「お待たせ、相変わらず着替えるの早いな……」
「ゆーしと一秒でも長くいたいもんっ。ふふふ、その点彼氏さんはまだまだ私への想いが小さいんじゃないかにゃ〜?」
「っ……しょ、精進します」
「よろしいっ! その気持ちは私へのイチャイチャ貢献度で測るとしよう!」
むふんっ、とたわわを張りながらそう言う由那は、まず手始めに、と。左手を差し出してきて、俺に気持ちの行動化を要求する。
当然、拒むわけもないので。というか、さっき文化祭回ってた時も結局ずっとそうだったし。一才の迷いも抵抗もなくその手を取った俺は、指を絡めて強く握り返す。
「えへへ、ゆーしと手を繋いでるとやっぱり落ち着くなぁ。じわぁって幸せが昇ってくる感じ。……好き」
「喜んでもらえたみたいで何よりだ。全く、うちの彼女さんは際限なく甘え尽くしてくるから大変だな」
「むぅ? 私を甘やかすの、大好きなくせにぃ。そんなこと言ってると甘やかされてあげないよ〜?」
「な、なんなんだその独特な脅迫は。ただその責めは……俺にはよく効く」
「ふふ〜ん! 彼氏さんの弱点は分析済みなのだ!」
甘え甘えられの関係解消という実質的な生殺与奪の権を握られた俺は、素直に従うことにしてそれ以上言い返すのはやめる。
由那のそれが脅しでも何でもなくただの冗談なことくらい、もちろん分かっている。だが彼女さんに甘えてもらえなくなったら、多分今の俺は癒しがなくなって壊れてしまうからな。それくらい、由那とのイチャイチャはもう日常に溶け込みすぎているのだ。
そしてきっとそれは、由那も。甘えて、甘やかしてもらうという行動が当たり前になり、その頻度は増すばかり。
彼女と付き合い始めて、キスをして。それが毎朝学校に行く前の日課になったけれど。最初はその時にしかしなかったものがやがて帰りの別れ際にもするようになり、昼休み二人きりの時にもするようになり。そして今ではもう、お互いの家に遊びに行った時やどこかへデートしに行った時など。とにかくどこへ行った時にもシている気がする。
一回一回の回数が増えたことも原因だ。初めは例えば朝ならそのタイミングで一回して学校に行っていたわけだが、今では大体三、四回。唇を合わせては離れてを繰り返し、死ぬほど成分補充をしてからではないともう一日のやる気が起こらない。
まあ結局、キスに限った話ではないけれど。お互い、それくらい多方面的なイチャイチャの頻度が増え続けている。いずれ本当に少し離れただけで禁断症状が出るようなレベルになってしまうのではないだろうか。
(けど……由那となら別に、それでもいいか)
「よし、どこ行きたい? どこでも何店舗でも付き合うぞ」
「ふへへっ、良い意気込みだよ彼氏さんっ♪ じゃあまずは全然予定通り行かなかった行きたいお店リストでまだ行ってないところ行こ! まずは縁日系から!!」
「縁日か。由那、運動音痴なんだからあまり身体使わないやつ選べよ?」
「むぅぅぅぅ!!? もぉ、音痴じゃないもん!! ちょっと足遅くて球技出来なくて泳ぐの下手くそなだけだもんっ!!!」
「それを人は運動音痴と言うんだよ……」
ぷんぷん、と怒る彼女を宥めながら。ひとまず縁日系が集まっている別校舎へと足を進める。
というか、コイツ泳げないのまだ克服してなかったのか。夏休みになったら海にもプールにも行くだろうし。教えてやらないとな……。