熱い、熱い、日差しが眩しい、焼けるみたい。
クラクラする意識を無理矢理戻して、泥と汗を拭ってから前を睨む。
だめ、諦められない、まだ、まだ────
「せ、セルマっ!?」
「っ────!」
振り向くと、双子の魔術師アリアちゃんとクララちゃんがいた。
驚いたような愕然としたような、そんな顔で。
「2人とも、追い付いてきたのね……啖呵きって先に来ちゃったのに、恥ずかしいな、アハハ……あっ────」
「セルマ!」
一瞬意識が飛んだところを支えられて、何とか倒れずにすむ。
でも、やっぱり日差しはギラギラ刺さって、頭はガンガンする。
マズいな、このまま気絶してしまいそう────
「座って、少し休んだ方がいいよ」
「大丈夫よ……早く、行かないと……」
「いいから!」
ほとんど無理矢理その場に横にされて、2人は自分に回復の魔術をかけてくれた。
ダメ、ほんの少しこうしただけで、止まっただけで、心が折れそうになってしまう────
「泣いてるの……?」
「違う! 泣いて……無い! わ……」
言葉尻が自然としぼんでいくのは、自分でも分かった。
手首で目元を押さえたら、少しだけ眩しさが消えたけれど、やっぱり溢れる雫は止まらない。
「セルマ、そこの洞窟から出てきたよね?」
「うん。出口が全部塞がってたわ……
いっぱい探したけど、やっぱり山を迂回するしかなさそう……」
昨日参加者10人に囲まれたのをなんとか全員倒した後、近道だからとこの山の洞窟へ入ったのが間違いだった。
中は入り組んでいて暗いので、簡単に外へ抜ける道も分からない。
なんとか見つけても出口は全て崩れていて、ようやくさっき元の入り口から出てきたところだ。
気付けば迷っている間に日は昇り、順位も63位。
ここから勝ち上がるのは、絶望的だってことは、よく分かる。
「少し休も……」
「うん……」
啖呵切って2人から離れた手前、気まずい時間が流れる。
しょうがなかったとはいえ、2人にも昨日は少しイヤな言い方をしてしまったかも。
「セルマ、どうしてそこまで頑張るの?」
「どうしてかしら……頑張る理由ね……」
当たり前だけれど、考えたことなかった。
でも確かに有名になりたい、出世したいってのはもちろんあるけど、それだけじゃない。
「うーん、そうねぇ……」
多分一番の理由は、色々な人と約束したからだ。
リアレさんの隣に立つこと、小隊のみんなと全力で戦うこと。
「頑張るのは、大切な人たちとの約束なの────自分はきっと、チームの中で一番何も大会に賭けてないわ。負けても次がある、とも思う」
そう、負けてもいい大会。ホントなら2人みたいに、ゆっくり後ろの方でやり過ごして、仲間に譲るっていう方法もあったはず。
「けど、それが前に進まない理由にはならない。みんなに、自分に、不誠実なことはしたくないから……」
負けず嫌いの怪物が、心の中で前へ前へと唸っている。
自分に背を向けるなと、睨まれている。
だから、自分は出せる全力を出したい。
「2人ともありがとう、もう少し諦めないで先行ってみるわ」
「待って! 私たちセルマに協力しに来たの!」
クララちゃんが、そう慌てててを握ってきた。
「セルマが本気なの、別れてから分かったの。
私たちとは賭けてるものが違うんだって」
「同じよ?」
「ううん、全然違う。だから私たちもセルマに、不誠実にはなりたくないんだって、一緒に大会頑張りたくて」
その瞬間、2人の目の奥にも確かに負けず嫌いの怪物を見た気がした。
「だからこっちでも、休みながらだけど相談してきたんだよ」
「ねー、それにセルマ、今まで全然休んでなかったでしょ」
そう言われて気付いた。自分は休みノルマを全然完遂してないのに、水晶のカウントは既に溜まりきっていた。
2人と約束したのに、何かいきなり申し訳ないことをしてしまった────
「ごごご、ごめん2人とも!」
「いいんだよ、それより私たちもゴメンね。
この大会、今からでも全力で頑張るよ~」
「ねー、セルマがそこまで本気なら、チームの私たちも役に立たなきゃだし?」
そして双子の2人は、顔を見合わせる。
「クララ、あれやろ」
「OK、アリア!」
※ ※ ※ ※ ※
協力してくれると言った2人は、それからものすごいスピードで準備を始めた。
持っていた荷物の中身を、全部地面にぶちまける。
「ええ!! 何してるのよ!?」
「どうせここで捨てるからだーいじょーぶ~」
「ねー、セルマもなるべく荷物は軽くしてね」
そう言われたら仕方ないので、いらない荷物は捨てることにした。
いや、2人みたいにお菓子でパンパンになってたわけじゃないから、あまり捨てられるものはないんだけども!
「はいこれ、ちゃんと着けてね」
「ナニコレ……?」
そして渡されたのは、3つのハーネスを鉄の棒で繋いだ奇妙な器具。
使い方がよく分からなくてオロオロしていると、クララちゃんが「こう着けるの」って教えてくれた。
「真ん中のハーネスを着ければいいの?」
「うん、私たちは左右だよ。よろしくね~」
見たことのない機具が物珍しくてガチャガチャいじっていたら、左のアリアちゃんに手を叩かれた。
「ゴメン……」
「少し我慢しててよねぇ~、邪魔だろうけど」
口調は優しいけど、目は笑ってない。少し怖い感じで怒られた────
で、ショボンとしてたらクララちゃんがハーネスを着けながら教えてくれる。
「うちのパパはねー、運送会社の社長で、商品を届けるために国の色んな所を飛び回るの。
この方法は大昔の運送屋さんが使ってた方法でねー、速いけどで難易度高すぎて廃れたゃったんだって」
お互いをハーネスで固定して、3人は一心同体になった。
その状態で、2人は持っていた杖に股がる。
「セルマも飛行はできるよね~?」
「うん、飛べばいいの?」
同じように杖に股がって、少し体を浮かせる。
横の2人も同時に浮き上がったので、なんだか変な感じだ。
「じゃあセルマ進んでって、全速前進!」
「お、おー!」
力いっぱい進むと、2人も固定しているので、同じ速さでついてくる。
なんだか馬車と荷車みたいだ。
「大丈夫なの、これ……?」
「うん大丈夫、こっから見ててよ~」
「ねー、ビックリするよ」
2人はもう1本杖を取りだし、私の杖の後方に掲げた。
「え? え?」
「3……2……1……
瞬間、後ろから「ボフンッ!」てありえないような音がして、今までのスピードが突然何倍ものスピードに跳ね上がる。
は、速いっ────!!
「うぎぎっ!」
顔に風圧がかかって、思わず仰け反った。
こんなスピード、出たことがない!
「風圧消す魔法忘れないでね! あともっと速くなる! もっと力を込めて~!」
「ねー、こんなものじゃないよ!」
力を込めると、さらに推進力が上がった。
なるほど、2人が私の推進力を底上げしながらついてくることで、このスピードで3人同時に前に進めるんだ!
でもこれって相当、左右の人の操作が難しいんじゃ────
「あっ、木にぶつかるわ!」
「クララお願い!」
「おっけ!」
右のクララちゃんが上昇すると、3人まとめて身体が左回転に傾いて木を避けた。
スゴい、2人とも息ピッタリ!
「これが難しい理由だよ~」
「ねー、でも私たちなら大丈夫! セルマは前に進むことだけ考えて────あ!」
その瞬間、下から大きな岩が飛んできた。
きっと他の参加者たちの妨害だ!
「“ハイ・バリア”!」
反射的に張ったバリアで、岩は防ぐ。
このスピードでも、バリアを張るだけなら何とか出来そうだった。
「ありがとうセルマ~! 助かった!」
「これくらいなら任せて! 妨害対策は自分が受け持つわ!」
あんなにかかると思っていた山の迂回も速攻で終わり、第3のチェックポイントが見えてきた。
「このまま行くよセルマ! まだまだ大逆転の目はある!」