第109話 私ですねー!?

 あいちゃんのイラつきは収まらず、聖弥くんに対するお説教が続く。


「この合宿の意義わかってる!? 実戦だよ、LV10まで上げることだよ。つまりあんたがやるべき事は何!?」

「じ、実習だから、真面目に武器や盾の扱いを……」


 聖弥くんがたじたじだ……凄い、腹黒王子のこんな顔初めて見た!

 じゃなくて。

 聖弥くんの回答は、あいちゃんの怒りの炎に油を注いでしまった。Oh……。


「そうじゃない! あんたやゆーちゃんはおまけの戦力ブーストでしかない! 須藤くんや法月さんみたいに普段パーティーを組みにくくて、ダンジョン行くのが厳しくて、LVが上がってない人の経験値を稼ぐのが主目的なの! つまり、あんたは主役じゃない、サポート!」

「あ……」


 聖弥くん、多分人生で初めて「あんたは主役じゃない」って言われたんだろうなあ。

 目を見開いて、多分今鱗をポロポロ落としてる最中。


「そうなんだよ、聖弥くん……もちろん私たちの経験値稼ぎもできるけど、それはあくまで『みんなで経験値稼ぎした結果』なんだよ。実戦で盾の扱いを学ぶのも大事なんだけどさ、それは聖弥くんの場合普段できるんだよね」


 強いから。

 装備もあって、初級ダンジョンが脅威にならないから。


 でも、今回は違うのだ。学校の実習だから装備品の性能は均一だし、装備の補正は攻撃にしかつかない。人数が多いから死ぬことはないだろうけど、立ち回りを間違えれば大怪我もあり得る。


 そこで「練習」はのんきすぎるんだよ。

 蓮はビビりだから、多分そこのところは勘違いしないと思うんだ。

 でも、根っからの冒険者科ではない上に、半端に強くて余裕ある聖弥くんは受け取り方が違ったんだろうなあ。


「……ごめん、僕は考え違いしてた。『学校だから』って思ってて、それは前の普通の学校の意識であって、冒険者科の考え方じゃないって忘れてた。

 そうだよ、ダンジョンは危ないところなんだよね……柚香ちゃんのおかげで凄い装備を使えて、僕は自分自身が強くなったって勘違いしてたみたいだ。平原さん、須藤くん、法月さん、それと柚香ちゃん、ごめん。午後潜るときは盾は置いてくるよ。言われたとおり、今これを使う意義は全然ないんだ」


 聖弥くんが真顔で頭を下げたので、私はほっと胸をなで下ろした。

 よかったー。聖弥くんは頭がいいけど、外から情報を取り入れるときにフィルターが既に掛かってたら、処理を間違えることもあるんだよね。


「わかったらいい。叩いてごめん」


 まだちょっとブスッとむくれたあいちゃんが、横を向いたままで言った。これは多分、ビンタした相手に素直に謝られてどういう顔をしたらいいかわからなくなった奴だな。

 あいちゃんが男子をビンタするのは何回か見たことあるけど、その後は大体掴み合いの喧嘩に発展してたから、このタイミングで向こうから謝られた事ってないんだよね。


 凶暴だけど、理不尽に相手を責めることはないんだよ、あいちゃんは。手が出るほどのことになるときは、必ずそれなりの理由がある。

 今回の場合は、ダンジョンは危なくて、命懸けって事ね。


 いやー、しかし、肋骨折ったくせにダンジョンを軽く見てたのは私も驚きだったわ。……って、装備のせいかー! この前大涌谷ダンジョン行った時にダメージが全然通らなかったからかー!

 あの時、結局私たちの中でHPが減ったのは私とヤマトだけで、それは蓮のフレンドリーファイアーでやられた奴だからね!!


「結果的に私のせいかー!」


 私が頭抱えてしゃがみ込んだら、あいちゃんには力強く「そうだよ!」と言われ、聖弥くんには「そうじゃないよ」と言われた。盾と矛で挟まれるぅー。


「とりあえず、下行こうよ。由井はその盾ここに置いてって。誰もそんなの盗まないから」


 須藤くんのごく現実的な提案が出て、こんな荷物になる盾を持っていく奴いないよねって事で盾は壁際に置いていくことになった。

 確かに、今ここにいるのはうちの学校の人だけだからねー。そもそも聖弥くん以外誰もタワーシールドなんて使ってないから、一目で誰が置いてったのかわかるし。


 私でもあいちゃんでも聖弥くんでもなく、須藤くんが一言入れてくれたおかげでその場は収まった。



 お昼には戻らなきゃいけないから、私たちは敵の強さを量りつつ、結局7層で時間ぎりぎりまで戦いまくった。私と聖弥くんはソロ狩りで、クラフト3人はスリーマンセルで「囲んでボコる」を体現。


 金太郎ダンジョンの7層以降は森林エリアだったから、ミニアルミラージも出てくる。寧々ちゃんはやっぱりこれをテイムするのがいいんだろうな。

 てか、さっき誰かのすっごい悲鳴が聞こえたんだけど、誰だろうか。うちの班以外にも、3パーティーくらいこの階にいるみたいなんだよね。


「やっぱり、ツノウサがいいんじゃないかな」

「うん、攻撃力もそれなりにあるし、小さいから家で飼えるしね」


 テイムするモンスターについて寧々ちゃんとダンジョンを戻りながら話してたら、須藤くんがぎょっとしてた。


「法月、テイマー目指すの? クラフトだけでも大変なのに」

「クラフトってDEX大事でしょ? 柚香ちゃんがヤマトをテイムしたとき、LV2だったからジョブボーナスも成長補正に組み込まれたんだって。だから、適当なモンスターをテイムして、テイマージョブだけ取っちゃおうかなと思って」

「それマジ? 僕もやろうかな」


 おっと、須藤くんもテイムする気になったみたいだ。寧々ちゃんと須藤くんはLV7まで上がったけど、須藤くんの方がステータス低いんだよね。やっぱり普段の訓練の差かなあ。

 普段学校だけでいっぱいいっぱいみたいだし、仕方ないけども。


「ツノウサテイムしたら、家で飼わなきゃいけなくなるよ」

「あっ、そうか。うち無理かも」


 あいちゃんの一言で須藤くん断念。早い。


 帰りは他の人たちがモンスを倒してた後だから、さくさくと帰れるね。

 行きが大変だったけど、帰りは順調だな。


 ……聖弥くんが喋ってないことを除けばねぇぇぇぇぇ。