月曜日に先生が「ゴーレム師匠とスパーリング」と言ってたのは、中級ダンジョンにいる「固くて遅くて強い」ゴーレムと長時間白兵戦をしろってことらしい。調べようと思ってコロッと忘れてたんだけど、かれんちゃんが教えてくれた。
神奈川だと中級ダンジョンはいくつかあるんだけど、有名なのは小田原城ダンジョンかな。茅ヶ崎からだと東海道線1本で行きやすいし。
ゴーレム師匠とスパーリングをしてる初心者装備の人を見たら、ヒールしたり補助魔法を掛けたりして手伝ってやれって情報板にも書いてあった。
先輩冒険者と後輩冒険者、こうやって繋がっていくんだねえー。
そういえば、ヤマトの場合はどう鍛えたらいいのかな。
そもそも元が強いから鍛える必要はない気もするけど、ヤマト自身の安全にも繋がるからステータスはできるだけ上げられるようにしてあげたい。
……と言うことをママに相談したら、スマホでまたスパパッと誰かに訊いていた。そしてすぐ返信がきて、うんうんと頷いている。
「あーあー、なるほど。こっちを倒そうとしない強い従魔と戦わせるのね」
「ヤマトより強い従魔? そんなのっているの?」
ママが妙に納得してるので、疑問に思ったことをストレートに突っ込んだら驚愕の答えが返ってきた。
「フレイムドラゴン」
「なんですと!?」
フレイムドラゴンって……確か上級ダンジョンにレア湧きするっていうドラゴン四天王の一角じゃん!
そんなのを従魔にしてる人がいるの!? どんな化け物なの!?
「
そのフレイムドラゴンが良く躾けられてて、従魔相手なら手加減しながら適当にあしらってくれるらしいわよ」
「え、大山阿夫利ダンジョンって、あの大山!?」
あの大山って、うちから見える大山連峰の!? 阿夫利ってわざわざ付いてるから、あの大山なんだよね? 字だけだと「
てか、そもそも寒川とか茅ヶ崎には「大山街道」っていう、昔の人たちが大山参りをするために通った街道もある。
神奈川ではとってもメジャーな山なんだよね。
上級ダンジョンがあることは聞いてたけど、まさかそんな近場に最強格のフレイムドラゴンが従魔としているなんて。
うーん、世界は広いけど世間は狭いな。
あ、でもそういえば神奈川って冒険者が多いんだっけ。
全国でもトップ5に入るダンジョン数があるんだよね。下手すると、神奈川だけでよその国ひとつ分以上のダンジョンがある。
名所旧跡神社古刹古戦場とか、そういう物の近くにダンジョンが出現したケースが多いし、東京はさすがにダンジョンができるような土地が足りなかったっぽいんだよね。
そりゃ、上野公園にはダンジョンあるけど、増上寺の境内にダンジョンの入り口出現したりしなかったし。
伊勢神宮の側にもダンジョンはあるけど、式年遷宮のために育ててる林の中らしいし。
そうか……神奈川って駅前とか住宅地は開けてるけど、割と田舎なところも多いし、幕府もあったし戦いもあったし、ダンジョンができるのにおあつらえ向きな条件が揃ってるんだー。
しっかし、フレイムドラゴンかぁー。見てみたいなー。でっかいんだろうなー。可愛いかなあ? ドラゴンだからあんまり可愛くないかもしれないけど。
「MV撮り終わったら、一度行ってみる?」
「行く! さすがママ!」
もし可能だったら私もそこでスパーリングさせて貰おう! ヤマトと一緒に。
そして、蓮くんと一緒にひたすら練習を重ねて、金曜日に寧々ちゃんからできあがった装備を受け取り、土曜日のMV撮影日がやってきた。
「ママ、そういえばMVってどこで撮影するの?」
うちの地下室……じゃないよね。いくら背景合成出来ても、いろいろとあんまりだ。
「んっふっふ」
私の問いかけに、待ってましたと言わんばかりの思わせぶりな笑顔を浮かべるママ! これはいかん、絶対とんでもないこと考えてる!
「近くにあるじゃな~い。一年中晴れてて、青い空と砂浜のある海が!」
「まさか……サザンビーチダンジョン?」
「そうよ! サザンビーチダンジョン最下層! 24時間変わらない明るさで、実物よりも綺麗な海と砂浜! 最高のロケーションじゃない? やっぱりアイドルのデビュー曲なんだから爽やかに行かなきゃ」
「で、でも、行く途中に襲われたら!?」
今経験値を入れたくはないんだよね! 特に蓮くん。
私の懸念に、ママはまたにやりと笑って「チッチッチ」と指を振った。
「思い出してみなさい、蓮くんと初めて会った日のことを。あの時のユズは、補正のない装備で最下層まで駆け抜けたのよ。その間一度も戦闘にならなかったでしょ。だったら、防具で補正付けた状態なら尚更問題なく最下層まで行けるわ。
しかも、最下層はボスが2週間前にやられたんだからまだリポップしてないはずだし、ボス以外のモンスターが湧かないんだから安全。これ程撮影に適した場所ってある?」
うわーーーーーー。
超理論きたーーーーーーーーー。
いや、言ってることは確かに間違ってないんだけど、ダンジョンをダンジョンと思ってないよね!?
蓮くんたちと初めて会った日は、そもそも凄い人口密度が高い状態で、他の人がモンス狩りをしてたからこそ駆け抜けられたんだけど。
でも。
うーん? うーーーーーーん。補正なしでモンスに追いつかれずに最下層まで突っ切ったのは間違いない事実で。
私は昨日上がってきた新防具を着たときのステータス補正のスクショを見直した。
ゆ~か LV6
HP 55/55(+50)
MP 6/6(+100)
STR 14(+65)
VIT 20(+70)
MAG 4(+65)
RST 5(+70
DEX 17(+65)
AGI 21(+65)
ジョブ 【テイマー】
装備 【アポイタカラ・セットアップ】
従魔 【ヤマト】
昨日は名前見た瞬間笑ったけどね。何よ、「セットアップ」って。確かにセットアップだけどさあ。
私の防具はトップスとボトムスとスパッツと靴で構成されてるけど、それ全部ひっくるめてひとつと見なされたよ。蓮くんは1パーツ少ないのに補正同じなの。ずるい!
AGI補正が防具だけでも+65。これは防具としては最高級。なにせ総アポイタカラだしね。
この防具のいいところは、全体的に補正がバランス良く付いてるところなんだよね。
つまり、蓮くんのVITも大幅に引き上げられている。
だったら行けるか?
あれ? でも、ママは!?
「ママはどうするの? まさか私の村雨丸背負っていこうとしてる?」
「そのまさかでーす。ヤマトも連れて行けばまず大丈夫でしょ? あと、愛莉ちゃんにも声かけてあるわよ。スタイリストとして必要でしょう?
愛莉ちゃんと蓮くんとユズがパーティーを組んでおけば、万が一雑魚モンス倒して経験値が入っても三分割されてLVアップのリスクは低くできるわ。愛莉ちゃんにはロータスロッド持って貰えばいいのよ。これで、4人ともまず戦闘になることなく最下層まで行けるってわけ!」
あいちゃんにも声かけてあるのか!
ママP、さすがだわ。
などと、このときの私は思ったのであった。