「おねーーちゃーーん! おなかずいだぁぁっ!」
「何でだよ!?」
本格的に
もう数回目のやり取りで学んだ、こうなってしまうともうテオはただの6歳児だ。
甘いものを食わせるまでは、テコでも頭脳は戻らない。
「わーったよ、もっかい飴を──って、ねぇじゃんか……」
そういえばさっきポケットに入っていた飴玉が最後の一つ(いつ入れたのかは分からない)だったのを思い出す。
どうやらこれでアタシの手元には甘いもの切れのようだ。
「うわーーーん! お腹痛いぃぃ!!」
「げっ……」
しかも何かめちゃくちゃ心当たりのあること叫んでる。
このまま食中毒になられても面倒だしなぁ。
まぁ、ナマイキテオの方なら何とかするんだろうけど────
「ったく、仕方ねぇなぁ……」
アタシはうすい財布を握りしめ、近くの商店に走った。
※ ※ ※ ※ ※
「チョコレート、まぁいいかありがたく喰ってやるよ」
「ありがたそうじゃないのを何とかしてから言えよ。
あと、さっきのあれはなんであんな短かったんだよ」
1つ目の飴に比べて、2つ目の飴の時間は相当短かった。
多分、半分にも満たない。
「言ったろ? 時間は量じゃなく満足度に比例する謎原理だって。
飴玉何個も口に放りこまれりゃ、そりゃ6歳児は飽きるわな」
「飽きるわなって……」
「は? オ
6歳児に喰わす種類じゃねぇーだろ、6歳児至る所がデリケートなんだからな!?」
「わ、悪かったって。いや、アタシ悪くねーけど!!」
急にキレるなよめんどくせぇ。
まぁ、でも確かにハッカの飴が残ってたのはアタシも苦手だからだ。
そういう意味では、ハッカを厄介払いしたツケが、今のこのチョコレートなのかもしれない。
「あと、心なしか
オ
「あ、当たり前だろ!!」
どうやら6歳児はデリケートと言うのは間違いないらしい。迂闊だった。
「ま、いーや。こんなもん、本屋にいるときと変わらねーし」
「マジかよコイツ、ちびっ子の方が頭いいんじゃねぇの……」
「うっせーな、さっさと始めっぞ。それとも蒸し返すか?」
「お願いします始めてください……」
6歳児にいいように使われる自分に心持ちの悪さを覚えつつ、ずいぶんと年下の女の子の後をついていく。
テオは、先ほど爆弾を取り出した小屋から、また大きな何かを引っ張り出してきた。
「こ……れ、使ってみろよ」
「おとと、大丈夫か?」
「これは『
市販の鉤爪を改造したもんなんだが、付けると自動で水の魔力が流れるようになってんだ」
「水の?」
「そうさ、ウォーターカッターって聞いたことねぇ?」
あー確か、水を魔力の高圧力で打ち出して物を吹き飛ばすのに使うあれだ。
研磨剤を使って的を絞れば、本来は切断するのが難しい鉄なんかも容易に切れるもんだから、田舎の職人衆がたまに使ってたっけ。
あれうるせぇんだよな。
「なるほど、これで敵を切るって訳だな──ってうるさっ!」
付けた瞬間、あまりに強烈な音に鼓膜が破れるかと思った。
どうやら普通のウォーターカッターというやつよりも、音が出るらしい。
まぁ、このまま切ればいいのかな。
とりあえず使い方を作った本人に聞こうとしたら、肝心のその幼女は──足元で目を回していた。
「お、おい大丈夫かよ!?」
「あーうぅ──お、オ
鉤爪を外して駆け寄ると、テオはそんなことを呑気に言ってやがる。
てか、自分で作っといて耐えられないのか。
「ま、こんなこともあろうかと耳栓持ってきたから次は大丈夫だ。
ほれ、オ
「あの、耳栓アタシの分は?」
「ねぇよ、あるわけねーだろ?
オ
戦場でこんな大きな音出すタイプもいないだろ。
まぁ、切れ味は試してみたいので、うるさい音に我慢しながら少しだけ石畳を削ってみた。
「んー、なんも普通の鉤爪と変わらねぇけど?」
「あぁ!? マジじゃんか、どーなってんだオ
「あ、アタシに聞くなよ」
どうやらテオの思っていた効果とは違ったらしい。
まぁ、自信満々に出してきたのだからこんなものではない気がしていたけれど、なんだ失敗作か?
「失敗? このジーニアスな俺様に限ってそれはねぇよ。没作品の成功はあるけどな?」
「それ失敗って言うんじゃ……」
「るっせーな。ったくなんで成功しねぇんだ?」
さして悔しそうでもなく、テオは置いてある鉤爪を興味深そうにいじり始めた。
アタシは暇になったので腰を下ろしてそのようすをボーッと眺める。
「あー、もしかしてオ
水属性の魔力がよえーとか」
「あん? んー、わかんね。
確か得意属性は雷と火つったかな?
水は使ったことねぇや」
「何だよ、じゃあよえーんじゃねぇか!」
嫌気がさしたようにテオは鉤爪を放り投げた。
「おい、いいのかよ」
「いいんだよ、そう簡単に壊れるように作ってねぇからな!
それよりオ
軍人なら大体の魔法使えるもんじゃねぇのか?」
「そりゃ偏見だよ、専門てものがあるんだよ」
「ちっ、なんだそりゃ」
暴論だとも思ったけど、テオのその勘違いはわりとご近所から言われることがある ──とエリアルやセルマが言ってた。
「ったくなんだよ……ま、いいサンプルにはなったわ。
じゃ、次はこの武器を────」
「え? 鉤爪はもうおしまいか?」
「あ”? なに期待してたんだよ。
俺様の提供する兵器は基本こんなんばっかだぜ、多分な?
オ
「え、アタシに合う武器探してるんじゃなかったのか!?」
「そんなもんついでだついで。兵器の試用実験つったろ?
ついでにオ
じゃあ、今からこんな延々と、あんなデンジャラスウェポンを弄っては、この度に心臓をバクバクさせなきゃならねぇのか。やだな────
「なんでデンジャラスって決めつけるんだよ。思考と発想の凝りは停滞の第一歩だぜ」
「なんだ生意気に、傾向見りゃ分かるわ……」
遅延型爆弾に、近くにいただけで意識が落ちる鉤爪────
どう考えても今ここが、街の危険物取り扱いの最先端だろ。
「じゃあなにか? オ
いい機会だから教えてやるけど、そりゃ『武器』じゃなくて『
「わ、分かってらい! さっさと次の寄越せ次の!」
大会まで時間がないんだ、こんな無駄話してる時間なんてない。
だから、6歳児に論破されかかって慌てた訳じゃない。決して。決して。
「そんなあぶねーのが嫌ならこれ使うか?」
「ん? なんだ、ただの銃じゃん」
「それがこれは特別な銃でな?」
「どんな特別なんだ?」
テオは、得意気に胸を張っていった。
「どんなに調子が良くても、弾がでねぇんだ」
「アタシが悪かったから早く次の出せ!」