雨あがりで心配だったけれどもう乾いていた。
カンカンカンと乾いた音を響かせて進むのが鉄階段の魅力。
これが住宅街だったなら騒音になるのは間違いない。
ここは山の中……といっても町外れの丘みたいなものだけれど。
おれだけの秘密の憩いの場所。
と言うのは、おおげさであり、なにさまだよな。
現実には、訪問者。それも気まぐれで気ままにふらりと、たまにだけ。
「あ」
という声が頭に降ってきた。
見あげると逆光の少女。
ふわりと風にひるがえる長い髪、つけねのあたりまで短い短パン。
影になっているのに、よくわかる。
細くて頼りなさげにも見えるのに、あらがえない魅力的な太もも。
「あ」
おれも思わず声に出る。
「ひょっとして、よく来る?」
え?
なんて言った、なんでこんなに、距離を詰めてくる声なんだろう。
顔がよく見えないし、見ようとすればするほど、まぶしい。
思わず手をかざしてしまった。
「あ、ひょっとして、まぶしい? ぅフフフ」
その特徴的な語尾でピンと来た、ああ知ってる、よく知ってる、でもまさかこんな場所で。
「そっちこそ」
おれは思わず言い放つ。
カンカンと鉄階段の響きがして、陽射しの角度が変わった。
およっ、とよろけるように身をひるがえす彼女。
急いだわけではないけれど、スピードの加速で自己制御が外れてしまった。
「っと!」
おれのほうこそ、よろける。
「あぶないよー」
と気の抜けた炭酸な、声。間違いない、その話し方は君。