すると、彼女は両手を挙げ『降参』した。
『ーなっ…。…そこまでっ!』
直後、アナウンサーは驚きつつも宣言しブザーを鳴らした。
「…ビークルを持ち込んでいたなんてね……」
「でなければ、あんな高い所に乗りませんよ」
苦々しい表情の彼女に、俺はニヤリと言う。
「…そう。だからこそ、『二点先取』にしてくれたのね……。
ー次は『全力』でいかせて貰う」
その瞬間、彼女は俺に対する侮りを捨て『プロ』の顔つきになった。
「…コールをお願い」
『っ!ラジャー。
ートレーニング、リスタート。カウント3』
それに合わせ、俺と彼女は互いに背を向けて隠れた。
『3、2、1、GO!』
…さて、まずはー。
低速で動き出し少し奥に移動する。そして、『仕掛け』を施しまた奥に行く。その時、右から僅かな気配を感じる。
「『クイックターン』」
俺は急速に方向転換し、近くの柱に向かう。…っ、早い。仕方ない…。
すると、彼女の気配は消えた。…気付いた事に『気付いた』のだろう。なので、『プラン』を前倒しにする事を決めた。
まず、ボードから降りそれを奥に向かって押した。すると、ボードは俺が乗っていないにも関わらず空中を滑った。…そして、数秒後ボードは壁に当たってその場で止まる。直後、俺はあえて全力疾走で一気に反対の壁まで駆け抜けた。…お、迷ってる迷ってる。
それからまた10秒後、再びボードが何かにぶつかる音がした。それに合わせて、俺は右の壁に向かって全力疾走した。…名付けて、『ノイジースワロー』。
すると、彼女の足音がはっきりと聞こえた。…この方向、どうやら先にボードを止めに行ったな。
すると、三度目のボードの『ジャミング』は発動しなかった。…ああ、『やっちまった』な。
しかし、俺はその時点で壁から出た。直後ー。
「ーうわっ!?」
反対側から驚きの声が聞こえた。…そして、俺は上に視線を向ける。
「…っ!?」
「…あれーっ!?『ちゃんと少佐の事前説明』は聞いてましたよねーっ!?
…当然、『エージェントである俺が使うツールが普通じゃない』って思うと思うんですけ…どーっ!?」
ボードにインストールされた『セキュリティシステム』によって空中に『ホールド』された彼女に、俺は力を込めてロングバトンを投げた。…すると、ロングバトンは彼女の持つビームガンに命中し奥にぶっ飛ばした。
「ー…さあ、どうしますか?」
直後、全力疾走でその下に向かいビームガンを回収し、ニコニコしながら彼女に聞いた。
「…ああ、もうっ!負けを認めるわっ!」
『……っ!そ、そこまでっ!』
アナウンサーはハッとし、慌てて宣言した。
「『スローダウン』」
ブザーを聞いた俺は、速やかに『ゆっくり』と降ろした。
「……ホントに貴方、民間の出なの?」
床に降り立った彼女は、つかつかとこちらに詰め寄り質問して来た。
「ええ。『緑の銀河』出身です」
「…っ!?少佐の奥様と同じ所なのっ!?」
特に問題無いので答えると、案の定彼女はびっくりした。
「…ああ、そう言えばそんな事仰ってましたね~(プライベートでも交流があるんだ…。いい部隊だな~)」
「…あ、もしかしてもうお会いしたの?」
心が暖かくなるのを感じていると、ふと彼女は心配そうな表情になった。…ああ、『そっち』も知られているんだ。
俺は『二重の意味』で苦笑いを浮かべる。
「…ええ。
いやはや、ついて早々『お叱り』を受けてしまいましたよ」
「…でしょうね。奥様のご友人の方々もかなり貧窮していると聞いています」
「…なのに、帝国政府が寄越したのはたった1人のエージェントだけ。奥様の憤りももっともです。…ああ、ですが私が『同郷の者』と知るやいなや『落ち着かれた』のでご安心下さい」
「…良かった。
…でも、『平和な星系』とも言われるグリンピス出身の人が何で『実戦慣れ』しているの?」
ホッと胸を撫で下ろした彼女は、当然の質問をして来た。
「…長くなるので、座ってお話ししましょう」
「…え、そんな深い理由なの?…分かったわ」
彼女が床に座ったので俺も正面に座る。
「…まず、第一に『ズル賢い』のや『狂暴なヤツ』と日常的に戦っていました。…ホント、奴らにはどれほど泣かされて来たか……」
「…あ、そうか……。
農業や酪農、養鶏等がメインの星系だから当然それを狙う小型の『害獣』が出没するのね?
…確かに、野生の住人でもある彼ら相手にするのもそうだけど何より、『丹精込めて育てたモノ』を守る為にそれなりの運動神経は必要か……。…でも、それにしたって貴方のはちょっとー」
「ーそこで、第二の理由です。
私は幼少期からほんの数年前まで、『家庭教師の方々』に『宇宙に出る為の様々なスキル』を学びました。
実技だと、今お見せした『制圧術』は勿論船の操縦技術に地形や道具を利用した戦い方や気配の探り方やマナーに至るまで。
座学は、言語に歴史に地理に記憶術や柔軟な思考を育む授業なんかもやりましたね」
「……民間人の貴方に何でそんなに?…いや、『エージェント』に育てる為というのは分かるけど、普通そういうのって『親もエージェント』に就いているんじゃないの?けど、ついこの間まで民間人だったらー」
「ー…まさに、『そのパターン』だったんですよ」
「……嘘」
「…これは三つ目の理由にもなりますが、さっきの戦い方は元々『先代』…祖父が編み出した戦法なんですよ」
「……貴方の祖父様って、何者?」
「…あれ?さっき名乗ったと思うんですが?」
「………本当に、あの『キャプテン・プラトー』血縁者だったんだ……。…てっきり、憧れてるだけの『他人』だと思ったわ……」
「…まあ、普通はそう思いますよね。
-なので、今日より『証明』して見せましょう」
「…なるほど。こりゃあ確かに『強力な援軍』だ」
すると、彼女は立ち上がり敬礼した。
「-本官は、セサアシス警備隊海上制圧班班長のウェンディ=アルスター少尉であります。
そして-」
アルスター少尉が言葉を切ると、トレーニングルームのドアが開き男性が入って来た。
「-失礼しますっ!
本官は、海上制圧班班長補佐のクルト=ディランディ少尉でありますっ!」
そして、アルスター少尉の横に立ったディランディ少尉…アナウンサーをしていた人は敬礼をした。
「「宜しくお願い致します。プラトー三世殿っ!」」
「…こちらこそ、宜しくお願いします」
互いに敬礼し、そして俺達は固い握手を交わした-。
ーその後、アルスター…いやウェンディ
「-失礼します」
『…お待ちしていました。どうぞ、お入り下さい』
許可が出たので、俺は部屋に入った。…おお、流石警備隊の施設だけあって部屋そのものが-そう-なのか。
部屋に入ると、中は免許センターのテストルームのようにコクピットその物だった。
「…どうやら、アルスター少尉に勝ったようですね。なるほど、『白兵戦』は申し分ないようだ」
ワクワクしながら部屋を見渡していると、先程真っ先にブリーフィングルームを出た背の高い筋肉質の男性が分析を始めた。…しかし、近くで見るとデカイなー。俺も大きい方だが、この人は頭半分以上はあるな。
そんな感想を抱いていると、彼…ジュール中尉は不敵に笑う。
「-だが、『船の扱い』に関してはどうかな?」
「…あはは、流石に実戦で鍛え上げた方に『勝つ』のは無理ですよ」
『-っ!』
俺もニコニコしながら返すと、計測機械に座る数人の隊員が一斉にこちらを見た。
「…ほう。
では、ステージを決めよう。…そうだな、君が決めて良い」
余裕の現れだろう。彼はこちらに決定権を譲ってきた。
「…そうですね。
-『水中』で」
『…っ!?』
再び隊員達はこちらを見た。…その時、部屋の空気が張り詰めた。
「…良いだろう」
彼は、鋭い眼光でこちらを見た。…あ、多分この人『水中戦の班長』だな。
「…では、まずはスピード勝負と行こうか-」
そう言うと彼は、操縦席に座るのだった-。