「「「「「王様だ〜れだ!」」」」」
「あっ、私だぁ〜!」
次に王様を引き当てたのは、由那。
俺としてはついに来てしまったかという感じだ。やけに悔しそうにしているところを見ると中田さんも復讐目的で王様を狙っていたようなので、できれば引いていて欲しかった。
「くっふふ。どうしようかにゃ〜?」
由那は王様の文字を見せびらかすかのように、俺の方を見てニヤニヤと調子に乗った笑みを浮かべている。
「じゃ〜ぁ〜♡ 一から五番の全員はぁ〜!」
ぜ、全員!?
コイツ、禁断のカードを使いやがった。
全員に命令することそのものは、この王様ゲームにおいて禁止はされていない。
だが全員にする分、命令できる内容は絞られてくる。誰かを一点狙いしたような過激な内容はできないし、そうなると必然的に緩い内容にはなるはずなのだが。
相手が由那だ。どんなことを閃いていてもおかしくない。こと甘えたい時に関してはIQが爆上がりする彼女のことだ。
きっと────
「自分の大好きな人を、死ぬほど甘やかすこと〜! あ〜んもよしよしもハグも、思いつくこと全部してあげて〜!!」
「んなっ!?」
コイツ、やりやがった。
今ここは、クラスの打ち上げ会なんだぞ。俺たち六人しかいないならともかく。そんなことをしたら男連中からヘイトが……って、それはいつものことか。
それにしてもコイツ、俺への一点狙いじゃリスクがあると踏んで全員を巻き込んでの命令を実行しやがった。流石王様、自分の利益のためなら何でもやるスタイルだ。
「えっへへ、ゆーしぃ。ゆーしの大好きな人は誰かにゃぁ? 王様の命令だぞお。甘やかしなさ〜い♡」
「ぬぬぬ……」
王様の命令は絶対。
仕方ないな、まあ王様の命令だし。俺としては? こんなところで彼女さんとイチャつくのは気が進まないけども。命令だから。うん、仕方がない。
「……膝の上、乗ってくれ。甘やかすから」
「やったぁ〜! えへへ、王様ゲーム最高ぉ!」
座布団の上に座りながらも脚は正座ではなく、机の下にスペースが続いて脚を下へ伸ばせるようになっているそこで、由那はグイグイと俺の膝の上に身体を捩じ込む。
机と俺の間に由那が挟まったことによって少し窮屈だが、心地は悪くない。というか……良い。隣に座らせるよりももっと身近で体温を感じられるこの体勢の方が、俺は好きだ。
「頭も、なでなでして? あとあ〜んしながら手、握ってて欲しい……」
「要求が多いなオイ。それ、手を三本にしないと実現できないんだが?」
「にへへぇ。じゃあ一つ一つ順番に、ね? 私唐揚げ食べた〜い!」
「はいはい、分かったよ」
「あ〜〜〜♡」
王様権限を使い、由那はやりたい放題だ。
まるで俺を手足のように使い、満足そうに唐揚げを頬張っている。
ただそんな事をしていても憎たらしさというか、独裁王な雰囲気が出ないのは。彼女がするそれらは全て″甘えたい″という願望から来ているからか。とにかく甘やかしてやると猫撫で声と満面の笑みを返してくれて、こちらとしても甘やかし甲斐がある。
……血涙を流しながら親の仇でも見るようにこちらにエグい視線を向けてきている男子連中のことは、今は考えないでおこう。
「アイツ最近、イチャイチャを隠す気配が全く無いよな……?」
「処す? 処す?」
「俺も江口さんの頭なでなで、したい……」
「ゆーしぃ、喉乾いちゃったぁ。りんごジュース注文してぇ」
「仰せの通りに。はぁ、ある意味お前が一番王様ゲームをフル活用できてるかもな」
寛司や蘭原さんも中々のものではあったが。
……というか、あれ? 由那を甘やかすことに集中してて忘れてたけど。そういえばこの命令、全員に適用されてたような……?
「ん゛わぁぁぁっ!?」
その瞬間。由那の次に聞き慣れた、女の子の悲鳴が木霊した。