「はいは〜い、お二人さん。お熱いところ悪いんだけど、写真撮影はどうする? 勿論撮るだろうけど、スマホ? 有料になっちゃけどこっちでチェキも用意してるよ〜」
「しゃ、写真……」
「勿論撮るよね、有美。せっかくだしチェキもお願いしようよ」
「……ん」
写真なんて、撮られたくはなかったのに。
寛司の執事姿の写真……欲しい。チェキも。
どうせなら彼単体で映ってもらいたいところだけど、流石にそうはいかず。撮影スペースへと二人一緒に案内される。
一枚たったの三百円という安いチェキでしか収入の入らない店なのに、スペースは妙に気合が入っていた。
白の背景、小道具として椅子。あと光量を調節するための大きなライトがいくつか。
多分ここはうちのクラスとは違って、売り上げのことを一切気にしていないんだろう。確かに予算は一定金額学校から出るわけだし、その中でやりくりするならどれだけ赤字を出しても自分達に害は無い。
それなら、と自分達のやりたい店の内容に力を入れたのだろう。お金を貰って学校に少しでも返金するというのは、多分おまけ程度だ。衣装の数が数なだけに、確実にそのレンタル品の方が高いに決まっている。勿論、この撮影スペースを作るために使った雑費を含めればもっとだ。
「あ、スマホでもお願いします。シャッターボタン押すだけの状態にしておきますね」
「りょ〜か〜い! んじゃ二人とも、並んで並んで!」
寛司は先輩にスマホを手渡すと、私の隣に小走りで戻ってくる。
私の心はまだ、高まったまま。正直今の私じゃ寛司と少し見つめ合っただけでも卒倒してしまう自信がある。
それになのに彼は……顔が全く赤くない。
可愛い、と言ってくれた。似合っているとも。でも……
(私と同じくらい、寛司にもドキドキして欲しいな……)
きっとあれだ。この感情は後から冷静になって死ぬほど恥ずかしくなるやつだ。
分かっている。でも、一度芽生えてしまった物はもう消せない。
せっかく勇気を出してこんな格好をしているのだ。もっと……もっともっと、ドキドキさせたい。いつも私ばかり調子を狂わされていて、今も案の定。想定外のカウンターを喰らってしまい、結果的にはまた私ばかりだ。
寛司は今、何を考えているのだろう。どこまで私に夢中になってくれているのだろう。落ち着いているように見えるけど、心の内はどうなのか。
「あ、あの……寛司」
「ん? どうしたの?」
こんな、女の子みたいな感情。らしくないのに。
ダメだ。彼と出会って、日々を過ごして。何度も何度も、好きを伝え合って。
そんな日常を繰り返すうちに、私は……
「ドキドキ……してくれてる?」
こんな恥ずかしくて、面倒臭いことを。考えるようになってしまった。
寛司は私の言葉を聞いて、一瞬時が止まったように固まった。
そして……ふふっ、と軽い笑みを漏らす。
「な、なに笑って……」
「いや、ごめん。つい、ね。有美、さっきまであんなにメイド服嫌がってたのに、俺にドキドキしてもらいたかったんだ?」
「〜〜〜っ!? う、うううるさい。その……ああ、もうっ。当たり前、でしょ……せっかく着たんだもん。寛司に、喜んで欲しくて……っ」
何故こんなことを言わせるのか。気づけば私は心の内を簡単に吐露させられてしまっていて、言葉にしたこ後でそれに気づいてから恥ずかしさに胸を焼かれる。
ああ、まただ。また揶揄われてる。ペースを乱されてる。やっぱり、いつも私だけが死ぬほどドキドキさせられてて────
「不安にさせてごめんね。でも、大丈夫だよ。ほら……」
「えっ? ────熱っ!?」
そっと、寛司の右手が伸びてきて。私の左手に触れる。
その手は高熱があるんじゃないかと思うくらい強く火照っていて。さっき手袋越しに触れてきた手と同じものとは思えないくらい、熱い。
そしてそれが何を意味するのか。正体は、すぐに彼の口から言葉とされた。