休み時間、授業の準備をしながら
「いやぁ、それにしてもうちの全校集会はいっつもあんな感じで助かるよねぇ」
「確かにあそこまで短いと聴いているこちら側としては助かるよね。でも、本当にあれで良いのかな……?」
「その疑問は僕も抱いているけど、どうなんだろうね。短く要点がまとまっているし、あれはあれでありなような?」
「まあ、他の学園を知らないから何とも言えないんだけど、小学校とかの記憶は悲惨と言うか、何言ってるか分からないし最悪な記憶しか残ってないのは確かだね」
それに彩夏が言う通りで、学園以前の記憶を辿るに校長先生の話や先生たちの話は理解できていないでいた。言葉が難しいというのもあるけれど、心のどこかで「要するに何?」という疑問を抱いて立ち続けなかればならないという、半ば尋問に近い苦痛を耐える時間でしかなかった。
中学校に上がれば、多少の言葉は理解できるようになっていたけど、正直に言ってしまえば苦痛な時間に変わりなかった。
この流れになったら、当然ともいえるかもしれない。
彩夏の口から僕に対して質問が飛んできた。
「そういえば
「私のところはみんなが言ってるように退屈なものだったよ。それより、私も
「……いや、僕のところも結月が言う通りな感じだったよ」
「そっか、やっぱりそうだよねー。うちの学園が特別な感じってわけだよね。あ、でもでも、生徒会長は個性が分かれたりするんじゃない?」
うきうきの目線を向けてくる彩夏……と、結月。どうやっても逃げ道はなさそうだ。
彩夏は質問している側だから仕方ないにしろ、結月はどうやらこの話に乗り気でないのかどうかわからないけど、話題の標的が完全に僕だけになっている。
正直な心境――以前の学園について思い出したくはないんだけど……。
「こっちの生徒会長はかなり元気溌剌で清々しい気分で見ていられたけど、以前通っていた学園の生徒会長は真逆だったよ。なんというか、冷静というか冷徹というか……まあ、そんな感じ」
「へぇー! クールな人だったんだねっ」
「そっかー、やっぱりそんな感じだよね」
「普通そうだよ。うちの学園が特別なだけだよ」
「あっははー、それもそっか」
謎の食い入りようを見せる結月。
彩夏の迷走気味なテンションにツッコミを入れる美咲。
終始苦笑いを見せて流れを見守る桐吾。
以前の学校か……。
良い思い出はない。ましてや、生徒会長。あの人の考案した内容のせいで、僕はあんな扱いを受けていたと言っても過言ではない。
でも、僕は何があっても変えない。変わらない。
「――い、おーい、志信どうかした?」
「ん、いや、何でもないよ。ちょっとだけ考え事をしてて」
「え、なになに! 何考えてたのっ、教えて教えてっ」
「いや、別に大したことじゃないから」
「えーっ、きーにーなーるー」
いやいや、本当に結月の食い付き具合を見ると若干引いてしまう。
何がそこまで気になるのか。活気溢れてるのは見てて気持ちの良いものだけど、その詰め方は守結がチラつくから何とも言えない気持ちになる。
それに、どれだけ興味を持たれようが以前通っていた学園のことを話すのは避けたい。
話が膨らみ始めたところだけど、海原先生が入室。あっという間に休み時間は終わりを迎えてしまった。
先生は、何やら配布物のような用紙の束を抱えてる。
その束を教卓の上に置いて、一枚の用紙に目を落としながら話を始めた。
「ではまず初めに、
と、ここまで話を進めるも先生は紙を置いて、一度だけ浅いため息を吐いた。
「はぁ、これはなぁ……見ても聞いても同じだと思うので、配布しますね」
いつもより低いテンションで、どこか背中が丸まっているように見える先生は各列へ用紙を流し始める。
手元に来たものに早速目を通すと、先生の内心を容易に察することができた。
――――――――――
本年度の学事祭!!!!
1、実技試験!!
2、筆記試験!!
3、遠征試験!!
4、総合試験!!
以上の四点にて成績優秀者を選出!
尚、今回の学事祭に関しては参加条件として自クラスで6~8人パーティが必須事項である!
また細かいことは各試験の度に通達するから、日ごろから精進すること。以上!
生徒会一同より
――――――――――
……とだけ、でかでかと記載されている――。
生徒会一同より。と記されているけど、この感じ……一言一句、
「ねえねえ、あの生徒会長すっごく面白い人だねっ。てかこれ、全然なんにもわかんなーい」
「……だね」
結月の反応が普通の反応といえる。
言ってる内容はさておいて、それを見て一安心している自分がいるのに若干戸惑いを隠せない。
何とも言えない複雑な気持ちを抱きつつ、先ほどの会話を振り返る。
難しい内容やこの四項目についてごちゃごちゃと書かれて疑問点が溢れてしまうより、遅れたとしても項目毎にまとまった説明が記載されていた方が親切なのかもしれない。
早くもこの学園色に染まりつつある自分の思考に頭を抱えそうだ。
教卓へ戻った先生は、話を続ける。
「例年通り、この学事祭は生徒会長の独断と偏見で開催されます。それは他の学園でも同様のことです。そうそう、志信君と結月さんなら証言してくれるのではないでしょうか」
唐突な話題に一瞬ビクリとするも、
「私のところもそんな感じでしたー」
「はい、僕も同じ回答です」
結月が咄嗟に答えたのに便乗することができた。
クラスメイトからは視線が集まっていたけど、特段と反応があったわけではない。
特に嘘を吐いているわけでもないし、本当に学事祭というのは生徒会長が主催するものなのだから。
毎年行われるこの催しは、先生の言っている通りで毎年行われている。
ただ、内容は毎回違った。それはこの学園でも同じらしい。
「では、学事祭の話はここまでにします。授業は以前より通知していた体力テストです。各自準備を終え次第、校庭に集合してください」