第一話 演目 茶番でも二人の時間

 扉をくぐると其処には、絵に描いた様なカジノが広がっている。

 ポーカーテーブルにスロット、ルーレット等々。

 飲み物を提供する場所もある。 


「ここが俺のカジノだ」

「おお! スゲー!」

「カジノらいし華やかな雰囲気」


 生徒達はテンション爆上がり。


「オーナー、お帰りなさいませ」

「店長、彼ら人数分のチップカードを発行してくれ、支払いは俺でな」

「枚数はいかがいたしましょうか」

「五千で頼む」

「承知いたしました、お待ちください」


 店長は一礼して去っていった。


「初めてここに来た時とは雰囲気が違う」

「風月が来てたな、あの時は休みだったからな」

「そうだったね」

「お待たせしました」

「ありがとう、店長」


 縁はカードを受け取り、店長は一礼して去った。


「ほい、後は好きに楽しむといい」

「よっしゃ、気合いが入るぜ!」


 ろくな説明も聞かずに生徒達は早歩きで散り散りに行動し始めた。


「元気なもんだ」

「で、チップの貸し出しは何処?」

「あ、スファーリアさんもやる?」

「もちろん、楽しませてもらいます」

「案内しよう、こっちだ」


 スファーリアをチップの貸し出し機の前まで案内した。


「ここでカードの発行とチップの貸し出しが出来る」

「使えるお金は?」

「ほとんど対応している」

「了解」


 機械を操作してカードを入手する。


「よし、これで戦える」

「戦うて、いや確かに店員とカードやルーレット出来るけどさ」

「縁君に挑戦するわ」

「俺?」

「運という戦場で、貴方に挑むわ」


 スファーリアは戦う気満々の顔をしている。


「やる気満々だな」

「お互い怪我一つしなくていいでしょ?」

「まあ、怪我はしないだろうな」

「常々戦いたいとは思っていたけど、怪我はさせたくない」

「それは俺もだ、手合わせでも心は痛む」

「だだ風月は別」

「あーなんとなくわかる、こう……拳で愛し合うとか言いそう」

「よくわかってるじゃない」

「そん時は怪我しないようにしないとな」


 そんなイチャイチャを繰り広げていると、久城が2人に近寄ってきた。


「噂通り仲がいいんですね、スファーリア先生の笑顔を初めてみました」

「久城さん何時の間に」

「いや、縁先生の私生活を見たいのに、遊んでいてはダメと思い」

「っても、スファーリアさんとのイチャイチャ時間になりそうだ」

「構いません、先生達を見てて思ったのは『どうだ、俺達はこんなにも愛し合ってるんだぞ』と、自慢したいのは伝わってますから」

「自慢してるか?」

「他の人に見られて困る恋愛を、しているつもりは無いけど?」

「だな」


 堂々と恥ずかしいがる事も無く言ってのける2人。

 勝負をするテーブルに移動して、縁はトランプを鞄から出してシャッフルしだした。


「それで、何で勝負をするんだ?」

「トランプで勝負」

「ポーカーとか?」

「物事はシンプルな方がいいわ」

「ふむ、どうするんだ?」

「場に並べられたトランプから、数字が高い方を出したら勝ち、エースが最弱でキングが二番目に強い」

「シンプルだな、ジョーカーが最強か」

「引き分けか、負けしかないわね」

「その勝負受けて立つ」

「あ、これは聞いておこう」

「何を?」

「イカサマはありかしら」

「お手並み拝見といこうか」

「チップを賭けるのにはどうしたらいいの?」

「カードを目の前の端末にかざせばいい」

「わかった」


 スファーリアは自分が座っている目の前の端末にカードを押し当てた。

 現在のチップの残高が表示される、残り五万枚。


「んじゃ、トランプを適当にシャッフルして、置くぜ」

「ええ、オッズは?」

「二倍にして返そう」

「そう」


 一万のチップをスファーリアは賭けた。

 並べられたトランプをお互いに、何も言わずに交互に選んでいき、同時にめくるを繰り返す。

 それを繰り返して、縁が勝った。


「今度は私が置いていいかしら?」

「ああ、いいぜ、因みに俺はイカサマはしていないからな」

「でしょうね」


 スファーリアはカードをシャッフルして場に置いた。

 縁は何かに気付いた様な顔をする。


「勝負」


 今度はチップを二万枚を賭けたスファーリア。

 ニヤリと笑う縁はカードに手をかけた。

 また互いにカードを引いていく、結果は縁が惨敗した。


「ふむ」

「どうしたの?」

「見事だスファーリアさん、このイカサマはなかなか気付かないだろう」

「え? スファーリア先生は、イカサマしていたんですか?」

「カードの摩擦で判別したんじゃないか?」

「ちょっと違う、縁君」

「どうやったんですか? スファーリア先生」

「触った時に私にしか解らない音を仕掛けた」

「なるほど」

「そして、このカードが特殊なものだと分かった」

「お、正解だ」

「さらに、私に負けるカードをワザと取ったでしょ」

「どっちがイカサマなんだろうな?」


 お互いに不敵に笑い合った。


「仕掛けた時に違和感があった、その時に私のイカサマはバレた」

「どうして縁先生は勝負を続けたんですか?」

「俺はスファーリアさんと『運』で勝負したかったからだ、ま、俺もある意味でイカサマしたがな」

「試合に勝って、勝負に負けた、やっぱりイカサマはダメ」

「って、縁先生は幸運の神様ですよね? そんな人に運で勝てるんですか?」

「時と場合による、今は遊ぶ時間」

「だな」


 茶番だろうが、2人の時間には変わりはない、楽しそうに笑うのだった。


「うむむむ……運に勝てるんですか」

「久城さん覚えてなさい、運で起こるのは結局は何かしらの出来事よ、対処出来ればどうとでもなる」

「な、なるほど」


 久城が少々困惑していると、スロット台が有る方から歓声が上がった。


「おや、何か騒がしいな」

「歓喜の音、ちょっと見に行きましょう」

「行ってみるか」


 トランプを片付けて、3人はスロット台へと向かった。