「ちょ、やめっ、何!?」
「何って。王様の命令に従おうかなと思って。こっちおいで、有美。いっぱい甘やかすから」
「ふふっ、普段は遠くから見守る派なんだかな。たまには混ざるのも悪くねぇ! ほら、あ〜んしろ有美!!」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
もみくちゃ状態である。
好きな人を甘やかすという命令。これにより寛司は当然、中田さんへと向かう。
いつもならここで終わりそうなものだが、飲み会テンションの在原さんが加わってしまった。
二人に挟まれて頭を撫でられるわつくねをあ〜んされるわ。おかげさまで中田さんは二人から同時に迫られて大混乱中だ。
「ちょっ、ふざけ……神沢君! 君しかいない、助けてぇっ!!」
「…………ふぅ。由那、相変わらず良い匂いするな。ずっとこうしてたい」
「えへへぇ、ほんと? じゃあ後ろからずっとぎゅっ、しててぇ? ゆーしの腕の中にいるの大好き〜♪」
ごめん、中田さん。俺にその二人の相手は重すぎる。
助けてあげたい気持ちはあるのだが、流石に相手が悪い。俺は少し罪悪感がありつつも由那の背中に顔を埋め、救出は諦めることにした。
それにしても由那、相変わらず甘い匂いだ。どうして美少女からは甘く良い匂いがするのか。人類の命題だな、これは。
「よしよし、可愛いよ有美。ね、ハグもしたいんだけどいい? 二人きりの時みたいに、いっぱい撫でるからさ」
「くっふふふ。こういう時こそたっぷり撫でてやるぜぇ。最近渡辺君に取られたばっかだったからな。私にも世話焼かせろぃ!」
「ちょ、やめっ、わぷっ……やめろぉ! あ、アンタ達いい加減に……頭わしゃわしゃすんなぁ!!」
「ふふっ、有美ちゃん嬉しそぉ〜。私の甘えんぼレーダーにビビっと来たんだよ! 有美ちゃんは絶対なでなでが好きなタイプだね! きっと二人きりの時だけ死ぬほど甘えんぼさんになっちゃう女の子!!」
「ゆ、由那ちゃん!? 勝手なこと言わ────」
「すご。ドンピシャで当たってるよ。有美、俺の家にいる時はいつも……」
「わーっ! わぁっ!? よ、余計なこと言うな!!」
なんというか凄いな、この光景。
中田さん、初めて会った時はかっこいいギャルさんって感じの印象だったのにな。知れば知るほどいじられ体質で、在原さんからも寛司からもやられっぱなしだ。
実際今もじたばたと暴れてはいるものの、両側の二人から完全に押さえ込まれてしまっている。そろそろ諦めてされるがままになりそうな雰囲気だ。
「ほらほらぁ、いい子だなぁ有美。そうだよな? 私と二人きりの時も色んなこと相談してきてくれるもんなぁ。その内容、全部渡辺君のことだもんなぁ? 恋する乙女だよ、お前は」
「っっ、薫ぅ!!」
「え、そうなの? 初耳だな、それ。彼氏として凄く嬉しいよ」
「っっっうぁ! お前、らぁ……ッ!!」
「ふふっ、諦めなよ有美ちゃぁん。王様の命令は絶対なのだぁ♪ 大人しくなでなでされなさぁ〜い」
「ぐぬ、ぐぬぬぬぬぬ……」
むふんっ、と偉そうにしながら。王様割り箸をチラつかせて、由那は中田さんを沈静化させる。
というのも、彼女が心の底では嫌がっていないということを見抜いているからだろう。本気で拒絶しているとなれば由那もこんな真似はしない。
「もふもふもふもふ〜」
「なでなでなでなで」
そうして、結局。しばらく堪能した在原さんから有美を撫でる権限が完全に寛司へと移行すると、あっちのカップルも俺たちと同じように膝上彼女形態を完成させて。
もう一周回って顔の赤さが引いてきている中田さんは、寛司によしよしされながら。少し諦めたように枝豆を口に運んでいた。
「よし、詰めろ詰めろ! ここからが本番だぜぇ! カップル達のイチャイチャもいいが、そろそろ王様ゲームらしく罰ゲームも混ぜてやらねえとなぁ!!」
「ふふっ、私もゆーしはゲットしたし、次は違う感じの命令しちゃお〜っと♡」
「俺も次にする命令は決めたよ」
「絶対ロクなことじゃない……」
「俺も、そろそろ王様になっときたいな。俺はあえての寛司狙いだ。たまにはそのスカした顔崩してやる」
「ふにゃ……薫しゃぁん……♡」
そうして、その後も俺たちは計十回以上もこのゲームを続けて。
結局お開きになったのは、打ち上げ会そのものがラストオーダーにより一区切りされた時だった。