-…っ。
恐らく真夜中の時間であるにも関わらず、ふとアラームが鳴ったので俺は素早く目を覚ましたた。そして、寝間着からキチンとした格好に着替え貸して貰った部屋を出た。
「-あ。こんばんは、エージェント・プラトー」
「こんばんは、少尉」
『格納庫』に向かう途中ウェンディ少尉と合流し並んでそこに向かう。そして、格納庫前に到着すると既に数人の『制圧班』の人達が整列していた。…プロは違うな~。
「-敬礼っ!」
副班長のクルト少尉が号令を出すと、彼らは一斉に敬礼した。
「休めっ!」
「皆、昼間はお疲れ様。そして夜遅くにも関わらず集合ありがとう」
まず、ウェンディ少尉が昼間の労いと感謝を告げた。…いやー、基地に戻って来た時にも感じたけど皆さん『良い顔』をするようになったな~。
昼間の警護任務の大成功に、ピリピリしていた警備隊の人達もまるで別人のような穏やかな表情していた。余程、嬉しかったのだろう。
それが、士気の向上に直結し昼間激務を遂行したにも関わらずこうしてその日の夜に、『有志』の皆さんは『イキイキ』とした表情で集ってくれた。
「…さて、それでは早速『特殊任務』についての説明を始めます。
エージェント・プラトー、お願いします」
「了解です。
…皆さんに『手伝って欲しい事』は二つあります。
一つ目は、『リゾートエリア』の調査です。…これは夕方のブリーフィングでもお話ししましたが、今回の『最優勢事項』は『観光客の避難誘導』です。
そうすれば、必然的に水賊も活動しなくなるでしょう。…その為に、まずは『リゾートエリア』に『敵と味方』がどのくらいの割合でいるのか調べる必要があります」
『……』
夕方の時と同様、隊員達は『信じられない』といった表情になった。
「…やっぱり、信じられませんよね。だから、『調べる』んですよ。私の『直感』が『外れている』のを確認する意味でもね」
『……』
その言葉に、班の人達は納得したようだ。
「…そして、二つ目に頼みたい事も『それ』に関係します。
これも『勘』になりますが、今日の昼間の『諦めの早さ』を見る限り敵のボスはなかなかにキレ者です。そんな人物が私という『脅威』に気付かない筈も放置する筈もありません。
だから、その心理を利用し私を捕らえに来た手下を逆に捕獲するんです」
『……』
すると、またもや彼らは疑問の表情になった。
「…あ、ひょっとして『この基地に潜り込め…って指示を出す人間がキレ者?』て思ってます?
…まあ、『今の状況』を見ればそう考えるは当然ですが敵が『この状況』を予想するのは、不可能に近いんですよ。
何故なら、敵のボスは多分私の事を『頭脳労働』の人間としか認識していないからです。…そんな人が果たして『この状況』を作れるでしょうか?」
『……っ』
「…そう、『不可能』です。そして、そんな人が『自分を懐疑的、もしくは役立たず』と認識している人達がいる環境で安眠出来ると思います?…そんな人が居たら教えてください」
『……』
そして、彼らは感心した表情になった。
「…つまり、敵のボスはこう考えている筈です。
『-きっと政府からの人間は、宿泊施設に居る』と。…まあ、高級宿泊施設もセキュリティがしっかりしているのでそれこそ『キレ者?』と思ってしまうでしょうが、相手は犯罪者集団です。どんな卑劣な手段を使うか分からない。
…故に、民間人に被害を出さない為に私の『代理』として街中に出て欲しいのです。
…それで、『無手の制圧術』が得意な人にその役をお願いしたいのですが、どなたですか?」
「-はっ、自分でありますっ!」
すると、一人の女性隊員が名乗りを上げた。
「…えっと、確か貴女はゼシカ曹長でしたね?」
「はっ!」
ウェンディ少尉と同じような短いグレー髪のその女性に近付き確認する。すると、彼女は敬礼した。
「…じゃあ、曹長には『これ』をお貸しします」
俺は用意していた『ガジェット』を取り出し、彼女に差し出した。
「はっ、お借りします。…失礼します」
彼女は『それ』…『変装の機能』を持つ小型の『ヘビ』をそっと受け取り、断りを入れてから首に巻き付けた。
『-っ!?』
直後、彼女の容姿は一変する。短い髪は肩まで伸び精悍な顔は気難しい雰囲気に。鍛え上げた身体もいかにも内勤してそうな体つきになった。
「…え、どうしたんですか?」
当の本人は仲間の驚愕の視線に困惑していた。なので俺はそっと手鏡を出す。
「…へ?……っ!?だ、だれっ!?…って、まさか『私』ですか?」
当然、彼女はぎょっとした。しかし、直ぐに事実を飲み込んだ。
「これで、貴女は誰が見ても『政府が派遣したエージェント』です」
「…流石、本物の『エージェント』は凄いガジェットを持っていますね?」
すると、後ろのウェンディ少尉は呆れたように言った。
「それほどでも。
…後は『運転手』と『護衛役』として二名程曹長自身で選出して下さい」
「了解しました」
そして、俺は少尉の隣に戻り隊員を見る。
「…それでは、残りの人達は私と共に調査をお願いします」
『了解しましたっ!』
「…それでは、これより『特殊任務』を始めます。速やかに準備を」
『はっ!』
すると、ゼシカ曹長は速やかに恐らく気心のしれた二人の女性隊員と共に格納庫を出て行き、ウェンディ少尉率いる残りの人達は駆け足で『ヘビ』に乗り込んだ。…さて、俺も行きますか。
素早い行動に圧倒されつつ、俺も駆け足で乗り込んだ-。
○
ーそれから一時間後。ダイビングカノープス号でリゾートエリア付近まで来た俺達『調査チーム』は、船を降りた。…実はこの時間帯にリゾートエリア周辺は引き潮になるので、こうして上陸しやすくなるのだ。いやー、下調べしておいて良かった。
『……』
「…どうしました?」
すると、後ろに居る隊員達は『サーチライトに照らされている』のにポカンとした。まあ、金持ち達の別荘があるだけあってここのセキュリティはなかなかのモノだ。当然、24時間監視の目が光りましてや『ここ』は重点的に警戒するだろう。…にも関わらず、騒ぎは起きていなかった。
-その理由は、全員の首に巻かれた小型の『ヘビ』…『ダイビングスケイル』に搭載された自立型ドローン群の1チームである『ダイビングチルドレン・タイプ-INVISIBLE-』のおかげで『透明』になっているのだ。
「…いや、正直言って『規格外』ですね。なんで、『こんなモノ』まで有るんですか?」
「そりゃ、『こういう時』の為ですよ。…あ、勿論事前に『帝国政府の許可』を得ていますので、ご安心下さい」
『……っ』
「…でしょうね。でなければ、そもそも少佐『許可』しなかっでしょうし…」
少尉はやや疲れた様子で言った。ちなみに、当然今の会話は数メートル先にいる大型ビームガンを持った『雇われ護衛』には聞こえていない。
そして、俺達は悠々とリゾートエリアに上陸した。
「-…さて、それでは調査を始めましょう」
「…確か、『観光客』や『護衛』の様子を確認してすれば良いのよね?」
「ええ。…そして、ようやく物資が届いたこの状況で『喜んでいない人』もしくは我々以外で『こそこそしている人』が居たら、お渡したツールで『船』に情報を送信して下さい」
俺は腕に装着した通信ツールを軽く叩いた。
『了解』
「…では、各位ミッションを開始して下さい」
『ラジャー』
俺達は散開し調査を始めた。…そして、俺も自分の担当する屋敷に向かう。
『-……っ!~~っ!』
…うん、此処は大丈夫だな。
俺は望遠カメラで屋敷にある海を望むテラス席を見た。すると、そこでは案の定パーティーが開かれていた。そこにいる家族の心からの満足げな表情を見てこの家族を『シロ』だと判断し、次の屋敷に向かう。
『-…っ!……っ!…っ!』
次の屋敷も、二階から騒がしい音が聞こえた。どうやら、家族全員かなり酔っているようだ。…次行こう-。
その後、三つの屋敷を調査するが特に問題がなかった。…どうやら俺の所は外れ-。
そんな事を考えていた俺の視界は、急に『赤く』なった。…これは、近くに『危険人物』が居るという『ゴーグル』からのサインだ。
「-…マジですか?…いや、確かに積み荷は『届いた』から事実なんでしょうが俺ら以外で『アレ』を知っている人間が居るって、マジなんすか?」
…ヒット。
直感的に素早く木の陰に隠れた俺の耳に、男の声が聞こえた。しかも、その人物は『ピンポイント』な事を口にした。…だが、何より驚いたのは男の発するその軽薄なトーンにそぐわない『ヤバいオーラ』だ。多分、あのままあそこに居たら確実に気付かれていただろう。
「…アイアイ。とりあえず、こっちは任せて下さい。…ういっす-」
そして通信は切れ、男はため息を吐いた。…そして、そのままそこに棒立ちとなり-。
-っ!?
突如、男は俺の近くの大木に向かって大口径のビームガンを乱射した。
「-…クソが。後ちょっとで『オタノシミ』タイムだったのに、ふざけやがって……」
ひとしきり乱射した男は、怨嗟のごとき独り言を呟いた。…怖ぇ~。つか、なんであんなヤベーのがこんな所に居るだよ?
「…クソ『インテリ』が。…もし、女だったら絶対こっちに回して貰って『秘書達』もろとも『メチャクチャ』にしてやる……」
欲望を漏らした男は、やがてその場から離れて行った。
「-…っ。ふう~…」
完全に気配が消えた事を確認し、俺は安堵のため息を吐き出した。