それからもテオの出す武器は、ガラクタばっかだった。
いや、このチビッ子にとっては違うのかもしんねーけど、少なくともアタシにはガラクタだ。
「柔らかいメリケンサック」「持ち手から花火の出るハンマー」「謎なぞに答えないと着れない鎧」。
ちなみに鎧は結局着れなかった。こんなのがなんの役に立つんだ。
「おぉ、いいじゃねぇか。よし、オ
「ハァ、ハァ──お前遊んでんじゃねぇだろうな……」
そして「口からビームの出るぬいぐるみ」の実験を終えた後、アタシはついに我慢の限界を迎えた。
「もー沢山だ! アタシに一回全部武器見せろ!」
「いいけどオ
この辺一帯吹き飛んでも俺様責任とらねぇからな?」
「そんときゃもろとも灰だろ!」
テオは怒鳴り散らすアタシを少し横目でみたけれど、「そーか」と言っただけでそれ以上は止めなかった。
どうやらアタシより「口からビームの出るぬいぐるみ(ポピーちゃんと呼ばれていた)」が大事らしい。いーもんいーもん!
「ってなんだここ! きたなっ! うわっ!」
さっきからテオが武器を出し入れしてる倉庫の中を覗くと、さっきのビルの2階とは比べ物にならないほど物が溢れかえっていた。
危険物取り扱ってんだとか言ってたくせにこれはいいのかよ────
「おーいテオ、どれが武器として使えるんだよ?」
「知らねぇよ。オ
それを今考えてんだろ、俺様が知りてぇよ」
クソ、正論言うやつは大嫌いだ。
でも、これなら適当に漁ってもすこしくらいなら分からねぇだろ、かえって好都合か。
「しっかし、わかんねぇな……」
倉庫の中はアタシが漁っても何に使うんだか、何が違うんだか分からないものばっかだった。
変なバネの飛び出たガラクタ、一見普通のソード、陶器に生首を張り付けたような見た目のガラクタ、一見普通の盾。頭がおかしくなりそうだ。
「ん? 何だこりゃ……」
でも、その中で一つアタシが眼を引くものがあった。
これなら、何となく使い方が分かるかもしれない。
「なぁ、テオ。これって────」
「んー? そりゃー、あれだオ
「なんでだよ」
始めてテオが、実験に使う道具を渋った。
今まで適当に選んでるのかと思ったけど、違うのか?
「あーまー、基本は適当──つーか片っ端からだけどな」
「おい、人の命なんだと思ってんだ。何より大事にしろよ尊べよ」
「だけどな、そりゃあ俺様なりに見繕って使える見込みがあるから実験させてんだ。
使えねぇものは実験させてもガラクタのまんまだし、それは前任の、オ
アタシが取り出してきたのは、一枚のボードだった。
前後が少し反り上がって、前に鋭い歯が付いている以外には特に何もないけれど、見た目がなんか昔見たことある気がする。
これなら、アタシなら使えるかもしれない。何となく、フィーリングだけど。
「おいテオ、これについて詳しく教えろ」
「あー? それは『クラフト』っつー、飛行用のボードでな?
炎と雷の魔力で浮き上がって、空を飛べるってスンポーなのよ」
「炎と雷──アタシに丁度いいじゃねぇか!」
「バーカ、これだから
これを使うには超絶バランス能力と魔力制御、あと風速や気圧の計算が必要なんだよ」
「バランス能力だけじゃなく?」
「爆速出すために必要機能組み込んだらそんなめんどくせー作りになっちまってよ。
そんでもって魔力の調節も難しくてすぐ吹っ飛ぶから、練習しようにもその前に死んじまって超センスなきゃ出来ねーってわけ。
やろうとしても上がって落ちてサヨナラだから、おすすめしねー」
なるほど、爆発物やビーム砲、刃物は簡単に扱うくせに落下する危険は配慮してくれるのか。意味分からん。
ためしにアタシはボードに足をかけてみる。
するとコオォという音をたてて、魔力が少し吸いとられる感覚と、ボードからの浮遊感が伝わってきた。
「やめとけ、6歳児に
「おおぉっ?」
そして浮遊したボードは、そのままアタシを乗せて浮き上がっていく。
かなり──バランス感覚と──魔力制御が難しいけど────
「なんとか──イケるっ!!」
「驚いた……」
下の方に、口をポカンと開けてるテオが見える。
「どーだ見たかテオ!! 乗れてんぞ!!」
「驚いた──あんなに止めたのに乗るバカがいるなんて……」
「なんだってっ??」
ダメだ、距離が遠すぎて全然聞こえない。
でも、それとはどうでもいいくらい今のアタシは高揚感に包まれていた。景色が、綺麗なんだ。
「すっげぇ……」
少し高いところから見下ろす街は、正直想像を越えていた。
街を囲う壁まで、見渡す限り広がる色とりどりの屋根に、奥にのっそりと広がる城の山や、普段みることのない街を歩く人たちの上からの姿。
これが、セルマやスピカのいつもみている光景か────
「空って、すげぇんだな────って、んぎゃ!!」
油断をしたら急に足元のバランスが崩れて、ボードに立ってられなくなった。
屋根を見下ろすくらいには上がってたのに、その高さから落下する。
「うきゃああっ────ぐへっ」
「あーあ、今回の
「い、いきてるっつーのっ……!! うぐっ……」
正直なんとか受け身をとれたので、再起不能の怪我をすることもなく立ち上がることが出来た。
からだ鍛えといてよかった────
「つっぅーーーっ!」
「言わんこっちゃねぇ。でもよくあんだけ乗れんな。
どーなってんだオ
「うぅ……山ゾリつって──うちの村にこれと似たようなのがあったんだよ。
山の上からソリに乗ってバーッと滑り降りるんだ」
「全然ちげーだろ。まぁ、バカには一緒なのかね?」
ふざけんなガキが、山ゾリの難しさをさては知らねぇだろ。
だから山ゾリに慣れたアタシなら、この程度のボード練習すればなんとか乗れそうだった。
「でも操作は確かに難しいよな──てかテオお前、前任のモルモットってまさか……!?」
「あ? いやちげーよ? これ使って死んだ訳じゃねぇよ?
アイツは最初の何回かでぶっ飛んで使うの止めたんだよ、俺様としてもデータは取れたしそれで充分だったんだけどな?」
「あ、生きてるのかよ。てっきりこの世にいないと思ったわ」
「バーカ、アイツが死んだら大問題だわ。
ちっ、最初の頃俺様に付き合ってたくせに、段々とジジイのところで色んな製品作るのにご執心になっちまったのよ。今じゃ滅多に俺様のとこに来ねぇ」
「賢い」
まぁ、そいつが賢いと分かっててテオに協力してるバカがアタシなのだけれど。
「おいテオ、このボード、改造して色々機能つけれねぇか?
もっと乗れりゃかなり強そうだ、それに気に入った」
「はぁん? まぁ死なずに乗れるっつーならこっちも願ったりかなったりだけどよ、さっきも言った通りこれはオススメしねぇぜ?
飛行手段つっても、難しいし危ねぇから、前に一度イチから作り直したくらいだ。ボード型もやめた」
何かのプロトタイプってことか。
それにしちゃ倉庫にニューバージョンらしきものはなかったけどな。
「作り直したのはどうしたんだよ」
「ん? 前任の
円盤の形した2つ組のプロペラなんだけどな?
操作するのに両腕より広い範囲でバランスとる必要があるから、人間じゃ使えねぇんだわ」
「あれ捨てたのお前かよ!!」
ものすごく聞き覚えのある製品だった。
そういえば、あれは誰かが拾ってきたものを貰ったんだと、今の持ち主から聞いた気がする。
「あ? ウソつけよ、あんなもん拾ってどうすんだ」
「使うんだよ、空飛ぶために……」
「ハハッ! あれをか? 何か勘違いしてるんだろーから教えてやっけど、あれ使うのは普通の人間じゃ無理なの。
前の
もういいや。どうせ言っても信じて貰えそうにないので諦めた。
スピカは人間だけど、能力を使えるから特殊な部類だしお姫様だからその辺のやつでもない。
だからこいつの言うこともほぼ間違っちゃいねーんだ。
「ま、そう言うわけで、アタシはこれを使って大会で優勝してえんだよ!」
「大会って、ルーキーバトル・オブ・エクレア?
ははーん、なるほどね。オ
テオは鼻で私を笑った。何だテメぇ。
「アタシが活躍すれば実験データも取れるし、宣伝にもなんだろ。
〈ツヨクナリタイセンシサマ、ダイボシュー〉が嘘じゃねぇなら、ガキだろうとそれくらいやってもらうぜ」
「6歳児の俺様にスポンサーになれってことか? 狂ってるねアンタ。バカなだけ?」
この先の甘味もアタシは覚悟してるんだ、それにアタシだってお前に協力してるんだからスポンサーなのはお互い様だろ。
「やれよ、バカじゃねぇことは大会の結果で分かるはずだから」
「ふーん、まぁ分かったぜ?
この『エクレア軍総合魔法科学製品エリアル研究所エクレア支部副所長』、テオ・ボイエット様がちょっとだけ本気だしてやる」
「ホントか!?」
じゃあ、残りの期間でこのボードを改良して、自在に使いこなせるようにならねぇといけねぇ。
さっきはよく分からなかったけど、気圧や風力の計算も必要みたいだから、それにも慣れねぇと。
ま、アタシは計算は得意なんだ、何とかして見せる。
「決まりだな──っと、待ってくれオ
「ん、なんだよ?」
「時間だ」
それだけ言い残すと、テオは突然黙りこくってしまった。
「お、おい? まさかテオ、あれじゃねぇだろうな……」
「おねーーちゃーーん! もー帰るうううぅーー!」
「クソッたれ!!」