図書館には普段本を読むために活用する人が座るスペースとは別に、学生用の自習室が設けられている。
まあ自習室なんて言っても、二階の一部スペースをその名目で解放しているだけだが。それでも周りも勉強をしている環境ならやはり勉強しようという気になれるし、どうせ勉強するならそこでするのが一番いいだろう。
と、早速二階に上がった俺たちは自習スペースの端の方で並んで席を取り、荷物を置く。
周りには同じように勉強に勤しんでいる学生が並んでおり、少しピリピリとした空気が流れている。赤く分厚い本を開いている人もいることから、受験生も紛れているのだろう。
「由那、みんな勉強してるから静かにな」
「ふふっ、もちろん。ね、とりあえず飲み物買いに行かない? 喉乾いちゃった」
「ん? あ〜、そうだな。分かった」
一度席を離れて、一階へ。静かな読書スペースを抜けて、ロビーへと戻る。
さっきまでは周りの空気もありヒソヒソ話だったのだが、ここなら普通に話していられるな。
「何飲みたいんだ?」
「う〜〜ん、アセロラジュースかなぁ」
「な、なんか独特なチョイスだな。まあいいけど」
「えっ? ゆーしが買ってくれるの?」
「勉強頑張る彼女さんのためだからな。これくらいはさせてくれ」
「えへへ、ありがとぉ♡ もお、ゆーしは近くにいてくれてるだけで私の力になってるのになぁ〜♪」
由那にはアセロラジュースを。俺はカフェオレを選び、購入する。
ガコンッ、と音がして出てきたそれを取り出しアセロラの方を手渡してから、一息つくために近くのベンチへと座った。
「う゛〜、お勉強やだなぁ。ずっとイチャイチャして遊んでたいよ〜」
「そうもいかないだろ。十分経ったら戻るからな」
「ちぇえっ。まあでも、赤点取るわけにはいかないもんね。ゆーしとの夏休みを減らされるなんて、絶対嫌だもん……」
ふんすっ、と強く息を吐きながら。気合いを入れるように、由那はアセロラジュースに口をつける。
「よぉし、がんばろ! 言っとくけどゆーしも赤点なんて取っちゃダメだからね! あと、わからないところあったらいっぱい聞くから!!」
「望むところだ。どんどん質問してきてくれ」
まあ、答えられる範囲には限りがあるけど。
とにかく由那がやる気になってくれてよかった。あと一週間。このモチベーションが続くように、ちゃんと隣でサポートしないとな。
「じゃあ……ね? あと十分、この後頑張るためにいっぱい充電させてほしいなぁ」
「じゅ、十分だけだぞ? あんまりやりすぎないようにな」
「もっちろん! 十分チャージしたら一時間勉強、だもんね!」
「分かってるならよし。俺も頑張るために、由那成分補充しとかなきゃな」
「えへへ〜、じゃあぎゅっぎゅし合お! 今なら周りに人もいないし、実質二人きりだよ〜!!」
謎の理論で唆されて、抱きしめ合う。
ぎゅっ、と背中を引き寄せて密着すると、身体が芯からぽかぽかと熱くなった。朝もしたハグだが、やはり夏服は強い。直接触れ合える肌面積が増えると、充電効率も急上昇だ。これならなんとか、十分で離れられそうな気がする。
「いっぱい、ぎゅ〜っ♡ 彼氏さんパワー、いっぱい吸い取っちゃうぞ〜!!」
まあしかし、問題はその後なんだが。
いくらここでたっぷり充電したとはいえ。隣にずっと彼女さんがいる状態で……一時間、集中が持てばいいんだけどな……。