縁とスファーリアはロビーへと戻って来た、他のメンバーはロールを続けている様だ。
炎龍は区切りがいい所でログアウトするとメールが来た。
「お疲れ様、縁君」
「お疲れ様、スファーリアさん」
「一ついいかしら縁君」
「お、どうした?」
スファーリアはニヤリと笑う。
「この戦争が終わったら旅行ロールしてみない?」
「おお、旅行!」
「現実ではちょっと難しくても、ゲーム内なら出来るでしょ?」
「なら現実でも自社コラボ飲食店に行ってみるか」
「ああ、ゲーム内での自分の料理を再現している人達とか?」
「そうそう、まあ行けたとしても近場だが」
「フッ……道民の近場は近場じゃないよ」
「まあ確かに、しかしこれで楽しみが出来たな」
「うむ、早速帰って近場でどんな店があるか調べよう」
「いやいや、お義理さんとの食事は?」
「嬉しくてつい」
「まあわかるけども、ログアウトして準備しようか」
「あいよ」
長谷川と荒野原はゲームんらログアウトする。
荒野原の父親は別の施設で遊んでいるらしく、こちらに合流する様だ。
しばらくロビーで待っていると、スーツ姿のキリッとした紳士が入って来た。
一言で言えば仕事が出来るジェントルマン、といった印象だ。
「初めまして長谷川さん、娘がお世話になっております、父の荒野原
「終さんとお付き合しています、長谷川羽島です、よろしくお願いいたします」
長谷川と広はお互いに深々と頭を下げた。
「お父さん、何処の店行くの?」
「ああ、私が何時も使っている店だよ」
「料亭じゃん」
「りょ! 料亭!?」
慌てて自分の姿を見た、何度見てもジャージだ。
「俺の普段着ジャージですみません」
「終、あそこは日本庭園がある居酒屋だ」
「え? あれが?」
「うむ、まあ一見さんお断りではあるがな、長谷川君、服装は気にしなくていい、行ってみようじゃないか」
「え……あ、はい」
そんなこんなでタクシーで目的地の場所へ。
着いたのは立派な門構え、明らかに料亭だ。
「荒野原様、お待ちしていました」
「「「いらっしゃいませ」」」
「お部屋にご案内します」
従業員挨拶からの部屋案内、明らかにVIP待遇だ。
店内の内装にもお金がかかっていそうだ。
部屋に案内されるとこれまた豪華。
掛け軸や壺、座椅子や机も高級感を放っている。
「いや……料亭やん」
「違うぞ長谷川君、居酒屋だ」
「ええ……」
3人はとりあえず座椅子に座った。
長谷川の隣に荒野原、正面に広である。
「して長谷川君、食事を始める前に父として君に言っておきたい事が有る」
「お父さん、変な事を言ったら張り倒すからね?」
「いや何、親として当然の心配だ」
ジッと長谷川を見定め様に見る広。
「長谷川君、結婚報告の前に妊娠報告だけは止めてくれよ?」
その問いに長谷川よりも早く、荒野原が平然と答えた。
「あ、お父さんそれなら大丈夫、私が説明した方がいいね」
「ふむ」
「私の方が我慢出来ずに、寝込みを襲おうとしたら怒られたから」
「……お前は母さんに似たか」
何やら思う所があるらしく、広は深いため息をした。
「言われたのは、自分も同じ気持ちだが順番がある事、今は2人で結婚生活出来るのかの準備期間である事、結婚の挨拶の事、親になる覚悟が今は無い事」
「なるほど、2人で色々と話し合ったんだね?」
「うん、長谷川君は間違いなくいい男、お父さんの親友の息子さんなんだから信じて」
「もちろん信じたい気持ちはあるが……なんと言えばいいか、多分、寂しいのだろうな」
父親として娘に好きな人が出来た、嬉しいとは感じるが同時に、寂しさに襲われたのだろう。
広は寂しさを振り払うように首を降り、笑って2人を見た。
「いやいや、寂しがってはいられんか……将来孫が産まれるだろうからな」
「お父さん、気持ちが早い」
「お前の成長も早かったな……産まれた時を昨日の様に思い出す」
「泣くなら結婚式にして」
「長谷川君、娘をよろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします、お義父さん」
お互いに軽く頭を下げた。
「時間をとらせてすまなかったね、ご飯にしようか」
広はいきなり両手を軽く2回叩く。
すると、食前酒と前菜が運ばれてきた。
「え?」
長谷川は頭が追い付かないでいると、荒野原が口を開いた。
「ああ、リアルで手を叩いて料理が出るってまず無いでしょ? ここのお店ってそういうのに答えてくれるのよ」
「ほ、ほう」
「まあお父さんが投資家で、ここの開店に投資したらし……お父さんこう見えても、ふざけたがりなの」
「ああ……父さんと気が合う人だもんな」
「いやいや、僕は面白い事にお金を使いたいだけだよ? ああ、長谷川君、アレルギーや苦手な食べ物はあるかい?」
「いえ、特にありません」
「おおそうか、ここの料理は美味いぞ? ささ、食べて食べて」
「はい」
目の前にあるのは明らかに料亭で出される様な前菜。
長谷川はおそるおそる口へと運ぶ。
「おお……う、美味い……なんじゃこりゃ」
「それは良かった良かった」
「あ、お父さん」
「どうした?」
「これから始まる戦争ロールが終わったら、ゲーム内で旅行をしようかと」
「……なるほど、リアルで旅行はするのかな?」
「まずは近場からね、飲食店とか、自作コラボしている所から」
「遠出する時はいいなさい」
「その時はお願いね」
「ああ」
「あ、お義父さん、お酒を注ぎます」
「おお、すまないね」
結婚報告に近い様な食事会はまだまだ始まったばかり。
広は終始ご機嫌で、長谷川を気に入っている様だった。
荒野原も何時も通りお酒を飲みまくる。
長谷川はこの人達との縁を守っていこうと決めたのだった。