スファーリアが先陣を切り部屋の中に入った。
稼働していない放棄された大きな機械が多数。
男女数人が、地べたに座ったり機械に座ったりしている
「で、誰が私の生徒を――」
スファーリアが口を開くと、何かがほほをかすめた。
ほほの傷口から血の代わりに音楽記号が流れ始める。
相手のナメた一撃に、スファーリアの顔は怒りがにじみ出ていた。
「ハッハッハ! ようこそ俺の――」
「絶滅演奏術、消滅言語、行動消滅」
スファーリアは素早くビーダーでトライアングルを叩いた。
その場に居る敵対勢力は動きも喋りもしなくる。
そもそも先制出来ても、最初の一撃で殺す事をしなかった敵が悪い。
挨拶のつもりだったのだろうが、スファーリア相手に悪手だ。
この初手で、実力と経験の違いが明確になったのは言うまでもない。
「いずみさん、説明お願いできますか?」
「私ですか? コホン! では説明しましょう!」
いい笑顔の早口で解説を始めたいずみ。
普段は喋り過ぎだと止められるからか生き生きとしていた。
「リーダーのノリス・マッセーダさんとその他の皆さん! 貴方が孤児院『身寄り』の出身者で、今回の襲撃の犯人ですね! というか最初の攻撃は何ですか! 何で牽制何ですか! スファーリアさんは死なないでしょうが、殺すつもりでやらないと!」
「――」
「ああ、貴方の能力である『悪役口上』は……というか喋れませんし、動けもしませんか、まあこの時点であなた方の負けが確定しました!」
「ねえいずみちゃん、その悪役口上って何?」
「はいはい! 解説いたしますとも! 簡単に言えば漫画やゲームの悪人って、主人公と対面した時ベラベラと喋るじゃないですか」
「あーさっさと動いてよ、と思うときはあるわね」
「それです、喋ってる間は私達は基本的に攻撃は出来ません」
「あら、厄介な能力ね」
「ええ、これで一本槍さん達もやられたのでしょう」
「ん? でも紅水仙ちゃんだけ重症だったわよ?」
「それは紅水仙さんの能力で全ての攻撃を引き付けたのでしょう」
「なるほど、誰かを守る行為は攻撃ではないわね」
「さあさあ、説明の続きをしましょう! スファーリアさんは風月さんと一心同体、その身体は界牙流で強化されています、そして!」
いずみは説明する興奮を抑えられないのか、メガネを何度もクイクイしている。
「絶滅演奏術奏者としては、縁さんの愛の告白により、更に強化されています! 告白も言葉の音ですからね」
「つまり、怪我をさせたのは凄いって事ね?」
「ルルさんそうです、ですが問題はここからです!」
「あら、どうしたの?」
「界牙流は伴侶と共に生きる流派、障害は滅ぼします」
「ああ……怪我をする可能性は、死ぬ可能性があるって事ね」
「そうです! これはもう止められませんね」
「なあいずみ、何で俺を殺せると思ったんだ? 嫌がらせなら100点だがな」
「ルルさんには言いましたが、階段を登る様にレベルアップしてきたからですね、彼らは何人かの神を殺しています」
「ん? 存在消滅じゃないのか? 神は信仰心がある限り消えないぞ?」
「ええ、相手にした神々は、暇つぶしで相手をしただけですよ、それが彼らを助長したのでしょう」
「神は基本的に暇人だからな、んでいずみ、結局こいつらは何がしたかったんだ?」
「不幸の神が居るから不幸が無くならない、幸運の神様が居るから貧富の格差が生まれる、といった所でしょうか」
「またか、人は何時も好き勝手言うな? これはもう殺し合いしかないだろ」
何時にもまして縁は怖い顔をしながらノリス・マッセーダに近寄っていく。
だが、ルルが縁の肩に手を掛けた、その顔は超満面の笑みだ。
「ちょっと待って縁ちゃん、私も言いたい事が出来たわ」
「ルルさん、どうしました?」
「正義を振りかざしている様だから言うけど、七つの大罪ってあるじゃない? あれを司る悪魔達も中々の力を持ってるわ? 何でその悪魔達に喧嘩を売らないのかしら? 悪い事だらけじゃない?」
「七つの大罪は傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、色欲、暴食ですね」
「ありがとういずみちゃん、つまり何かを司る悪魔って居るのよね……私は『浮気』を司るインキュバスなのよ」
「え? ルルさんが浮気を司る? 想像出来ない」
「ありがとうスファーリアちゃん、でも浮気って良くないじゃない? だから、サキュバスを名乗って力が出ない様にしているんだけど」
ルルはノリス・マッセーダの方を向いた。
「縁達に刃を向ける前に……私を殺す対象にしろ? 幸運だの不運よりも『浮気』はよくないだろ?」
何時ものオネェ口調ではなく、ハッキリと高圧的に話していた。
不幸や幸運、不確定なモノに正義の刃を振りかざすよりも、誰の目に見ても浮気の方が悪い。
だが直ぐに何時ものクネクネオネェに戻ってしまう、そして1人のバンダナを巻いた男の目の前で立ち止まった。
「そうそう、貴方は少し痛い目にあってもらうわよ? リリアールに淫乱女って言ったそうね?」
「――」
「安心して、殺さないから」
ルルはそう言って男を抱きしめた、何も出来ない男はみるみるうちに、よぼよぼの老人みたくなってしまった。
「不味い、この程度の生気か……ふふ、私は満足したわ、後は縁ちゃん達よ」
「私も喋り疲れました、説明はこれくらいだいいですよね」
ルルといずみは、もう目の前の敵に興味が無いらしく女子トークを始めた。
「さて、これだけの時間があっても、私の絶滅演奏術を解除できないなら、死んだも同然ね? 縁君、どうする?」
「お前ら、実力の違いがわかったか? 『中途半端が一番怪我をする』から気を付けろよ? だがお前らを見習って中途半端な事をしよう」
「縁君、何をするの?」
「見逃してやる、再び俺達にちょっかいかけるもよし、今居る組織から逃げるもよし」
「あら優しいわね」
「神の余興だよ、この程度なら何時でも殺せる」
「次私や縁君の周りをちょろちょろしたら、ぶっ殺す」
スファーリアは怒りをぶつける様に、ビーダーで地面を叩き付けた!
「スファーリアさん、いや結びさん、多分これから沢山誰かが一方的に死ぬけど、一緒に居てくれるかい?」
「もちろん、私の音は貴方と共にあるし、界牙流としても今が拳を振るう時」
2人は見つめ合うと、手を取り合った。
またイチャイチャな空気を出すのである。
「もう、縁ちゃんもスファーリアちゃんもまたイチャイチャして、私が言うのもなんだけど時と場合を考えなさい」
「いえいえ、付き合い始めはこれでいいかと、会話での意思疎通はとても大事です」
「だからって今やらなくてもいいじゃない、」
「そうですね、おーいお二方! 用が済んだので帰りましょう?」
「ええ」
「帰ろうか」
「あ、しばらくしたら動けるから安心して」
スファーリアがそう言い残すと、4人はその場から去った。
縁達の中途半端な結果で敵は生き残る。
そして間違いないのは、次の一手が間違いなく生き死にに関わる。
確かな事は、縁達やその周りに関わらなければ死なないというだけだ。