「……え? 今、なんて?」
「ごめん。本当にごめんなんだけど、俺の家……使えなくなっちゃった……」
テスト期間初日。帰り道で、私は寛司に衝撃の告白をされたのだった。
前のテスト期間は土日、テスト当日も含めて毎日寛司の家で過ごした。お泊まり、した日も……。
あくまで名目は勉強だし、コイツに教えてもらうと頭にどんどん内容が入ってくる。勉強も効率的に進むし、一人で寂しい時間も減らせ……ん゛んっ。
ま、まあともかく。今回も当たり前のようにまた家に行くのだろうと思っていた。寛司もそのつもりだったみたいだし。
「実は今、お母さんの妹さんが遊びに来てるみたいで。小さい子供と夫さんも連れてきてるみたいだから、多分集中して勉強なんてできないと思う」
「ん、ぬぬ。それは確かに仕方ない……」
理由が理由で寛司は何も悪くないので、あまり強く言えなかった。
「で、でも安心して! 勉強会は勿論やるつもりだから!!」
「場所は、どうするの?」
「それは……ほら、図書館とか!」
「……人目があるところ、ヤダ」
「う゛っ」
二人きりで勉強をするというのが、私の中の最低条件だ。
理由は色々ある。集中できるとか、落ち着けるとか。……甘えたい、とか。
人目のあるところじゃくっつけない。寛司はイケメンだし嫌でも目立ってしまうから、なんだか色んなところから見られているような気分になってしまう。
だからやっぱり、二人きりの場所がいい。
(二人、きりの……?)
頭の中に、一つの選択肢がよぎる。
二人きりでいることができて、落ち着ける。周りは静かだし人目もないそんな場所が一箇所、あった。
「か、寛司っ!」
「ん? どうしたの?」
ほ、本当はこんなこと言うの、死ぬほど恥ずかしい。普段なら絶対誘わないし、なんなら一度しか入れた事はないんだけど。
それでも状況が状況だ。一週間のテスト期間と数日のテスト当日。それらを寛司と一緒に過ごすためには────
「そ、それなら、さ。……私の家、来る?」
うちは共働きだから、多分夜の六時過ぎくらいまだは誰も来ない。夜まで一緒に勉強できていた今までの環境には劣ってしまうものの、今取れる選択肢としては一番いいはず。
「い、行く。有美の家、久しぶりだね。お正月以来だっけ?」
「うん。多分うち、しばらく親は帰って来ないから。先に連絡入れとけば、私の部屋に篭ってるうちは邪魔されないと思う」
「有美の部屋、か。そういえば俺、一度も入ったことないかも」
「い、言っとくけど何も無いからね!? もしかしたらちょっと散らかってるかもだし……」
「ふふっ、大丈夫だよ。有美の部屋……楽しみ」
「な、にゃっ!? ヘンタイ!!」
「なんでそうなるの!?」
そんなこんなで、このテスト期間は毎日私の家で過ごすこととなった。
やっぱり恥ずかしいけど。でも、勇気を出してよかった。
(これで、また毎日寛司といられる……)
多分もう、重症なのだろう。
頭の中で、そんな後から思い返してしまえば確実に恥ずかしさでパンクしてしまうようなことを考えているのにも、気づかずに。
私は無意識に、小さく頬を緩ませていた。