とある街の喫茶店で縁とスファーリアは、テラス席で2人の時間を楽しんでいる。
縁は人参ジュース、スファーリアはコーヒーを飲んでいた。
だが、あからさまに周りに人が居ない、店の店員くらいだ。
それも1人だけだから疑う余地無く怪しかった。
「たまには、外でお茶もいいな」
「そうね」
そんな事も気にせずにくつろいでいる。
縁は面倒くさそうにため息をした。
「スファーリアさん、気付いてる?」
「当たり前、で、縁君? 恨まれる事をした?」
「昔な」
「なるほど、最近ではないのね」
「ああ、そんな奴に構ってるより、結びさんとの時間が大切だからね」
「……へへへ」
凄く緩んだ顔をしたスファーリアだが、すぐに真面目な顔になった。
「でも殺意を隠す気がないのかな? 凄い自信?」
「相手が格下なだけだ、今更俺に何しに来たんだか」
「じゃあ無視してみる?」
「いや、相手がどの程度か知っておきたい、まあ手出しはしないけど」
「同感、防ぐ必要が無いなら手出し無用」
「付き合わせてすまない」
「縁君が悪いわけじゃないでしょ? 仮に悪くても私は貴方の味方」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「……死ね!」
案の定近くに居た店員が縁に向かってナイフを突き立てて来た!
縁にはひょいとナイフをいとも簡単に奪い、店員をすっころばせる。
「ふむ、暗黒短剣ゼッタイブッコロスか、名前はふざけているが相手を確実に殺せる短剣だ」
「へえ、そんな物があるんだ」
「もちろん代償もあるよ、使用者は末代まで呪われる」
「あ、知ってる? 末代までって輪廻転生した後も続くんだって」
「ほう? あ、魂がそのままだからか? 姿形が変わっても魂は変わらないからか?」
「当たり」
「やったぜ」
「くっ!」
怒りに満ち居てる襲撃者、何か手を考えているようだ。
だがスファーリアのダメ出しの方が速かった。
「失敗したら複数人で襲い掛かる、逃げる、自爆する等が定番」
「確かに、行動を見る限り甘い」
「やることに対して実力が追い付いて無い」
「確実に言えるのは、俺達の実力を事前に調べなかった事だ、襲撃者君」
「て、てめぇ!」
図星を突かれたのか、顔を真っ赤にしてスファーリアを殴りにいく襲撃者。
「危ないよ」
スファーリアは襲撃者をビーダーで吹っ飛ばし、近くの建物に大きい音と共にめり込んだ。
そのすぐ後に、縁達が居る喫茶店は爆発を起こした!
辺り一帯が吹き飛んで残骸だらけだが、無論2人はこの程度では傷一つ無い。
「この程度の爆発で死ぬと思っているのか?」
「本当に襲撃者として中途半端な連中……そして正義の味方を自称してる音がする、確実に酔っている」
「なんだまたか? 昔もそうだった面倒くさい」
「最低でも街全部掌握くらいはしてほしい」
「え? この辺りだけなのか?」
「ええ、音を聴く限りね」
そんな会話をしている2人を睨みつける集団が居た。
近くの無事だった建物からぞろぞろと集まっていく。
ざっと30人は居るが……その全てが子供だった。
「子供?」
「お父さんの仇!」
「母さんの仇!」
「死ね!」
「ダメだよ」
スファーリアはビーダーでトライアングルを叩いた。
高い音の音と共に子供達は眠るように気絶した。
いくらスファーリアでも子供には配慮かるらしい。
縁が子供が持っていた物に目をやり、驚いた顔で拾った。
「……こいつは」
「縁君、それは?」
「対価のナイフ、自分の命と引き換えに対象者を殺すナイフだな」
「刺されても大丈夫?」
「この程度では死なないが……この子供達からは悪い縁を感じる」
「音も悪意というよりは、純粋な善意を感じた」
「つまり子供使って俺達を殺そうとした奴らが居ると」
2人の顔がやる気に満ちる、もう止められないだろう。
「元凶を本気で潰す」
「それには同意、まずどうするの?」
「この子達の保護だ」
縁は鞄からカミホンを取り出す、誰かに連絡するようだ。
「シンフォルトか? 子供達を使って悪いこ――きれた」
きれたカミホンを見ていると、地響きが鳴り響く!
その音がする方向を2人で見る、すると凄いのが近寄ってくる。
お祈りのポーズをしたまま、上半身は微動だにせず、下半身が残像で見えない。
そんな走り方をしているシンフォルトが向かってくるのだ。
「縁さーん!」
「速かったな、もう既に嗅ぎ付けたのか」
「この街の近くの村に説法に来てまして、悪意有る所に私有り! 道徳の素晴らしさを広めませんと! さあ! 道徳を始めましょう!」
傍から見れば無残に倒れている子供達を見て、シンフォルトは睨む様にスファーリアを見た。
「して、なにがありました?」
「襲撃されたから、私が気絶させた」
「この子供達は都合のいい様に育てられたらしい、任せていいか? 行く所があってな」
「まあ……まあまあまあ! 子供達を!? 元凶は道徳に反します! ここは私にお任せ下さいな! 私が導いて差し上げます!」
「スファーリアさん、俺に付いて来てくれ」
「わかった」
縁とスファーリアはその場から消え、ノリノリで子供達を介抱していくシンフォルト。
実はその様子を見ている人物達が居た、何処かの部屋で、男女問わず何だか偉そうにしている面々が数人座っている。
部屋の中心で魔法か何かで映されている縁達が居た場所、ここに居る面々は賭け事をしていたようだ。
「ハッハッハ、賭けは私の勝ちだね」
「ふぅむ、誰も死者が出なかったね」
「まあまあ、次の賭けを楽しみましょう?」
「最初は小手調べですよ、次は2倍にしましょう」
「次はねぇよ、んな遊びは俺が許さん」
色鳥だった、突然現れた彼はその場に居る全員をささっと愛刀で殺した。
血もあまり出さずに、悲鳴も上げさせず。
「また戦争になるのかねぇ……」
よだれを垂らしながら子供達を介抱中のシンフォルトの映像を見ながらそう言った。
その時、部屋の扉が開いて色鳥は刀を構えたが、入ってきたのは陣英だった。
「待て待て色鳥、死体処理をしていけ」
「陣英、お前も来てたのか?」
「縁が襲撃されるって情報があってな」
「って事は縁を助けに来たのか? 現地に行けよ」
「違う、お前の後処理に来たんだよ、お前このまま帰るつもりだったろ?」
「そりゃすまないな、菓子折り持って挨拶行くわ」
「はぁ……」
「てか街の方はいいのか? シンフォルトをほっといたらやべぇぞ?」
「そっちはグリオードに任せている、あの街に公務で来たようだ」
「知らし合わせた様なオールスターだな?」
「いずみは我関せず、絆は学校だ」
絆と聞いて色鳥は真剣な表情になった。
「……陣英、戦争になると思うか?」
「なったとしても昔の規模ではないだろ」
「その根拠は?」
「昔を知っていたら、あの2人に関わろうとする奴は居ないだろう? 逆恨みを除いてな」
「それか名を上げたい奴か?」
「どれにしても協力はしてやろうと思う」
「だな」
「そうと決まったらここの清掃からだ」
「……いくらかかる? 俺も手伝うから安くして」
「友達料金にしておく」
そう言って2人は後処理に取り掛かるのだった。