『右手に見えますのは、アルタイル•デネブ•ベガで構成された────』
優しい声質をした女性のアナウンスが、左右から流れる。
満点の星空。暗闇に映し出されたそれは圧巻で、俺も由那も思わず見入ってしまう。
手を繋ぎ、確かにお互いの熱を感じながら。暗闇の中の静寂を満喫する。
「プラネタリウムって初めて来たけど、すっごく綺麗……。なんか落ち着くね、ゆーし」
「本当だなぁ。気を抜くと寝ちゃいそうだ」
「ふふっ、私もぉ」
今日は基本的に一日中歩きっぱなしだったからか。こうやって寝転がっていると、数時間前たっぷりと由那とイチャイチャしたあのベンチにいた時よりも強い眠気が襲ってくる。
身体はほんのりと熱くて。心地の良い星座解説を眺めている由那の目も、もうとろんとしていた。
(今までの人生で一番、楽しい文化祭だったな……)
ふと頭の中に、そんな想いがよぎる。
今日一日最高だった。ウエイトレスとして一緒に働いたのも、色んなお店を回ったのも。占い、お昼のイチャイチャ、縁日にプラネタリウム。
色々な思い出が更新された、そんな一日だった。中学の時の文化祭では……いや、由那がいなければ得られなかった幸福だ。
「由那、お前のおかげでこの文化祭、本当に楽しかった。また来年も……一緒に回ろうな」
「えっへへ、もぉ、どうしたの? 黄昏れちゃってぇ」
ごろん、と由那の身体がこちらへ転がると、もぞもぞしながらたった数センチしかなかった距離を詰めてくる。
膝小僧にスカートの布が当たるくすぐったい感触が走ると共に、俺も同じようにして身を寄せると。必然的に視線が交錯し、見つめ合う。
「もちろん、来年も……再来年もずっと一緒だよ? 私は死ぬまでゆーしと離れるつもりはないもんっ」
「はは、死ぬまでか……」
「うん。ずっと、ずっと一緒がいいなぁ。まだまだゆーしとしたいこと、いっぱいあるの」
死ぬまでずっと一緒。高校一年生のカップルがそんなことを誓い合って実際に実現する確率は、どれだけ低いものなのだろう。
きっとこの先色んなことがある。予期せぬ不安に見舞われるかもしれないし、喧嘩だってするかもしれない。どっちかに別で好きな人ができて、数十年後にはもう顔を見たくないという関係になってしまっているかもしれない。
けどそれら全ての可能性を、由那となら跳ね除けることができる気がする。
由那となら。死ぬまでずっと一緒にいたいと思える。
「そーだな。俺も……ずっと一緒がいい」
「ほんと? 嬉しい……」
この広大な星空の景色に当てられているからだろうか。ついついスケールの大きなことを考えてしまう。
我ながら単純だな、と思いつつも。こうやって浸っていられる時間も悪くないと思った。……って、ベンチで池を眺めている時にも同じようなこと考えてた気がするな。
「ね、ゆーし? その……今私たち、二人きり……だけど」
「ん?」
隣で、由那が呟く。
「……二人きりの場所、だよ? イチャイチャ欲の発散、しておかないかなぁって……」
「あっ……」
薄暗いここでも、はっきりと分かる。
彼女の頬は紅潮し、身体からほんのりと熱を出しながら俺の顔を上目で見つめている。
俺も、同じことを考えていた。相変わらず俺の気持ちを昂らせる最高のタイミングで求めて来てくれるな、彼女さんは。
「キス……シよ? 私の方が先に、ガマンできなくなっちゃった……」