そのまま隠し水路を進んで行くと、やがてササアシスの海中に出た。…ほわ~。
モニターにはどこまでも広がる美しい青の世界が表示された。
「…久しぶりに見ましたが、相変わらず圧倒されますね」
すると、管制席に座るカノンが呟いた。
「半世紀前と変わってないのか。…ここの人達は随分と気を使っているらしい。
まあ、多分それが一番の『理由』なんだろう」
さっきは言わなかったが、恐らく警備隊の人達が水賊にてこずっている最大の理由は『自然に気を使っている』からだろう。…確か、ビームやミサイルは相当『影響』があるんだったよな。
では、主力となる二つの班はどうやって水賊と戦うのかと言うと基本は『頑丈さ』を生かした体当たりや、漁で使う『ハープーン』…銛を武装して敵船をホールドするといった『超脳筋』戦法を使うのだ。
そして、敵船が動けなくなった所をウェンディ少尉率いる制圧班が敵を無力化する…という流れだ。…皆さんがやけに好戦的な雰囲気を漂わせていたのは、この戦法故なのだろう。
「-マスター、巡視船『ブルーガル』より通信です」
「繋いでくれ」
すると、コクピットは少し明るくなり直後『海洋警ら班』の班長さんがモニターに表示された。
『こちら、巡視船-ブルーガル-です』
「こちらはカノープス号です。本日より宜しくお願いします」
『こちらこそ、宜しくお願いします。…それではこれより、-合同警ら業務-を始めます』
「了解しました。…あ、たった今巡視船を捕捉しましたので合流します」
『…ブルーガル、了解。しかし、本当に早いですね…』
向こうの班長さんは、『ダイビングカノープス』の性能に改めて驚いていた。
『…っ。確認しました』
そして一分も経たない内に、合流する事が出来た。
『…なるほど。確かにその船と-同じ性能-を敵が有していたら、かなり厄介ですね……』
-そう、やはりというか今回も船のシステム二つと装甲の『鱗』が盗用されていたのだ。…
だから、海洋警護班は敵を感知出来ずに輸送船に侵入を許してしまい、挙げ句逃げられてしまうのだ。
「…じゃあ、さっきお話しした通りまずは『一回消え』ますね」
『了解』
彼が返事をした後、メインとなるシステムの一つである『インビジブルメイル』を発動させる。
『…っ!カノープス号、ロストっ!』
『…本当に、-消えた-』
そして数秒後にシステムを解除する。
『…凄い。これが、-安全に水中探索-する為のシステムか……』
「ええ。『此処の海』と違い宇宙には危険な海が沢山ありますからね。今のは、危険な海洋生物が生息する海を探索するのに使う『メイル』です。
…そして、先程お伝えしたようにこのシステムには当然ともいうべき『穴』があります」
『…良し、それでは早速-展開-する』
「了解しました」
俺は返事をし、再び『インビジブルメイル』を発動する。すると、巡視船の後部ハッチから小型潜水船が二隻出て来た。
なので、俺はわざと二隻の船の間を通り抜けようとするがそれは叶わなかった。…何故なら、二隻の船の間には『半透明のネット』が張られていたからだ。
『…っ!こちら、水中捜査船-シーモンキー1号-。カノープス号を発見しました』
『シーモンキー2号、同じくです』
すると、モニターから報告が聞こえてきた。…そう、『インビジブル』とは言っているが完全に『消えている』訳ではないのだ。
『…しかし、まさかこんな単純な方法があったとはな』
そして、この網は『水中害獣用の捕獲ネット』になる。…そう、対策には何の特別なモノは要らないのだ。
「…まあ、『全域安全』なこの星では縁遠い道具ですからね」
『…いやはや、お恥ずかしい限りです。まさか、他の星系から来た方に言われるまで思い付かないとは…』
「…いやいや、こんなにも平和な海があるからこそ、この星は大人気のリゾート惑星になったんですよ」
『…それもそうですな』
こちらのフォローに、彼は誇らしげな笑みを浮かべた。
「…それに、あくまでもこの方法は『一時的な対策』に過ぎません」
『…っ!…確か、水賊には-支援者-が居ると言う話しでしたな』
「ええ。ただ、恐らく現地には居ないでしょうから『別のアプローチ』で行きます」
『…それで、-例の場所-に繋がるのか。やれやれ
、本当に-柔軟な発想力-だ。
では、ついてきなさい』
「お願いします-」
俺は巡視船と共に海を巡回しながら、『下調べ』をするのだった-。
○
-Side『バンデット』
「-カシラっ!『来ました』よっ!」
「…フフ、分かりました」
手下の声に長身の男は自室を出て、ブリッジに向かう。…その口は悪意ある微笑みで歪んでいた。
「-…さあ、皆さん。『今日も元気に略奪』です」
『アイアイっ!』
男の掛け声に手下達は席についたまま応じる。そして、男は自分の椅子に座る。
「…にしても、『飽きもせず』よう運ぶな~」
すると、素足で床に座り込んでいた癖のある言葉を喋る栗色の髪のとてもその場にそぐわないタンクトップにホットパンツ姿の美女が彼に跨がった。そんな彼女の行動に男はその腰まで伸びた長い髪を上からゆっくりと撫でる。
「まあ、リゾートにいる『成金共』は日々贅沢三昧ですからね。…その暮らしが突如崩壊したのですから暴走しても当然です」
「…はあ~。やっぱ金の亡者にロクなヤツはおらんねんな~」
男の言葉に、美女はやれやれといったジェスチャーをした。そして、まるで当然のように男の首に腕を回し頭を引き寄せる。
男も、全く抵抗せずに…いやむしろ自ら進んで顔を近付け美女に口付けをした。
「……ん。
それに引き換え、『ダーリン』は常にクールやし頭もええね。…ホンマ、『拾ってくれて』サンキューやで」
「…フフ。私も君に出逢えて良かった。だって君に逢えたおかげで『こんなパラダイス』に来れたのだから」
「…ホンマ?
けど、まさかたまたまウチが助けた『あのべっぴんさん』がこんな『便利なモノ』ばかりか『狩り場』まで教えてしかも『運んでくれる』やなんてな~。
…一体、何者だったんやろ?」
「…もしかしたら、案外『君と同じ事情を抱えている人』なのかも知れないね。そして、力を貸してくれた理由は-」
「-カシラっ!アネゴっ!お話し中すみませんっ!
そろそろ、獲物に『食らい付きます』っ!」
二人が会話をしていると、手下が報告をした。
「分かりました」
「…っと」
美女は座席の上で器用に反転し男にもたれ掛かかりながらモニターを見た。
『-シャーク・ワン、行くぜっ!』
『シャーク・ツー、同じく』
すると、ちょうど良く二隻から襲撃開始の報告が来た。そしていつものように略奪は行われる…とこの場の誰も抱いていた愉悦の感情はこの日、見事に『真逆』の感情になる。
『-っ!?な、なんだっ!』
『くそ、進-っ!?』
「っ!?し、シャーク・ワン、シャーク・ツー、ガードと交戦っ!」
襲撃に向かった手下から緊迫した様子が伝わって来たと思ったら、直後に『あり得ない事態』が発生した。
「…う、嘘やろ……」
「…驚きましたね。まさか、『こんなに早く』対策をしてくるとは」
唖然とする美女とは違い、男は冷静に分析した。
『おい、何でこっ-っ!?』
『ちく-っ!?』
「し、シャーク・スリー、シャーク・フォー、交戦っ!」
「…残りを今すぐ『撤退』させて下さい」
「…っ!あ、アイアイっ!」
「…何がどうなっとるん?」
「…どうやら『ガードの方々』は我々の『秘密兵器』の弱点に気付き『水中害獣用捕獲ネット』を輸送船のルートを衛るように配置したのでしょう」
「…な、何で今日になって……」
「…恐らく、強力な援軍が駆け付けたのでしょう。つまり、帝国政府がいよいよ本腰を入れたという事です」
「…マジなん?」
「…大丈夫。その援軍は恐らく『凄まじい知略』を武器にした『たった一人』です。
つまり、彼は『戦う術』を持っていません」
「…けど、警護隊の基地に詰めているんとちゃう?」
「…その可能性は低いでしょう。何せ、『頭が良いだけのたった一人の援軍』です。
とても、『あそこの方々』とは仲良くはなれないでしょう。故に、寝泊まりする場所を突き止め身柄を押さえてしまえばまた優位に立てます」
「…確かに。流石ダーリンは頭がええな~」
男の分析に美女はうっとりしながら誉めた。
「それに、所詮『あんな当たり前の対策』しか思い付かない方です。ならば、然したる問題ではない」
「…あ、もしかして『あのべっぴんさん』に連絡するん?」
「ええ。…確かそのご婦人は『何か入り用でしたら連絡して下さい』と言っていましたから、大丈夫でしょう。
…連絡を頼めますか?」
「任せてや-」
美女は嬉しそうに頷き、ブリッジを後にした。
-しかし、彼らは知らない。…というか、予想出来る筈がなかったのだ。
その『分析を見誤った-彼-』に、散々苦汁と辛酸の『ミックスジュース』をお見舞いされるなんて事は…。