第99話 大涌谷ダンジョン攻略

 5層と6層はプチサラマンダーに囲まれる前に、進行方向にいる奴だけを倒してささっと進んだ。

 7層に入ったら森林エリアで、ダンジョン内なのに思わず深呼吸してしまった。


「あー、フィトンチッドー! 溶岩エリアの後だから凄く清々しい!」

「確かにね。敵さえ出なければここで寝っ転がりたい」

「敵が出なきゃな……」


『森にはヘビが出るぞ』

『あと化けキノコとツノウサくらいか』

『初級だから毒のない、でかいだけのヘビな』


 ダンジョン情報が流れてくる。見てる人も多いから、こういう情報も貰えて助かるね。


「サザンビーチダンジョンの4層からも森林ですよ。あんまり敵と戦ったことはないけど」


『確かに、前も駆け抜けてたような』


 うんうん、多分それは蓮たちと初めて会った日のことだね。あの時は帰りは戦ったけど、行きは確かに駆け抜けた。

 あとはMV撮影したときにも行ったけど、その時も駆け抜けてる。


「ヘビ、嫌だな」

「蓮は前にヘビに絡まれてるから」


 心底嫌そうな顔の蓮と、やっぱりため息をつく聖弥くん。SE-REN、いろいろされてるなあ……。


「えっ、サザンビーチダンジョンで?」

「そうそう、行きに確か5層辺りで、木の上から落ちてきたヘビにビビってたら、ツノウサに突撃されて、ひるんでるところでヘビに巻き付かれてた」

「聖弥が剣で切ってくれなかったらヤバかった」

「ええええ……確かに、全くステータスあげてなくて装備も付けてない一般人だとダンジョンは危ないけど、仮にも一応冒険者なのに初級ダンジョンでそんなにピンチに陥るもんなの?」

「陥るもんなんだよ!」


『ゆ~かと一緒にしてはいけない』

『あの時は見てて叫びそうになったよー』


 蓮の叫びに同調するようにコメントが入る。ううむ……そうなのか。

 サザンビーチダンジョンの森林エリアは4層からで、大涌谷ダンジョンの森林エリアは7層からだから、こっちの方がちょっと敵が強いんだよね。


 確かに、ヘビとか割とどこから出るかわからないからなあ。


 ……とか思ってた時期が私にもありました。

 ヘビことグリーンスネークは出たけど、ヤマトに首を噛まれて一撃だったし、化けキノコは私の棒手裏剣2発で倒せた。


 あとは、ツノウサことミニアルミラージ。これは割と人気のあるモンスターで、角の生えたウサギだね。黒い角が特徴で、ミニが付かないアルミラージはそこそこ強いモンスターなんだけど、いかんせん「ミニ」なんだよね。

 動物関係の仕事に就くためにテイマーを取ってる人たちは、これをテイムすることが多い。弱いからテイムしやすいし、小さいし、家で飼えるからね。


 ツノウサは突進してきたんだけど、聖弥くんが盾で弾いたら結構いい音がした。

 これは……角で思いっきり盾にぶつかったな?

 見てみたら、脳震盪起こしたらしいツノウサがひっくり返ってる。そして、サクッとヤマトにとどめを刺されてた。


『強さがインフレ起こしてる』

『初級に潜る強さじゃないんよ』

『でも経験不足なんだよなあ』

『装備品の強さだからねえ』


 それなんですよね……。だから、今日は配信のためにダンジョン潜ってるけど、強くなることに関しては合宿の方が期待大なのだ。


 この辺りの敵も相手にならないので、サクサク進む。そして私たちはあっさりと10層に辿り着いた。

 運がよければボスが……いたー!


「うわ、ここも溶岩か……」

「ボスもいるね」


 相変わらずSE-RENは嫌そうに言うなあ! そこは喜ぼうよ!


「ふたりとも、配信してるって意識をもっと持とうよ! わーい、ボスがいた! って喜ぶところでしょ!」

「わーい、ボスがいた! 頑張るよ! 蓮が!」

「俺様ぁ!?」


 わざとらしく喜んで見せた聖弥くんが、蓮にさらっと押しつけてる。

 まあ、わかるけども。


 ここのボスは、レッサーサラマンダー。

 サラマンダーの、下位種って奴だね。本物のサラマンダーはもっと強い。四元素の精霊ってくらいだし。


 プチサラマンダーはトカゲ型でサラマンダーを小さく弱くした奴だけど、レッサーサラマンダーは赤いサンショウウオみたいな奴だ。

 でかくて、のたのたしてて、火を吐く。ほらぁ!


「うおっと!」


 プチサラマンダーの吐くブレスとは全然大きさが違う! それがこっちに飛んできたけど、私たちは軽々避けた。


「私たちが叩いても良いけど、ここは蓮でしょ」

「僕もそう思う。今日はいいとこがなかったし」

「聖弥までそんな事を言うんだ……」


『あれだけでかければ的も外さないし』

『蓮くん頑張れ~』

『頑張れ魔法少女』


「魔法少女じゃねえから!」


 コメントに叫び返しつつ、蓮はロータスロッドを構えた。


「アクアフロウ!」


 レッサーサラマンダーの吐いたファイアーブレスよりも、蓮が打つアクアフロウの方が大きいなあ……。

 水の塊がどかっとレッサーサラマンダーにぶちあたり、オアアアア……って悲鳴だけがこだまして、ボスは倒れた。


 一撃か……。

 強くなったなあ~。


「あっけなかったね……」

「火属性に水魔法をぶつけるのは常道だよね」

「おおおおおおおお俺が、ボスを一撃で?」


 蓮は狼狽してるけど、補正込みでMAG250越えだよ?

 魔力「だけ」なら日本屈指だよ、君は……。


「いや、多分あれ、オーバーキルだった」


 私が呟くと、コメント欄も同意の渦!


『アクアフロウの水球は、普通あんなにでかくない』

『もしかするとゆ~かか聖弥でも一撃だったかもしれない』

『遅くてでかい相手だと、遠距離でぶつかられる魔法は安定するね』

『でもレッサーサラマンダーは魔法系だから、RSTはそれなりにあったはずなんだが』


 RST100越えてる私でも、さっき一撃でHPが150以上削られましたけどね……。

 初級ダンジョンのボスだから、多分ヤマトでも一撃なんだよね。シーサーペントがそうだったし。


 残念ながらボスドロはなし。そして赤い魔石が出たけど、さっそくヤマトが前脚の間に挟んでボリボリしております。骨ガムの如く。

 うーん、さっきひとつだけ拾えたツノウサの角と、プチサラマンダーの魔石だけが収穫かあ。


「なんか、あっけなかった。SE-REN火祭り事件みたいな撮れ高を期待してたのに」

「いや……蓮がゆ~かちゃんに魔法ぶつけたから、もうそれで十分じゃないかな」

「ああ、そうだよね!? そういえばさっき蓮、『俺』って言わなかった!?」


『言った!』

『言ってた』

『LVどうなった?』


「そうだ、LV!」


 聖弥くんが慌ててアプリをチェックしてる。そして、スン……って顔になった。

 うわ、嫌な予感!


由井聖弥 LV10 

HP 58/58(+310)

MP 17/17(+300)

STR 12(+198)

VIT 11(+204)

MAG 11(+197)

RST 13(+204)

DEX 12(+199)

AGI 11(+198)

装備 【エクスカリバー】【プリトウェン】【アポイタカラ・セットアップ】


「平たい……」


 一番低いステータスが11で、一番高いのが13ってどういうことよ。

 しかもRSTが高いのは、さっきのプチサラマンダーの集中砲火のおかげだよね?

 AGIが伸びないのはなんとなくわかるよ。AGIが上がりそうな動きしてないもん。盾持ちファイターだし。


 解せぬのは、MAGの上がり方だね! なんでLV2上がって、何もしてないはずなのにMAGも2上がってるの!


「聖弥くん、MAG上がってるのなんで!? 私なんかLV9上がってやっと2上がったのに!」

「それは、蓮から聞いて金沢さんから教わった魔力の訓練法をしたからだと思う」


 さらっと答える器用貧乏。それだよ……。


「というか、それはわかった。納得できた。だけど、同じ事をしてるはずなのに私のMAGが上がらないのはなんでかなあ!」

「才能がないからだろ」


 いつも私に「STRの才能がない」って言われてる蓮が、「へっw」と言わんばかりの顔で言う。


「気にしてるのに! 気にしてるのに! デリカシーがない!」

「俺……俺様だって気にしてるんだぞ!?」


 蓮の首を絞めようとする私と、必死に私の腕を掴んで阻止しようとする蓮。

 くっ、何故かこういうときだけ「日常生活ではこのくらい」の修正が入るんだなあ! 圧倒的にステータスでは私の方が強いのに、止められる!


『ぐだぐだしてんなあ』

『こいつらはこれでいいんだよ……』

『男ふたり女ひとりなのに色恋の気配が全く感じられない件』

『だがそれがいい』


 結局、「蓮が死ぬから」って聖弥くんに引き剥がされたけど、私的にスッキリしないなあ、いろいろと!