「え、えっと……これは……」
「……面目ない」
四教科のそれぞれ二十点満点ずつのテスト。
残念ながら私は……全教科一桁だった。
いや、まあ当然と言えば当然の結果なのだろうけど、改めて示されると中々にクるものがあるな。
「い、いえ! 教え甲斐があります!」
「そ、そうか。優しいなひなちゃんは……」
「えへへ、そんな。これから私と全教科、全範囲勉強していきましょうね。前のテストである程度先生の出し方のクセも分かりましたし、頑張れば間に合いますよ!」
ああ、人の優しさが沁みる。
これ、ここまで言ってもらっといて勉強しなかったらいよいよクズだな、私。
なんて思いつつ。改めて頑張ろうと思った。
「ふふ、なんかひなちゃん、お姉ちゃんみたいだ。もしかして妹か弟いるか?」
「へっ!? な、なんで分かったんですか!? 弟が一人います!」
「やっぱりかぁ。いやな、こう……面倒見の良さというか。お姉ちゃんみが出てるなぁって。奈美ねえとは大違いだよ」
「な、奈美ねえさんって……あ、湯原先生ですか。た、たしかにあの人はお姉ちゃんっぽくはないかも、ですね」
実はあれでも、小さい頃は結構面倒見てもらったりしたんだがな。
奈美ねえの今の年齢は二十後半。私とは十歳ほど歳の差があり、昔は憧れの存在だった。
親が何か用事があった時には奈美ねえの家にあげてもらったし、周りの友達との予定もあるだろうによく遊んでくれて。近所のショッピングモールのゲーセンにもよく連れてってもらったっけ。
大学生になり酒とタバコを覚え、明確に腐ってしまったから、今ではあんなだが。まあよく考えたらフランクな性格は昔からだし。根っこの部分は変わってないような気もする。
「私もひなちゃんの妹になりてぇ〜。一生お世話してもらってヒモみたいな生活を……なんてなぁ」
「わ、私が薫さんを養う……ゴクリッ」
「あっはは、冗談だよ冗談。じゃあ早速で悪いんだけど先生、どの教科からやりましょうか?」
「へぇっ!? そ、そそそうですね! じゃあ一番点数の低い化学から……」
何やらひなちゃんが真に受けた顔をするもんだから。慌てて訂正してしまった。
この子、もしかして今、私を養う生活を真面目に考えたのだろうか。本当、相変わらず堅いというか。いや、良い子なんだ。良い子すぎて、ついドキッとしてしまう瞬間がある。
(というか、改めて見ると本当に……)
「可愛いな、ひなちゃんは」
「…………へえぇぇぇぁっ!?!?」
「あっはは、顔真っ赤〜! もぉ、今は先生と生徒なんだぞ? これじゃあどっちがどっちか分かんなくなっちまうぜ」
普段はあたふたしていて、でもふとした瞬間には頼りになる表情をする。
良い意味で二面性のある子だ。ついつい、抱きしめたくなってしまう。こんなに仕草が可愛いうえに顔まで美少女と来たもんだ。オシャレを色々教えて化けさせてあげたいと思う反面、このままでいて欲しいという気持ちも。
「……って、言ってる場合じゃない! 先生、早速化学教えてくれぇ!!」
「ひゃ、ひゃひ。ひゃひぃっ!!」
お互いてんやわんやになりながらも。
二人きりの勉強会は、続いていく。