動ける態勢で、リビングのドアを開ける。
そこには、銀髪で瞳の黄色い青年が、ソファーに腰かけて、疑似ビールを飲んでいた。
「やっとお帰りか」
「誰だ、あんた」
警戒心丸出しで、サティーブは相手の語尾にかぶせた。
「名前はフォロイ。サイロイド協会の者だよ」
「それが、なんの用で俺の家に来ている?」
フォロイは疑似ビール缶を煽り、彼を見た。
「おまえがやっている実験だがな。いわゆる、禁忌というやつだ。早急に止めてこいといわれてな」
サティーブは、思考を抜き取られているかのような感覚に陥った。
盗聴器で会話を聞いていると、ミツキにはチャンスができたと思った。
「実験?」
あえてサティーブはとぼけて見せる。
「とぼけるか」
フォロイは嗤った。
「おまえが、サイロイドを乗っ取れるかどうか試しているのはわかっている」
平坦でつまらなそうな口調だったが、サティーブには十分効果があった。
「止めるって、どういうことだよ? 俺を始末にでもきたのかい?」
彼は今にもカプセルを砕こうとするような雰囲気をまとった。
「この件から手を引け。学校に帰るんだな」
サティーブは一気に怒りに火がついたのを自覚した。
無理やり自分の感情を抑えて、なんとか平静を装う。
「せっかくですがね。冗談じゃない」
フォロイは聞くと、缶をもうひとあおりして、ため息交じりの息を吐く。 「そうなると、始末しなければならなくなる」
「サイロイド協会が、どうしてロータ・システムの話に介入するんだ?」
「そりゃ、サイロイドを乗っ取ろうとするからだろう」
「迷惑をかける気は毛頭ない。サイロイドといっても、ドロップスが使っていたものを利用させてもらう予定だし」
「それが、ロータ・システムを怒らせるんだよ。引いてはサイロイドの管理・管轄を行っているサイロイド協会に巡り巡ってくる」
「それが仕事だろう。頑張れよ」
「決裂だな」
フォロイは、空の缶を放り投げて、壁にぶつけた。
その時、玄関のドアが開いた。
「フォロイ・ミルガン、動くな!」
リビングに少年と少女が飛び込んできた。
「なんだ……!?」
フォロイは、邪魔くさそうに眼をくれただけだった。
「あんた、たしかミツキとイロイ……」
サティーブが二人を視止めてつい、声にだした。
彼女の前面には、今にも刀を抜きそうに構えたイロイが立っていた。
「久しぶりね、サティーブ。元気が有り余ってたようで安心したわ」
「まったく。邪魔が入る」
フォロイは不機嫌そうに呟いた。
「フォロイ、サティーブ。二人とも、付いてきてもらうわ」
「そんな義理はない」
フォロイが即答する。
だが、いつの間にかイロイの刀が彼の首筋にそえられていた。
「……飲み込む前に、斬る」
静かだが、イロイの言葉には異様な迫力があった。
「どこに連れていかれるのかな?」
フォロイは、驚いた風もなく訊いた。
「それは、着いてからのお楽しみ」
フォロイはミツキの言葉に、仕方がないとばかりな顔でサティーブに向ける。 「待ってくれ、俺はただリズリーを救いたいだけなんだ。あんたらの争いになんか、興味はない」
少年は真摯に訴えかけるような声だった。
「リズリーを、救いたいのかい」
ミツキの短い答えにサティーブは首を振った。
「ああ。今日の昼間、サイロイドで試してみたんだ。そして、リズリーは地上に落とすことができる。リズリーがロータ・システム内にいることはイレギュラーだが、それを望んだ奴がいたせいだよ。問題は、そいつだ」
「何者だ?」
「わからない。だが、そいつをやれば、試す価値はあるし、リズリーの事件も解決する!」
「楽観的だな。まあいい。うるさいからもう黙れ」
ミツキは、二人にグラス・ショットを吐き出させて、ストッキングの猿轡を噛ませると、後ろ手に手錠をはめた。持っていたカプセルも全て没収する。
そして、二人を外に出すと車のトランクに放りこんだ。
後部座席にイロイを乗せると、ミツキは車を発進させた。