縁達は暗黒街にあるちょっと高級そうな建物に入った。
豪華な装飾などは無く、一言で言うならば市役所みたいな雰囲気だ。
門番に案内されて、応接室の前までやって来た。
「こちらです」
門番が扉を開けた、中は普通の応接室でソファーや観葉植物等が有る。
スーツ姿の若い男性が1人座っていて、縁達を見ると立ち上がった。
「久しぶりです、縁さん」
「リーダー、久しぶり」
「どうぞお掛け下さい」
縁達はソファーに座り、門番は一礼して去っていった。
「この暗黒街を統括しているリーダー・リーダーです」
「え? ああ、失礼、そういう名前なんですね」
「すみません、ややこしい名前で」
「いえ……あれ? 縁君よりも若いよね? この街をまとめてるの?」
「ああ、リーダーはまだ十代だよな?」
「はい、縁さんと有った時は私が9歳位でした」
「俺が14、5位か? まあそれは置いといて、頼みたい事がある」
「はい、なんでしょうか」
「襲撃された、この街の力で本気で潰してくれ、もちろん払う物は払う」
「わかりました」
「え? 話が早い」
リーダーは二つ返事で了承してしまった。
その事についスファーリアは声を上げる。
当然だ、対価を払うとはいえ会議も無しで、この街の方針を決めてしまったのだから。
「命を救われた恩がありますので」
「いや、それにしたって即決ね、縁君を助ける事の利点は?」
「私が助けたいからです、利点はあまり考えてません」
「国としてそれいいの?」
「非正規の国ですから」
スファーリアは感じ取った、何を言っても答えらる。
そして自分の返答はほぼ意味が無い事に、何故なら相手がすると言ってるのだから。
だがスファーリアはふと考えた。
「……あ、1つお願い」
「はいどうぞ」
「元凶だけは私が絶滅したいんだけど?」
「わかりました」
「これまたあっさり」
「会議をする程の案件ではないので」
「なるほど、言われてみれば」
スファーリアはふと考えた。
まずここが普通の国ではない事、街の入り口で出会ったルティを見るに優秀な者達が居るであろう事。
多分既に情報がリーダーにいっている事、となれば敵対する相手が取るに足らないであろう事。
相手が雑魚ならわざわざ会議を開く必要ない事だ。
「リーダー、オマケって訳ではないが……」
縁が話しかけた時に、リーダーの懐から音が鳴った。
スマホの様な通信媒体を取り出して、テーブルに置き操作した。
通信媒体から相手の声が室内に響く。
『リーダー、斬銀様が来ました』
「ここに通してくれ」
『はい』
「斬銀さん? また珍しい」
しばらく待つと斬銀が応接室へとやって来た。
「やっぱりここに居たか縁」
「お久しぶり斬銀さん、ここに来た目的は俺かな?」
「ああ」
斬銀の返答の瞬間スファーリアはビーダーでトライアングルを叩こうとする。
慌てる斬銀、縁はスファーリアの手を優しく握る。
スファーリアは不満そうな顔をしているが叩くのを止めた。
「スファーリア、話も聞かずに絶滅しようとするな」
「相手による」
「余裕無いけどどうしたよ?」
「……ごめんなさい、貴方は油断出来ないから、つい」
「無垢な子供が殺しの道具に使われた」
「あ? マジか……そりゅ余裕も無くなるか」
「ああ、元凶は俺か絆を殺したいようだ、子供達は親の仇みたいな事を言ってたから、昔の奴が自分達の都合の良い様に育てたんだろうな」
縁は早口で斬銀に説明した、怒りを抑えている喋り方だ。
スファーリアはちょっと落ち込んでいる、思った以上に本当は心の余裕が無い事に。
斬銀は軽くため息をした後に口を開いた。
「俺の所に依頼が来てな」
「俺か絆を殺してほしいと?」
「無論断った、大切な奴に好奇心で牙を向くと……怪我するって知ったしな」
自分の腹部を叩く、そこは縁が魂の一撃を浴びせた場所だ。
「んで傭兵の視点から見ても、割に合わない」
「そうなの?」
「ああ、まともに考えられる暗殺者とか傭兵は断ってるだろうな」
「どうして?」
「お前が神として力だけなら上位ってのと、結びの存在がデカいな」
「あら私?」
「絶滅演奏術奏者で界牙流四代目だろ? そんな奴相手にしねーよ」
「なら相手は相当の愚者って事ね」
「ああ、業界に疎いか新参者か、まあ誰にも相手にされないわな」
冷静に考えると、今の縁に喧嘩を仕掛けること自体が馬鹿らしいのだ。
まず、昔の戦争で圧倒的な力を見せた、そして今はそこら辺の神より力が強い。
そして絶滅演奏術奏者にして界牙流四代目の彼女が居る。
一言で言えば喧嘩を売る行為はただの自殺でしかない。
「狂ってる奴らは受けるんじゃないか?」
「正義に酔っている奴らか」
縁は斬銀の言葉に顔をしかめた。
妹もクソみたいな正義によって幼少期が狂わされたからだ。
それが無ければ縁も普通の少年時代を過ごせただろう。
「斬銀さん、雇っていいか?」
「おお~? 俺はたけぇ~ぞ?」
「小国の国家予算でどうだ?」
「……規模がデカすぎなんだよ」
「あ、斬銀君、私から追加注文」
「どうした?」
「知り合いの傭兵達に声をかけて、生徒達を守ってくれない?」
「お前らが四六時中付いてる訳にもいかんか、ん? 陣英が傭兵やってなかったか? 部隊に所属していたよな?」
「ああ、陣英に頼むか」
「んじゃ斬銀君、生徒達に指導してくれない?」
「はぁ? 俺が? 何でだ?」
「万が一に備えて生存率を上げる為、それに……私の生徒の1人が将来、貴方の『赤鬼』を使える様になっている」
「どういう事だ、詳しく」
スファーリアはどっちゃんの力を使い、一本槍が斬銀の赤鬼を使える様になっていた事。
となれば、何処かのタイミングで斬銀が一本槍に教えたという事だ。
「なるほどな、一本槍……アイツかな?」
「知ってた?」
「ああ、ってもしょーもないひったくり犯を、界牙流を使って捕まえててな、それをチラッと見た位だ」
「この後学校に行くからよろしく」
「わかった」
「リーダーすまないな、話がちょっとそれた」
縁はリーダーを申し訳なさそうに見た。
リーダーはいえいえと笑顔で答える。
「それでオマケとは?」
「実はグリオードの国で雪祭り、俺の神社で縁日をする予定があってな、リーダーが良ければここに住んでる子供を招待しようとな」
「ありがとうございます、子供達も喜びます!」
今までとは打って変わり、嬉しそうな顔を出して頭を下げたリーダー。
そして感極まったのか縁に握手を求めていて、縁は応じた。
「無茶を頼んだ詫びだ」
「ありがとうございます、この街で出来る出来る事も限られているので」
「んじゃ話を切り替えてその打ち合わせをしねぇえか? ある程度は決めといた方がいいだろ」
「ああ……グリオードには後で連絡……」
再びリーダーの通信媒体は鳴る。
「どうした?」
『グリオード様がお見えになりました』
「ここにお通ししろ」
『はい』
タイミングを見計らったかのようにグリオードが執務室へとやって来た。
護衛に麗華も居て優雅にお辞儀をした。
「グリオード、お前もスゲータイミングで来るな」
「ふふ、斬銀さん、賞賛に値するでしょ?」
「……どう思う縁?」
「俺に振りますか」
「それよりも話し合い」
「ああ」
雪祭りと縁日の話し合いを始める一同であった。