第五話 演目 情報屋

 縁達が来たのは空と空気がよどみ、目の前にある街も蜃気楼の様に歪んで見える。

 その街並みは、歪んでみえること以外は立派な街であり、入り口には男の門番が2人居るのが見えた。


「縁君、ここは?」

「『暗黒街信用』だ」

「善悪の音、団結の音? なんか不思議な街」

「昔、この街に喧嘩吹っ掛けてね」

「絆ちゃん絡み?」

「ああ、ムカついたから縁を大切にする人をトップにした」

「わお」

「その時に信用に変ったんだ」

「なるほど、この街の人達に協力してもらおうと?」

「ああ……縁の神様らしいだろ?」

「元凶は私が絶滅する」

「付き合うよ」


 門番の1人が縁達に気付いて近寄ってきた。

 縁は軽く手を上げると、門番は軽く頭を下げた。


「縁さんじゃないですか、お久しぶりです!」

「ああ、久しぶりだね」

「先輩、この方は?」

「昔リーダーを助けた人だ」

「え? 凄い人じゃないすか」

「……縁さん、街に入りたいならすみませんが、身分を証明で来ますか?」

「最近物騒だからな、リーダーと話がしたい」


 縁は鞄から少々古ぼけた短剣を取り出して、門番に渡した。


「こ、これは! すぐに掛け合ってきます! お前は茶菓子集めてこい!」

「え? 先輩、ここの門番どうするんですか?」

「私が引き受けるよ、何、突っ立つてるだけでいいならね」

「あ、スティツァさん、よろしくお願いいたします! ほら! さっさと行くぞ!」


 駆け足で門番達は街へと消えていった。

 突然現れた薄汚いローブで全身を隠している人物、声から女というだけはわかる。

 スファーリアはその人物を少しビックリして見た、何故なら彼女はローブ女の接近に気付かなかったのだ。


「……この私が気付かなかった?」

「職業柄ね、私はルティ・スティツァ……情報屋さ」

「情報屋さん?」

「ああ、少なからずあんたの事は知っている」

「スファーリアさん、ルティは凄腕の情報屋だ、知らない事は無いといっていい」

「わお」

「縁、襲撃されるとはどうしたんだい?」

「知らん、だからここに来たし、本気で潰す」

「……あんたがここまで怒るとはどうしたんだい?」

「子供達を使って俺を殺そうとした奴らが居た」

「子供? そこまでの情報は入ってなかったね」


 ルティはゆっくり両手で拍手をした。

 スファーリアが周りを確認する様に見ている・


「何があったか話してくれよ」

「暗黒短剣ゼッタイブッコロス、対価のナイフ、これを仕入れた奴らはわかるか?」

「んな危ない物を? ちょっと待て」


 ルティはローブから古ぼけた本を取り出す。

 本を開いき、右手の人差し指で頭を叩いて何かを考えている。


「ん~仲介人が多すぎる、割り出すにはちょっと時間かかるね」

「そうか」

「今回は割引しとくよ」

「何で?」

「あんた達の告白を知った旦那と熱い夜を過ごした結果、2人目がね?」


 少々下品な笑い方をしながら、優しくお腹を叩くルティ。


「また告白か……って! 2人目? お前が結婚してた? え? ってか子供が居るのかよ」

「してたら悪いかい? 居たら悪いかい?」

「おめでとう」

「はいありがとう」

「ふむ、ここは1つ見てやろう」


 縁はウサミミカチューシャを外して、何時もの神様モードになる。

 ルティをじっと見る縁は複雑な顔をした。


「……悪しき縁が多すぎる、お前大丈夫か?」

「そりゃ情報屋なんざやってりゃそうなるよ、1人目の時もちょっと大変だった」

「待って、何かあれば私が力を貸す」

「え? あんたがかい? 何で?」

「貴女の音が素敵だから、理由はそれでいい」

「音で色々とわかるとは便利だね、ま、私も会話でどんな人物かわかるけどさ」


 強者感を出しながら笑う2人、縁はそれを見て何してんだと内心思う。

 だがルティの次の言葉が縁達をビックリさせた。


「んじゃスファーリア、私達はママ友って事でどうよ?」

「ファ!?」

「その音は高いファね、それよりも……ママ友、よろしくお願いします!」

「ああよろしくな」


 お互いに通じる所があったのか、あっさりとママ友になった2人。

 スファーリアに子供が居ないとツッコミを入れるのはヤボだろう。


「よし、俺がグリオードに連絡してやろう」

「ん? あの砂漠の名前がコロコロ変わる国の王様に?」

「あの国なら心身ともに安らげるし、防衛力が凄いしな」

「それは知ってるけど、いいのか?」

「お前に昔世話になったからな、んでママ友なんだろ? 何か有ったら目覚めが悪い」


 縁は鞄からカミホンを取り出して操作を始めた。 


「今更だけど、2人はどういう関係?」

「昔あった戦争中にさ、ちょちょいと真実を言ったりしただけさ、私の師匠と一緒にね」

「真実? 元々の始まりが子供の誹謗中傷から始まったって事を?」

「言われない誹謗中傷に加担してるよとか、正義をかざす所に情報を売ったりね……簡単に言い過ぎかな?」

「聞いただけで地獄絵図、ん? もしかして縁君側の都合の悪い事はもみ消した?」

「裏の情報は師匠が完璧に隠してたね」

「凄腕、でも何で消したの?」

「師匠は子供好きだったからね、普通に考えて国を上げて女の子殺そうとするって可笑しいだろ」

「確かに」


 突然、ルティのすぐ近くにローブ姿の男が現れた、手には報告書らしき物を持っている。


「スティツァ様、不確定ですが、縁さん達を襲撃した奴らの予想が出ました」

「ご苦労様、引き続き頼む」

「はい」


 ルティは部下が渡した報告書を読むと、彼女はやっぱりかと言葉を漏らした。


「案の定昔戦争に関わってた奴らだ、ざっと見ても確定だなこりゃ」

「ほう」

「で、縁、今回はどう対処するんだい?」

「被害者面も出来なくさせてやる、俺と結びさんの時間を壊しやがって」


 縁には珍しく、眉間にしわが寄るほど怒っていた。

 スファーリアも無表情だが、今にでも誰かを絶滅しそうな雰囲気だ。

 一緒の時間は何事にも代えられないのだろう。


「おおお……絆の時よりも覇気があるね?」

「お待たせしました縁さん、リーダーの場所に案内します」

「お迎えが来たね、もうちょっとここで立っててやるから、縁達を案内してやんな」

「ルティさん、ありがとうございます」

「またなルティ」

「また」

「ああ、今度茶でも飲もうや」


 門番の案内で2人は暗黒街へと入って行くのだった。