「-…恐れいったよ」
二つ目の精密操作対決を終え操縦席を立つと、彼は拍手で称賛してくれた。
『……』
一方、他の隊員は『引き分け』に持ち込まれた事に驚愕していた。
「どういたしまして。……(…妙だな)」
「…どうかしたのかね?」
「…少し、違和感を覚えたのですが……」
「…それは、今回の件に関する事かな?なら、遠慮なく『エージェントたる君』の意見を言ってくれて構わない」
先程までとは違い、彼に懐疑的な感情は消えていた。
「…ありがとうございます。
気になっているのは他でもなく『水賊』の事です。
…幾ら『警護対象』が多いとはいえ、精鋭揃いのこの班を手玉に取れるのは何故なのでしょうか?…あ、勿論『報告』は事前に読んで来ていますがどうしても『引っ掛かって』しまうんです」
「…なるほど。つまり、君が言いたいのは『連中は得体の知れない-何か-』を持っているという事だな?」
「はい…。…そして、それは恐らく直近で発生した二つの事件と密接に関わる『モノ』だと推測出来ます」
「…そうか。実はな、我々もその可能性が高いと睨んでいるのだ。ただ、推測の域を出なかったので報告書には記載していなかったのだが…。
…その二つの事件を解決に導いた君も『そうだと思うなら』、ほぼ間違いないだろう」
彼は、自信に満ちた表情で言った。
「…いやはや、流石プロは違いますね」
「いやいや、我々から見ても君も立派なプロフェッショナルだよ。…だからこそ、帝国政府は君を派遣したのだろう。
-整列っ!」
『はっ!』
彼が号令を掛けると、隊員達は迅速にその後ろに一列に並んだ。
「本官は、海洋警護班班長グスタフ=エルスマン中尉でありますっ!
どうか、宜しくお願いいたしますっ!」
『宜しくお願いいたしますっ!』
彼が敬礼すると、直後に隊員達が完璧に同じタイミングで敬礼した。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
こうして、俺は二つの実働部隊の人達と連携が出来るようになったのだった-。
○
-そして、再びブリーフィングルームに戻ると最早、俺に不満や懐疑的の感情は向ける人は一人もいなかった。その後、ミーティングは終了となり俺は巡視船の出発までの時間を利用し『とある場所』に来ていた。
「-お久しぶりね。オリバー君」
その『施設』の前には、一人の優しい雰囲気のご婦人がいたのだが、その人は俺を見るなりニッコリと笑った。
「…お久しぶりです。
-シュザンヌ伯母様」
…まあ、要するにこの人は俺の義理の伯母にあたる方にしてレーグニッツ家現家長…すなわち、少佐のお父上の奥様なのだ。ちなみにこの方、今は『此処の責任者』だが昔は『かなり有名な学校』で教鞭を振るっていた凄い経歴の持ち主だったりする。
「…うふふ。まさか、『甥っ子』が訪ねて来てくれるなんてね。しかも-」
すると、伯母上は素早く俺に寄ってきた。
「-まさか、そんな君が『伝説の後継者』だったとはね?」
…っ。『相変わらず』だな…。
とてもティーンエイジャーの孫がいるとは思えない容姿の彼女に耳打ちされ、ちょっと幸せな気分になった。
「あら、相変わらず『面白い』反応ね?
…さて、出来れば甥っ子と仲良くなりたいところだけど、『そうも行かない』のよね?」
彼女は俺から離れ、残念そうな表情になった。
「…すみません」
「謝まらないで。…だって貴方は『問題解決』の為に来てくれたんでしょう?」
「はい。尽力させて頂きます」
夫人の問いに俺は力強く応えた。
「…じゃあ、早速案内しましょう」
「お願いします」
彼女の後に続き俺はその建物…『海洋博物館』に入った。
「-…あ、『レーグニッツ館長』。お疲れ様です」
すると、こんな時でも職員の人達が居た。
「…あ、ひょっとして彼が例の甥っ子さんですか?」
「そうよ。格好良いでしょう?」
職員の言葉に、夫人はとても誇らしげに応えた。
-…そして、そんな感じで職員しか居ない博物館の中を進んで行き『スタッフオンリー』のエリアに入った。…それにしても、まさかこの人が『番人』だったとはね。
「…あら、そんなに意外かしら?」
「…(相変わらず鋭い。)…いや、良く考えたら納得の人選です。…だって伯母上は『家庭教師の一人』でしたからね」
「…フフ、懐かしいわね。ホント、昨日の事のように覚えているわ。
-あの時は『恩人』であるヴィクターさんに頼まれてから引き受けたけど、その意味が『今日』ようやく分かったわ」
いつしか人気が無い資料保管室に通され、そこでふと彼女は足を止めた。…どうやら、ここに入口があるらしい。
「…『入口』はそっちの壁よ。はい、どうぞ」
彼女は右側の壁を指先し、それから振り返ってカードキーを渡してくれた。
「(…ふむ、『自力で頑張れ』って事か。)ありがとうございます」
「…何も聞かないなんて、ホント『格好良くなった』わね?」
「…貴方を含めた『先生達』のおかげですよ」
「…ありがとう。
-職員の子達には上手く言っておいてあげるから、『頑張って来なさい』」
「はい。行って来ます」
俺が頷くと彼女は満足げに頷き、来た道を戻って行った。…さて-。
俺は壁に近付きじっくりと観察する。すると、下の方に小さな穴が二つ空いていた。
『-その船は、水の中を自在にそして平穏に渡る鱗を持っている。そして、その泳ぐ姿はまるで-』
その時ふと、頭の中に『ノベル』の一節が浮かんだ。だがら俺は、そこに手を当てる。…ビンゴ。
直後、ガチャリと言う音が聞こえそこから『特徴的』な形のセンサーが伸びて来た。なので、今度はその二又に分かれた『蛇の舌』のようなセンサーに指を近付ける。
すると、壁の一部がドアとなりゆっくりと開いていった。…ホント、スパイノベルのような仕掛けだな。
そんな事を考えながら立ち上がり、奥に進みいつものエレベーターに乗りそして目的の場所にたどり着いた。
-そこは、大きなプールのようになっておりその中に『白銀の大蛇』が鎮座していた。
これが水中探索特化の『EJ-06:ダイビングスケイル』だ。…っと。
感動していると、通信ツールが鳴った。
『-こちらカノープス号です。おめでとうございます、マスター』
「ありがとう。…じゃあ、早速だが『来てくれ』」
『畏まりました-』
すると、突如秘密の格納庫天井から『イーグル』の型をした無人機体…『ワープイーグル』とカノープス本体が出現した。そして、カノープスは『ヘビ』の頭目掛けてゆっくりと降下していく。
やがて、カノープスと『ヘビ』は無事ドッキングした。…直後、『ヘビ』への道が出現したので俺は『水中探索船:ダイビングカノープス』に乗り込んだ。
「-やあ、カノン」
「はい、マスターオリバー」
そしてコクピットに入った俺はカノンと挨拶を交わし、早速操縦席に座り操舵ハンドルを握る。
「-『ダイビングカノープス』、発進スタンバイ」
すると、カノンはいつものように宣言する。直後、モニターが起動しコクピットの明かりは最小限になる。
「発進スタンバイ、完了」
「『ダイビング』スタンバイ」
「イエス、キャプテン」
カノンが返事をすると、モニターに『チャージスタート』と表示された。…おお、早い。
水はどんどん注入されそれに合わせて『ダイビングカノープス』もゆっくりと潜航していく。それから数分後、『ヘビ』はプールの底にいた。
「『ゲートオーブン』」
「『ダイビングカノープス』発進」
その言葉を彼女が告げると、分厚いゲートは開いた。それを確認し、俺はペダルをゆっくりと踏んだ。