第100話 合宿準備

 夏休みに入った直後、冒険者科の合宿がある。

 場所は南足柄にある、冒険者協会神奈川支部のセミナーハウス。ここを冒険者科のある高校で交代に借りることになってる。


 なんか、貸し切りじゃないときには宿泊施設として一般にも開放されてて、お安い値段で泊まれるらしい。……言っても、場所が場所だし、あんまり観光客が泊まるところじゃないけど。

 箱根のすぐ側だけど、セミナーハウスの地図を見る限りは近くにバス停もないし、かなり不便。


 じゃあなんでこんなところにわざわざ冒険者協会が合宿所を作ったかというと、ここは目の前に初級の金太郎ダンジョン、少し離れた徒歩圏内に中級の足柄ダンジョンのふたつがあるというとんでもない立地なのだ。

 高校冒険者科の合宿所としては、この上ない条件だね。

 山奥だけど。



 蓮と聖弥くんが転入してきてから、合宿に向けてクラスでは準備が進んでいた。

 ステータスを基準にした班分けとか、いろんな当番決めとかね。


「先生! ヤマトは持ち物に入りますか!」


 まず最初に私が確認したことはそれだ。

 だって私はテイマー! 従魔ありきで戦闘するのが本来のスタイルだし。

 かれんちゃんが呆れて、隣の席からぺしっとツッコミを入れてきた。


「そんな、『バナナはおやつに入りますか』のノリで従魔を連れていこうなんて……」

「ああ、それなー、職員会議でも紛糾したんだが」

「既に職員会議の議題になったんですか!?」


 驚いた蓮が立ち上がって先生にツッコんでいる。大真面目に腕を組んでうんうん頷く先生。マジですか……職員会議で取り上げられたんだ。


「柳川をテイマーとして扱うなら許されるべきなんだろうけども、1年生のこの時期にテイマーのジョブを既に取得して従魔がいた前例がなくてな……何せまだ設立されて7年だから、前例のないことばかりなんだ。

 会議の結果、柳川は今回戦闘専攻枠に数えることで、従魔はなしということになった。ヤマトが強すぎて実習にならない可能性も大きいしな」

「だよなー」

「あれは反則」

「クラス最強なのが従魔な時点で問題がある」

「でも柚香ちゃんの言うことあんまり聞かないよね」

「言うこと聞かねえ従魔なら、もっと問題有りじゃねえ?」


 クラスのあちこちから上がる意見に、ぐぬぬとなる私。

 確かに学校で使う装備だとあんまり補正が付かないから、ヤマトのステータスは文字通り桁違いの強さになっちゃうんだよね。


 私だって分かってますよ。ヤマトがいるとバランス崩壊するって。


 でも、毎日一緒にいたいんだもんー!!


「うえーん、ヤマトに2日も会えない……」

「それが本音なのか……。誰でも一緒だよ、大好きなペットに2日会えないってのはさ」

「ヤマトはペットじゃないもん!」

「従魔だもんって言うんでしょ?」


 かれんちゃんに完封された……。

 確かに、ペットなら連れて行けない。ワンチャン、従魔ならと思ったんだけどやっぱり甘かったか。


 私がしおしおとなっている間に、黒板にはなんか名前の書かれた紙が張り出されていた。パーティー決めを始めるらしい。

 クラス全員の名前が書かれた横に、AとBというアルファベットが書いてある。書いてない人もいる。なんだこれは?


「これから合宿中のパーティーを決める。できるだけ強さが均等になるように、提出して貰ったステータスと実技評価を基準にランク分けをした。Aは各パーティーにひとり、Bは各パーティーにふたり。あとは無印ふたりで5人パーティーを7つ作って貰う」


 えーと、つまり先生から見てAってのは「一緒にすると他のパーティーとのバランスが取れなくなる強い生徒」って事なのか。

 メンバーは、私、彩花ちゃん、かれんちゃん、倉橋くん、中森くん、前田くん、蓮……蓮!?


「俺、Aなんですか!?」


 おっと、自分で「俺強くない」と反論してる人がいますけども。

 確かに、実技ではダメダメだね。武器持たせてもセンスが欠片も感じられないし。

 でも、自分が天然魔法使いだって自覚がないのかな。


「むしろ、魔法有りで1on1をしたら、安永が一番強い可能性が高い」

「ていうか、その条件だと死人が出ますよ……」


 大涌谷ダンジョンで蓮の魔法を食らったばかりの私が呟くと、クラスの大半がうんうんと頷いた。

 MAG50超えだもんね……一方、最大HPが50に達してない生徒の方が多いし、RSTは普通そんなに高くなるもんじゃない。蓮と聖弥くんの上がり方がおかしいだけ。


 つまり、蓮に威力の高い中級魔法を打たれたら、きっちり避けない限り死ぬ。もしくは、魔法打たれる前に高AGIで突っ込んで蓮を潰すしかない。

 距離によっては詠唱の方が圧倒的に早く終わって、最悪至近距離で魔法を食らうことになるし。


「安永は回復も攻撃魔法もいけるからな。1年生というか、そもそも在学中にここまで魔法系が強くなった生徒は初めてだぞ」


 蓮はポカンと口を開けたまま、反論できなくなってた。

 毛利さんにも「一般からどれだけ逸脱してるか認識できてない」って言われてたけど。大涌谷ダンジョンで私のHPを半減させるという大惨事を起こしても、まだそう思ってるのか!


「蓮、もしかして自分が強いのって装備のせいだと思ってない?」

「お、思ってる」

「ふざけるなー! MAGがそんなに高いくせに! ドアホ!」


 思わず席を立って行って、ルーズリーフでびしばしと蓮を叩いたらかれんちゃんと聖弥くんが慌てて止めに入ってきた。


「柚香ちゃん! 蓮がもっとアホになるから!」

「先生のいる前で暴力ダメ!」

「待て……叩かれてるの俺なのに、聖弥にまでディスられた……」

「柳川~、席に着け。納得いかない気持ちは分かるが、先生も安永の自覚ないっぷりに驚いたところだ」


 むう……先生がそう言うなら仕方ない。


 Bランクにされてるのは、A指定されてない戦闘志望の人と、あいちゃん。あいちゃんはクラフト志望だけど戦闘力に関しては戦闘専攻と同レベル扱いか……。

 聖弥くんもBだった。でもここで注意が入って、聖弥くんは蓮と同じパーティーにするのはやめろって。

 理由はMAGが10行ってるから、聖弥くんの選択によっては1パーティーにヒーラーがふたりになってしまうからだってさ。MAGが10行ってるもうひとりこと宇野くんも、同様の指示が入ってる。宇野くんの場合はもう既に初級ヒールを取ってるから、絶対蓮のところはやめてくれとまで言われてた。


 なかなかめんどくさいな……でも私は誰と組んでも前衛を期待されるから、立ち回りに関してはあんまり悩まなくていいかも。


 結局、わやわやと教室中をみんながウロウロしながら相談した結果、私のパーティーは私と聖弥くん、あいちゃん、寧々ちゃん、須藤くんに決まった。

 結局なんだかんだで、割と仲いい人と組んでるんだね。聖弥くんは、蓮と一緒じゃないなら私っていうセレクトだったみたいだし。


 テイマーひとり、戦闘ひとり、クラフト3人っていう異色の組み合わせだけど……あれ?


 もしかして、このメンバー、全員近接戦闘では……。