「お待たせしました〜! こちらオムライス二つです!!」
「お〜、美味そ!」
「ねーねー美人さん、あれやってよ! 萌え萌え〜ってやつ!」
「えぇ〜、恥ずかしいですよぉ。……でもやっちゃう!」
ここをメイド喫茶と勘違いしているのか。それとも、単に由那に目をつけたからか。
ニヤニヤと不快な笑みを浮かべる男組二人が、由那に無茶振りを仕掛ける。
(アイツら、何やってんだ……?)
憤りを感じると同時に、すぐに俺の頭の中には「由那を助けなければ」という指令信号が流れる。
が。由那は嫌な顔一つ見せずにケチャップの入ったボトルを一旦机の上に置くと、スゥ、と小さく息を吸って。とびっきりの笑顔と共に呪文をお見舞いする。
「美味しくなぁ〜れ! 萌え萌え、きゅんっ!♡」
「うひょ〜、最高! ノリ良い〜!!」
な、なんだあの生き物。可愛すぎやしないか……。
というかオイ、お客様お前らコラ。そこ変われよ。俺だってそんなことしてもらったことないんだぞ。
嫉妬と共に、つい無意識にムッとした視線を向けながら。俺は心の中でそう呟く。
だが、さすが由那と言うべきか。俺の彼女は、何でも言うことを聞くような子ではなかった。
「じゃあケチャップはこちらに置いておきますね〜。ごゆっくりどうぞ!」
「え? ちょ、待ってよ。ケチャップかけてくれないの? ほら、ハートマークでさ」
「そーそー。そこまでやって完成だよー?」
「え? あぁ〜……」
ポリポリ、と頬をかいてから。ペカッとした笑顔で、由那は言う。
「ごめんなさい、お客様。私がハートマークをあげられる相手はもう決まってて。その人以外には向けられないです〜!」
「へっ!?」
思わず、変な声が出てしまった。
そしてどうやらその言葉は俺をも巻き込み狙っていたものらしく。彼女は一瞬こちらへ振り向くと、満足そうな顔をしていた。
「……なんだよ、彼氏持ちか」
厄介客二人とも、一瞬目が合う。こんな返しをしたら何か言われてしまうんじゃないかと思ったが。案外すんなり引き下がってくれた二人は言われた通り、自分でケチャップをかけ始める。
(心配して損だったか。ったく……)
「えへへ、ゆーし不安そうな顔してたね。私のこと、心配してくれたの? それとも嫉妬〜?」
「う゛っ、お前なぁ。両方に決まってるだろ」
「にへへへへっ。ゆーしにならハートマーク、いつでも書いてあげるからね! 私の好きな人はゆーし一人だけだもん♪」
てててっ、と小走りでこちらへ戻ってきた由那は、そう告げてきて。ついつい可愛くて頭を撫でてしまう。
それを他のお客さんに見られていて少しクスクスと笑われたが、本能的なものには逆らえない。致し方なしだ。
「……って、もうこんな時間か。そろそろシフト終わりだな」
「えっ、もう終わり? なんかちょっと名残惜しいなぁ……」
「でも、まだ文化祭も回り足りないだろ?」
「ふふっ、もちろん! じゃあここからはウエイトレス由那ちゃんは終わりにして、ゆーしとイチャイチャラブラブする彼女さん由那ちゃんに戻っちゃお〜!」
「ん。俺からもぜひお願いしたいな。あと二時間、後悔しないように回ろう」
「お〜っ!!」
ウエイトレスのシフトを後続に引き継ぎ、俺たちは各々の更衣室へと消える。
(さて、あとは行きたいところ何処が残ってたっけな……)
高校一年生の文化祭最後の二時間。
大好きな彼女さんと、どこで何をして過ごそうか。