(くそ、俺はなにやってんだ)
一樹は独り帰り道の途中、拳に力が入る。
「志信に言われたこと、俺だって気づき始めていた。だってのに……みんなは自分の弱点にも気づいて、修正して。俺は言われて初めてやっと気づいたってのに……」
容量の悪さには気づいているものの、それをどうすればいいのか答えを導き出せないでいる。
誰かにとっては簡単に気づけることであったとしても、それを自分で気づくというのは難しい。
「なんでなんだろうな。やっぱりもっと勉強した方がいいのかな。それとももっと本を読んだ方がいいのか」
前回取り組もうと思った勉強が頭をよぎる。
それと同じく、テストでの点数も。
「少なくとも、志信は高得点だったよなぁ。地頭が違うってやつなのか……? だとしたら、俺が今から勉強したところで何の解決にもならないじゃねえか……」
一樹の考えが遠回りをし始めてしまう。
そして、考えが凝り固まってしまっている。
「じゃああれか、もういろいろと積んでるってことかよ」
いや違う。
見つめなければならない現状からの逃避。
本当は勉強の有無でもテストの点数なんかではない。
自分だけ取り残されている感覚――これが自分の気持ちに引っかかっているという事実から、必死に目を背けようとしている。
誰からも責められない、誰からも指摘されないというのが、一樹自身を追い詰めてしまっていたのだ。
何をしても自分が悪い、上手くいかないのは自分のせい。
誰が思っているわけでもない、勝手な自責が心を苦しめる。
「今日、負けちまったなぁ……」
盛大な溜息を吐き、空へ視線を移す。
「きっと、俺のこの悩みなんてちっぽけなもので、他人から見れば些細なことで。足りない頭で考えるより、いっそのこと――」
「いっそのことパーティを抜ける? ――そんなのできもしないのに、これ以上の迷惑をかけるってのか? 何考えてんだ。みっともねえ、情けねえ」
考えれば考えるほど、悪い方向へ帰結する。
出会った時からは想像もつかないくらいに。
こんなことじゃダメだ、足を引っ張らないためにはもっと頑張らないと――勉強もできない、足りない頭で考えられないのなら、せめてもの目の前のことだけでも必死にこなそう。
と、何度も深呼吸をして気持ちを整えようとするけれど、その全てが失敗に終わる。
走り出して頭を空っぽにしてみようするけれど、永遠と湧き上がってきてしまう。
「ふんっ、本当にどの口が言ってんだかな」
嫌でも思い出してしまう、自らが履いた唾――『頼むから、足を引っ張らないでくれ』。
一華へ放った言葉。
今日の授業を振り返る。
傍から見れば考えなしに突っ込んで打ちのめされたようにしか見えない、戦いぶり。
そんな体たらくを見せてしまった後、残された一華は孤軍奮闘してみせた。
どちらが、足を引っ張っているのか。
この問いが何度も一樹を襲う。
うるさいぐらいに、目を閉じても、耳を塞いでも、息を止めても。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度でも。
気づけば空が薄暗くなり始めていた。
雨模様。
この季節は、どうしても雨が降りやすい。
一樹は熱くなる目頭を、これから降る雨で冷やすかのように見上げる。
一滴、一滴と雨が空から零れる。
そして、一樹の頬へぽつり。
頬を伝い落ちる水滴は、自然のものだったのか、自らのものだったのか。
他人からすればそれを確認できないほどに降り始めてしまう。
小雨の中、一樹はただ歩いた。