「じゃあ、またね二人とも。影ながら応援してるよ〜」
結局、お姫様抱っこをされた状態でチェキを二枚撮って私達の撮影は終わった。
私も寛司もその後元の制服に着替えて先輩からそれを受け取り、今に至る。
「コスプレ、楽しかったね。メイド姿の有美最高に可愛かった。本当、いい思い出になったよ」
「ん。まあ、私も……」
手渡されたチェキを見つめる。
ちゃっかりカメラ目線を決めている寛司と比べ、私はもはや前すら向いていない。
チェキの中の私が見ていたのは、寛司の顔。激しく赤面し、腕の中に抱かれながら。そうして耳まで真っ赤にしている私の横顔が、しっかりと撮影されていた。
(やっぱりコイツ、かっこいぃ……)
思わずチェキに参りそうになっていたことに気づき、ハッとなって目線を上げる。
すると、もう手遅れと言わんばかりに。寛司がどこか満足げな表情でこちらを見ていた。
「チェキ、いいね。有美も満足してくれてるみたいで嬉しいな」
「う、うるさいな……もう」
それにしても、チェキというものは初めて手にした。
一応存在は知っていたけれど、本当にカメラから写真が出てくるなんて。一見すればちゃんと現像する今のカメラよりも古い感じがあるけれど、今の女子高生がこのコンパクトなサイズ感とちょっと文化を逆行した感じに興味を惹かれるというのは分かる。
かく言う私も、中々悪くないなと思ってしまっていた。いやまあ、写真が写真なだけにチェキそのものに魅力を感じたのかどうかは分かりかねるところがあるが。
でも、やっぱりこう……手軽にスマホで撮る写真とは違う、何か特別感のようなものがあるようには感じる。
(このチェキ……どうしようかな)
プリクラのようなサイズならスマホのカバーにこっそり入れておくとかもできるけど、それをするにはこれは大きすぎる。手放さずに持っていたいという小っ恥ずかしい気持ちを持ちつつも……持ち歩いているのを寛司に見つかったらまた揶揄われそうだから、私だけが持ち歩いているという事実を知っておける場所がいい。
「俺、このチェキ大切に部屋に飾るね。写真立てまだあったかな……」
「ん゛っ。わ、私も飾ろう……かな」
「本当? 嬉しいな。せっかくだし写真立てもお揃いにする?」
「……うん。今日の帰り、買いに行こ」
……って、何を考えてるんだ私は。
チェキを持ち歩く? そんな、重い女の子みたいなこと。
ぶんぶんと頭を横に張って、雑念を振り切る。
確かに、持ち歩きたい気持ちがないわけじゃないけど。でも……部屋の机の上に写真立てで飾るのも、思い出の処理としては最高だ。
そして、何より────
(そんなことしなくても。寛司は、いつでも隣にいてくれるもん……)
本物がいるから。寂しさなんて、全部紛らわさせてくれる。ちょっと癪だけど、そういう信頼が私の中にはあった。
「は〜ぁ、なんかちょっとお腹空いてきちゃった。ね、三年生のクラス、スフレケーキ出してるらしいからさ。食べに行こ?」
「お、いいね。俺も小腹空いてきてたんだ。歩き回ってるからかな?」
「さぁ、ね。ほら、行くよ」
少なくとも私は、多分そうじゃないけど。
────ドキドキさせられっぱなしで、とにかく頭を使いすぎた。勉強をしていたら糖分が欲しくなるのと同じ。
好きを使いすぎて、栄養を吸われてしまった。本当……変な身体にされてしまったな。
昔は自分が誰かを好きになるなんて思いもしなかったのに。
今ではこんなに……狂おしいほど、コイツのことが大好きだ。