「やった〜! えへへ、大漁だ〜!!」
「んな、バカな……」
由那は成長していた。
よく考えたら、あれだけ料理のできる由那の手先が不器用なわけがなかったのだ。
結局俺は五個目のボールを狙ったところでポイが完全に破れ、彼女はボウル満タンにスーパーボールを詰め込んでいるのに、まだポイを生存させている。
あまり多くもらっても仕方ないから、とそれらは一個を残して返却すると、俺が残念賞で一個選んだものと同じ色のそれだけを大事そうにスカートのポケットにしまって。むふんっ、と胸を張る。
「ふふ〜ん、ゆーし私のことナメてたでしょ。私だってちゃんと成長してるんだからね!」
「ぐぬぬ……。てっきり昔の感じで一個も掬えずに紙を破るものかと……」
「ちょっ、想定以上にナメられてた!?」
成長……成長、か。
そうだよな。最近は毎日を一緒に過ごしているからいつも彼女の色々な面を知っている。
でもやっぱり、俺と由那には五年という一度も顔を合わせていない期間があった。彼女はその中で俺の知らない成長を遂げ、今ここに立っているのだ。
それが寂しい反面……その五年間に俺と再会した時のための努力をしてくれていたと知っているから、それが愛おしく、嬉しい。
それに、少し楽しみでもある。これから日々を過ごしていく中でもっともっと、これまで知らなかった由那を知っていけるはずだ。今日もまた一つ、「スーパーボール掬い」が上手くなっているということを知れた。
情報の貴重性や重要性はどうでもいい。由那の情報であることが大切。由那の情報だから嬉しい。
「と、いうわけで。私の勝ちだからこれからはお腹なでなでキスを常設化してもらいます!」
「……まあ、それはご褒美なんだけどな」
「えっへへ、ならいっぱい求めちゃお〜! 期待しててねっ!!」
「ん。求めてくれたら全力で答えるからな。というか、俺からも求めるかも」
「ふふふふふ、流石私の彼氏さんだね。いっぱい好き好きくれて、本当に嬉しい……っ♡」
少し照れながらも素直な好意と喜びを向けてくれる彼女に、俺は簡単に心臓を射抜かれる。
可愛い。可愛いが過ぎる。もう家まで帰るのを待たずして今すぐにお腹なでなでキスをしてしまいたいくらいだ。
「ふふっ。あと、ね。ゆーしは勝負に負けちゃったけど、いっぱい頑張っててかっこよかったから。んっ────」
甘い香りと共に、頬に柔らかい感触が走る。
「私からの頑張ったで賞! イチャイチャハグと本物キスはまたあとで……ね?」
「〜〜〜ッッ!?」
えへへっ、と微笑みながらお預けをしてくる由那に、想いを高鳴らしつつ。″またあとで″の破壊力に無意識攻撃を喰らう。
相変わらずというか……本当に、俺の気持ちを昂らせるのが上手すぎる。つい数時間前にイチャイチャ欲を発散したばかりだというのに、またくっつきたくなってきた。
あとで、というのは多分文化祭終わりの帰り道か。それともまた文化祭中にそういった時間が来るのか。
分からないけれど、今から楽しみで仕方がない。
というか────
「由那、その……今から人のいないところ行かないか?」
「え〜? もう、えっちだよ。ダ〜メ。ゆーしは私に負けたもんねぇ。ガマンして文化祭巡りを続けてもらいます!!」
「ぐっ……くそぉ」
今すぐ発散しに行きたかったけど。そんな我慢ならなくなっている俺の姿を見ているのも楽しいらしい由那は、それを許してくれない。
「もぉ。私のこと好きすぎだよ? その気持ちは嬉しいけど、まだ行きたいところあるもんっ。ほら、文化祭デート続けよっ♪」
くそぅ。絶対あとで、死ぬほど抱きしめて思う存分発散してやる。
そんな、幸せな決意を胸に。由那に手を引かれて、店を後にした。