第162話 二人きりのプラネタリウム1

 それから由那と、様々な場所を巡った。


 射的をしたり、カフェでスフレケーキを食べたり。


 楽しい時間が過ぎていくのはあっという間だ。まだあと二時間あると思っていたのがあと一時間半になって、あと一時間になって。


 そして今。あと三十分になってしまった。


 飲食店では材料切れによる店じまいも始まり、どうやらうちのクラスでも卵が底を尽きたのと今買いに行っても余る可能性の方が高いというリスクを踏まえ、先ほど店を閉めたそうな。在原さんがグループライムでそう送って来ていた。


 と、いうわけで。行ける場所も段々と限られてくる中、俺たちが最後に選んだのは────


「ねえゆーし、最後ここ行こっ!」


「おぉ、プラネタリウムか……」


 一年生のクラスの出店であるプラネタリウム。


 受付を済ませて中に入ると、いたのは見張り兼案内役の二人だけ。


 お金も取っていないところを見るとどうやらこのクラスでは売り上げではなく、一人一人が自由に文化祭を回れる時間を増やすようにしたのだろう。


 だから店番の人数は最低限だし、何よりプラネタリウムの機材が通常とは少し違う。


 普通、プラネタリウムと言われれば天井に星の映像を映し出し女性が星座の解説をするのを椅子に座って眺める、みたいなのを想像するが。


 まずここでは、全員が見る景色が一人一人違う。


 というのも映像を映し出すのは天井ではなく、頭を覆うようにして設置されている謎の段ボール箱。


 一度だけ、広告か何かで見たことがある。


 あれは家で手軽に映画館気分を味わえるか何かで少しだけ流行ったやつだ。段ボールで密閉空間と暗闇を作り出し、かつ音を反響させることで寝転がりながら一人映画を楽しめるという。


 手作りで作られたそれには一人用と二人用があるらしく、俺たちは二人用を選択。段ボールを加工したベッドのようなところの前まで連れてこられると、二人用で大きめに作られた段ボールの中に頭を突っ込む。


 中は想像以上に暗闇だった。


 すぐ隣にいるはずの由那の顔が見えない。


 不安で手繰り寄せるようにして手を繋ぎ何も見えない時間に耐えていると、やがて。俺たちの頭上で光が灯る。


「上映時間は二十分です。あとは映像が流れていくので、ゆったり楽しんでいってください」


 そう言って、見張り役の人は小さな足音と共に俺たちから離れて行った。


「な、なんか凄いね……これ」


「そう、だな。想像してたのと全然違う……」


 俺たちの下に敷かれている段ボールは、思いの外柔らかい。だから寝心地は悪くないし、快適だ。


 その上で、目の前には同じように寝転んでいる由那。しかも薄らと映像の光に照らし出され、至近距離でこちらを向いているその顔の表情はよく見て取れる。


 最高だ。そう思った。思いがけずやって来た二人きりになれる時間。


 頭より下はいくら教室の中が暗くされているからとはいえいつ人に見られるか分からないから密着させ辛いが、顔は違う。


(これは、プラネタリウムどころじゃなくなるかもな……)


 目の前に由那がいて、俺はすでに消化不良のイチャイチャ欲が爆発寸前の身体。


 耐えられるはずもない。二十分も由那と見つめ合える時間なんて。手を出さずにいられるわけがない。


「あっ、映像始まった……」


 繋いだ手を胸の前に持って来て、より密着度を高めながら。俺たちは頭上に目を向けるため一旦頭を半回転させる。



 きっとそうしていられる時間は短いのだろうな、と。確信に似た自信を持ちながら。