第一話 後説 義理の弟と食事のお知らせ

「ふう」


 長谷川はゲームからログアウトした。


「もう荒野原さんの弟君と合流する時間か、楽しい時間はあっという間だ」


 身支度を済ませて、何時もの様にロビーで荒野原と合流する。


「弟君はまだか?」

「そろそろ来るんじゃない?」

「すみません、長谷川さん、姉さん、遅れました」


 2人が声をした方を見ると、早歩きで近づいて来る男子が居た。

 どことなく一本橋に似ている。 


「初めまして長谷川さん、僕は荒野原あきらといいます、何時も姉がお世話になっております」


 明は出会って早々、長谷川に丁寧にお辞儀をした。

 それを見て、長谷川も頭を下げる。


「初めまして荒野原君、終さんとお付き合いしている長谷川です」

「……」


 荒野原は少々不機嫌そうな顔をした。


「姉さん、顔に出てるよ」

「そう?」

「え? 何が? 明君どういう事?」

「姉さんは長谷川さんに、名字で呼ばれたいようです」

「何故わかった弟よ」

「いや、何年姉さんの弟してると思ってるのさ」

「荒野原さんって呼べるのも後どれくらいか」

「どういう意味?」

「旧姓になるからだよ」

「……へっへっへ」


 荒野原は悪そうな顔をしながら、長谷川の肩をベシベシと叩いている。


「……こんな姉ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」

「って長谷川君、イチャイチャしてる場合じゃない、そろそろ行こうか」

「ああ」


 3人は予定していた食べ放題のお店と、タクシーで向かった。

 店の目の前でタクシーを降りた3人。


「荒野原さん、ここであってるのか? 見るからに高級店なんだが?」

「あってる」

「スーツとかのドレスコードが必要なのでは? 俺ジャージだぞ?」


 長谷川は自分の姿を見ている。

 目の前のお店作りからは、高級店のオーラが放たれていた。


「大丈夫、見てくれで選ぶ人は居ないからって、お母さんが言ってた」

「まあ信じるしかねぇよな」


 店の中も一流御用達の豪華な装飾品。

 3人はお上りさんの様に、周りをキョロキョロしていた。

 お客さんのほとんどが、店の雰囲気に似合わずラフな服装だ。 

 ビシッとした制服姿の店員が3人に近寄ってくる。


「いらっしゃいませ、ご予約はされてますか?」

「荒野原詩織の名前で予約しています」

「!? 少々お待ちください、支配人を呼んでまいります」


 少し驚いた店員は、早歩きでどこかへ向かった。


「えぇ……なんつーか、VIPな扱い? 支配人て」

「お母さんに感謝しないとね」

「お酒でも手土産にしようか」

「母さん、家でもベロベロになるまで飲むから困ったものです」


 これまたビシッとしたスーツ姿の女性がやってきた。


「いらっしゃいませ、長谷川さん、荒野原さん、明君、支配人の山崎ひろみです」


 山崎は凄く丁寧に頭を下げた。


「お部屋にご案内いたします」


 歩き出す山崎についていく3人。

 階段をあがり、広い廊下の奥の部屋。

 扉の上には信用の間と書かれた札が付いていた。


「こちらです」


 山崎は扉を開けた。

 中に入る3人が見た物は。


「うお!? 完全個室じゃん、お手洗いまであるし」

「下のフロアより装飾豪華、でも落ち着いている」

「凄いですね」

「詩織からのお願いと、私からのプレゼントです」

「プレゼントですか?」

「はい、長谷川さんと荒野原さん、おふたりには感謝しています」

「え? 何か俺達したっけ?」

「ゲーム内で、貴方達の気合の入った告白に……夫も私もが感化いたしまして」

「あのシーンか、ロールプレイ公開にはしていたが」


 縁が大声で愛を叫んだあのシーンの事だろう。


「この店がまだ小さかった頃を思い出して、初心を思い出しました」

「どういたしまし……て? た?」

「長谷川君、言葉が可笑しくなってる」

「ふふっ、歳をとると駄目ね思い出に浸ってしまって、今日は気にせずに飲み食いしてください」

「え? あの、支払いは?」

「詩織から前払いで頂いてますし、先程もいいましたが私からのお礼です」

「ありがとうございます、遠慮無く楽しませてもらいます」

「ああでも、明君が居るから遅くなまでは駄目ですよ」

「へ? 明君、何歳?」

「高校生2年生です」

「ファ!?」


 長谷川はさっきから驚いてばかりだ。


「言ってなかったっけ? そしてその音はファじゃない」

「それお決まりだな」

「えっと、お母さんが兄さんを産んだのが21」

「お、おお」

「その二年後に私が生まれて、最後に子供が欲しいと生まれたのが明」

「なるほど、遅くならないようにしないとな」

「そうと決まれば、早速席に座ってください」


 3人は着席して山崎から説明を受ける。

 タッチパネルで注文をして、品物は部屋の隅にあるエレベーターで届く事、返却口も同じ。

 従業員の呼び出しもタッチパネル、帰る時に呼んでほしいと、一例して去っていった。


「本当に完全個室だな」

「お母さんに感謝しないとね」

「僕は姉さん達にも感謝しますよ、こんないい場所、逆立ちしても今の僕には無理ですから」

「俺も無理だよ、なんかの記念日ってんなら出すけど」

「それよりも、ささっとパネルで頼みましょ?」

「ああ」


 3人はタッチパネルを操作して、各々食べ飲みしたい物を頼む。


「ああそうだ、お母さんから伝言があったんだ」

「伝言?」

「正確にはルルさんかな」

「ふむ」

「過去の準備が出来たから、来週やるって」

「過去の準備? ああ! 縁とドレミドさんの出会ったシーンのリメイクか」

「そうそう、もちろん私も参加する」

「って事は、縁と結びは久しぶりの再会って訳か」

「多分気付かないと思う」

「俺もそう思う、縁荒んでる頃だから」

「私的には縁とのきっかけにしたい」

「そうなると……ある程度は縁に魅力が無いとな」

「その時の縁ってどんな時?」

「絆を不幸にする奴は幸運にしている真っ只中だ」

「惚れる要素が無い……あ、そうだ、斬銀さんに怒られたのって後?」


 荒野原さんは閃いた顔をして長谷川を見た。


「だいぶ後だな」

「それずらせる? 怒られた後なら、ある程度縁も丸くなってるんじゃない?」

「なるほど、キャラクターはスファーリアで参加?」

「うん」

「……うむ、怒られた後の方がスムーズだ、改心してない縁に魅力がねぇ」

「んじゃそうしましょ」

「ああそうだ、明君も参加するかい?」

「え!? 僕はサブキャラクター持ってませんよ?」

「いいんじゃない? ゲスト参戦しても、お祭りに理由はいらん、お前が参加するかしないかだ」

「します、どんな話の再現なんですか?」

「元々のお話は、スラム街の酒場で働いてた縁の日常、みたいな感じ? ロール的に本当に日常生活だったからな」

「それをコンパクトにする感じですか」

「ん~だったら」


 長谷川はしばらく考えた後、話し出したる


「ドレミドとスファーリアが来店、縁が接客、しばらくして縁を狙う賊侵入、スファーリアが殲滅、もしくは縁と共闘、襲撃が終わってスファーリア達が帰る時に――」         

「バシッと心に響く言葉を言ってもらおうじゃないの! へっへっへ!」

「姉さん、楽しそうだね」

「へっへっへ、長谷川君の腕の見せ所だね~」


 荒野原がニヤニヤしながら長谷川を見ている。

 すると、エレベーターからリンと音がした。

 注文したものが来たのだろう。


「んじゃ、この話は一旦ここまでにして、英気を養うか」

「ついつい話に夢中になってしまった、明、気合い入れて食うよ!」

「姉さん……味わって食べようよ」


 3人は豪華に料理に舌鼓をした。

 一通り楽しんだ後、帰る時間になる。

 その際に山崎から3人に手土産を渡された。

 中身は自社製品のケーキの詰め合わせ。

 満足して3人はタクシーで帰宅した。