「しゅん……」
「まあまあ、元気出せって。な?」
由那は珍しく落ち込んでいた。
説教の内容というのはやっぱり俺の想像していた通りのものだったらしく、案の定前回の中間テストの件だったらしい。
俺も由那の点数は一応全て知っている。勝負をしていたわけではないが、まあ結果発表を流れで一緒に行っただけのことだ。
由那は俺と同じでゴリゴリの文系なので、現代文や歴史などには強い。実際そっちの教科では六十点以上を取っているし、平均も上回っていることから申し分ない学力だと言える。
だが、理系科目となると別だ。初めて一緒に授業を受けた時は受験の点数が俺より上だったことが発覚し調子に乗っていた彼女も、徐々にボロを出していった。
初めの一、二回は内容が簡単なだけについて行けていたが、気づけば俺よりも問題が解けなくなっていって。数学けいとうがちんぷんかんぷんな俺でも五十点は取れたテストだったのだが、由那の結果はジャスト四十。
一学期中間が一番簡単だったであろうことを考えれば俺も決して安全圏ではないものの、由那に関してはもう崖っぷち。この先ついていけるのかは不安が残るばかりだ。
「今日から勉強すれば、絶対間に合うって。俺も正直だいぶ怪しいけど、協力するから。赤点取って補修なんて絶対嫌だろ?」
「うぅ、ごめんね……勉強よわよわな彼女さんで、ごめんねぇ……」
まあどうせ今回のテスト期間もずっと一緒に勉強するつもりだったしな。やることは変わらない。
ただ、少し。由那を彼氏として引っ張りたい気持ちからやる気が増した。俺も理数系は苦手教科だが、由那のためだ。ちょっと本気で頑張ってみるか。
「……よし、今日は図書館で勉強するぞ。家だとすぐイチャイチャしたくなって集中できないだろ?」
「う゛ぅ。しばらくイチャイチャ禁止なのぉ?」
「禁止じゃない。ただメリハリは付けなきゃだからな。一時間に一回とか、何十分に一回とか。休憩挟むみたいな感じでイチャイチャを挟もう。そしたら集中して勉強できそうだ」
「……じゃあ五分に一回がいい」
「待てオイ。それじゃ全く勉強進まないぞ」
実際前のテスト期間にも同じような勉強方法は試した。
が、結局お互いの家の中で二人きりとなるとついついイチャイチャ時間を増やしてしまい、勉強時間が減ってしまっていた。
だから外で勉強をするというのは、それを抑止するためだ。まあ外でもところ構わずイチャついてくるのがこの彼女さんだが、少なくとも家で二人きりという状況下よりはマシだろう。
それに、イチャイチャそのものを禁止するわけじゃない。あくまでイチャイチャする時間と勉強する時間をしっかり分けて、飴と鞭のように活用したいだけだ。俺だってテスト終わるまでイチャイチャ禁止とかしてしまうと、多分逆に集中が続かなくなり身体がバグる予感しかしないしな。
「て、手はその……ずっと繋いでてもいい? ぎゅっ、だけは頑張ってガマンするから……」
「そう、だな。まあ手を繋ぐくらいなら」
「やった! えへへ、それならお勉強、頑張れそう……」
あれ、これ結局前のテスト期間とあまり変わらないんじゃないか? なんて思いつつも。その気持ちは胸にしまって、図書館を目指す。
結局はもう、なんといってもひたすら頑張るしかないのだから。